All Chapters of 離婚は無効だ!もう一度、君を手に入れたい: Chapter 521 - Chapter 530

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第521話

藤堂沢は頷いた。この件は、藤堂グループによって、裏で揉み消されてた。このようなことが起きたため、藤堂沢は藤堂文人に自分の家に引っ越してくるように言った。最初は藤堂文人は遠慮していたが、藤堂沢は「あなたに何かあった方が、俺にとって面倒なんだ」と言った。藤堂文人はこの言葉を深く噛みしめた。運転手の小林は言った。「社長はあなたのことを心配しているんですよ!ああ、あの植田先生は普段はエリートだったのに、裸のまま残忍に殺されるなんて、想像するだけで胸が締め付けられます!」藤堂文人も思わず身震いした。彼らが邸宅に戻ったのは、午前3時近くだった。激しい雨もようやく止んでいた。藤堂文人は1階の客室に案内された。小林もその場に泊まることになった。小林は震えながら、「殺人事件なんて初めて見ましたよ。さっき運転して帰る時、足がずっと震えていました」と言った。藤堂文人は考えると、ますます恐怖を感じた。彼は、植田医師の死は、自分と関係があるという予感があった。藤堂沢は多くを語らず、そのまま2階へ上がり、寝室のドアを開けた。ドアを開けると、女性の甘い香りが漂ってきて、張り詰めた空気を和らげ、彼の心を落ち着かせた。九条薫はまだ眠っていなかった。ドアが開く音を聞き、彼女は起き上がってヘッドボードに寄りかかった。静かに、彼を見つめていた。寝室の電気は消えていて、リビングの明かりだけが差し込んでいたが、それでも彼の表情ははっきりと見えた。そこには、暗い影と何か得体の知れないものがあった。九条薫は、陣内瑠璃の件で何か問題が起きたのだと思った。彼女がちょうど尋ねようとした時、藤堂沢はジャケットを脱ぎ、ベッドの端に腰掛けると、彼女の顔を両手で包み込み、熱く、そして深くキスをした......九条薫は息が詰まるほどだった。彼が体を重ねたがっていると思った彼女は、彼の肩を押しのけながら、「沢、生理中なの」と小声で言った。彼は動きを止め、額を彼女の額につけ、黒い瞳で彼女をじっと見つめながら尋ねた。「生理じゃなければ、俺としたかったのか?この前は気持ち良かっただろ?薫、俺と一緒にいる時は、お前も女としての欲求があるのか?俺としたいと思っているのか?」九条薫は何も言えなかった。彼女は黙って彼の端正な顔を優しく撫でた。彼の肌は
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第522話

九条薫は頷いた。藤堂沢は彼女を呼び寄せ、彼女がそばに来ると、抱き寄せて、二人並んで大きなソファに横たわった......藤堂沢は少し考えてから、自分の疑念を九条薫に打ち明けた。証拠は何もなかったが、彼と九条薫は夫婦であり、この世で最も親しい仲だった。二人には、話し合えないことは何もなかった。九条薫は驚いた。「文恵おばさんを疑っているの?」彼女が驚くのも無理はなかった。杉田文恵は杉田家の自慢の娘であり、才能豊かで、姉の藤堂夫人よりも奔放で自由な人生を送っていた。そんな彼女が藤堂文人に執着し、妻子ある植田医師と不倫関係になり、しかもその場で彼を殺害したなど、とても信じられることではなかった。それは、にわかには信じがたいことだった。しかし、九条薫は藤堂沢を信じていた。彼が疑うからには、それなりの理由があるはずだ。彼女は藤堂沢を見ながら言った。「このこと、ご両親には......話したの?」藤堂沢は彼女の顔を優しく撫でながら、苦い笑みを浮かべた。「まだ、どう話せばいいか分からない。母には、長い間彼女が味わってきた苦しみや、耐えてきた時間......そのすべてが、妹が男を奪うために仕組んだことだったかもしれないなんて、どう伝えればいいんだ?」九条薫は黙り込んだ。藤堂沢もしばらく黙っていた。そして彼は突然、「明日、時也に連絡して、お前とおばさん、そして子供たちを根町に送る!」と言った。今の九条時也の異常なまでの警戒ぶりでは、彼の住んでいる場所にハエ一匹近寄れないだろう。九条薫と子供たちはそこで安全に過ごせるはずだ。彼は自分が心配しすぎていることは分かっていた。しかし、彼はあまりにも多くのことを経験してきた。もう二度と、失う苦しみを味わいたくない。もうこれ以上待ちたくもない。ただ、九条薫と子供たちと穏やかに暮らしたいのだ。九条薫は少し考えてから、「おばさんと相談してみる」と言った。彼女は藤堂沢を見つめ、何か言いたげだったが、結局何も言わなかった。実は、彼女は彼を心配していたが、ずっと遠慮して何も言えずにいた。優しい言葉は、なかなか口に出せなかった。言葉に出さなくとも、気持ちは伝わっていた。藤堂沢は彼女の気持ちをわからないわけがなかった。彼は何も言わず、ただ彼女を強く抱きしめ......そうやって、強く
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第523話

九条薫は思わず、彼をじっと見つめてしまった。ふと、藤堂沢は体を横に向け、黒い瞳で静かに彼女を見つめた。彼の視線は、底知れぬ湖のように深かった......九条薫の心臓が、高鳴った。彼女の心を見透かしたように、藤堂沢は小さく微笑んだ。藤堂文人は、見ていられないとばかりに目を逸らした。微妙な空気が流れているその時、庭に車の音が響き、しばらくすると使用人に連れられて藤堂夫人がやってきた。藤堂夫人は怒った顔をしていたので、きっと陣内瑠璃の件で怒っているのだろう。藤堂夫人は、九条薫がそこにいるとは思っていなかった。彼女は一瞬固まり、しばらくしてようやく「薫もいるのね!」と言葉を発した。九条薫は軽く微笑むだけだった。今もまだ、藤堂夫人を許すことができていなかった。彼女は立ち上がり、藤堂沢に「着替えてから帰るわ」と言った。藤堂沢には話したいことがあったので、彼は運転手に九条薫を送らせるように言ったが、彼女が出ていく際には、自ら玄関まで見送った。九条薫が車に乗り込もうとした時、藤堂沢は彼女の細い腕を掴み、優しい声で言った。「今週の土曜日に、言の学校でイベントがある。両親揃って参加することになっているから、忘れるなよ!」九条薫は驚いて言った。「いつそんな話になったの?私は聞いていないわ」藤堂沢は鼻で笑った。「お見合いに忙しくて、子供のことなど眼中にないだろう」彼の言葉は、嫉妬に満ちていた。九条薫は思わず彼の名前を呼んだ。「沢!」藤堂沢は彼女の細い腕を掴み、優しく撫でた。そこには、未練がましい気持ちが込められていた。彼は低い声で「もし用事がなければ、絶対にお前を帰さない」と言った。そう言いながら、彼は熱い視線を彼女に送った。それは、男の欲望だった。しかし九条薫は、冷静だった。彼女は静かに彼の手を振り払い、低い声で言った。「何か進展があれば、電話して......沢、気をつけて」彼女の優しさに、藤堂沢は心を動かされた。彼は思わず彼女の頬を撫でてから、彼女を車に乗せた。黒い車は、ゆっくりと邸宅を出て行った。藤堂沢はポケットから携帯を取り出し、番号をダイヤルした。電話が繋がると、彼は落ち着いた声で言った。「文恵おばさん、会えますか?」電話の相手は、まさに杉田文恵だった。杉田文恵は優しく微笑みな
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第524話

しかし、藤堂夫人は彼を許さず、さらにひどい言葉を浴びせ続けた。藤堂文人はついに堪忍袋の緒が切れた。「もう何年だよ!あなたは少しも変わっちゃいない!相変わらず私を責め立ててくるんだからな!」藤堂夫人が言い返そうとしたその時、玄関の方から、革靴が大理石の床に響く足音が、コツン、コツンと鮮やかに聞こえてきた。藤堂沢が戻ってきたのだ。藤堂文人夫妻は同時に口をつぐんだ。藤堂沢はゆっくりとリビングに入り、静かに二人を見つめ、少し間を置いてから言った。「どうしたんだ?さっきまであんなに盛り上がっていたのに......続けろよ、喧嘩するほど長生きするって言うだろ?」彼は2階へ着替えに行き、藤堂文人夫妻は互いに非難し合った。藤堂夫人は冷たく笑いながら言った。「文人、あなたは精神的に問題があるから、瑠璃のような女に引っかかるのよ」藤堂文人は焦って反論した。「彼女は今、拘留されているんだ!信じられないなら自分で調べてみろ」藤堂夫人は一瞬たじろぎ、そして、心の中に不安がよぎった......*9時、藤堂沢は社長室に入った。田中秘書は彼に仕事の報告をした。藤堂沢は手を挙げ一旦彼女の言葉を止めてから、そっと言った。「探偵を探してくれ。ある人を調べたいんだ」田中秘書は昨夜の事件と関係があると察し、自然な流れで誰を調査するのか尋ねた。藤堂沢は革張りの椅子の背もたれに体を預け、手で照明の光を遮りながら、静かに言った。「杉田文恵、俺の叔母だ。ここ1週間の彼女の足取りを調べてくれ。100%確実な情報が欲しい」田中秘書は驚愕した。社長が杉田文恵を植田医師殺害の容疑者として疑っているとは、彼女にとっては信じられないことだった......杉田文恵は名家出身で、かつて京市の有名な芸術家と結婚し、夫婦仲も良かった。結婚4年目で夫を亡くしたとはいえ、彼女が植田医師のような身分の人物に身を落とすとは考えにくい。あまりにも身分が違いすぎる。田中秘書は低い声で尋ねた。「社長......本当に間違いないでしょうか?」藤堂沢は少し姿勢を正し、静かに田中秘書を見つめ、静かに言った。「この件は口外するな。誰にも知られてはいけない。午前中にはすべての資料が欲しい」田中秘書は頷いた。彼女は藤堂沢に絶対の忠誠を誓っており、能力も高かったた
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第525話

藤堂文人は、そこに座ったまま、しばらく身動きできずに居た。部長は彼の情けない様子を見ると、ますます苛立ち、彼の腕を掴みながら嘲笑った。「まだ居座るつもりか!ここを自分の家とでも思ってるのか、それとも、藤堂社長を息子とでも思っているのかね?いいか、今日は確実に辞めてもらうからな!」温厚な藤堂文人は、こんな風に扱われたことがなかった。彼は静かに言った。「沢は私の息子です!」部長は呆気にとられた。そして、藤堂文人を指さして大笑いしながら嘲った。「まさか、頭がおかしくなったんじゃないだろうな!社長がお前の息子だって?俺だって社長は俺の父親だって言えるぞ!」オフィスの皆は、藤堂文人の頭がおかしいと笑っていた。ちょうどその時、ドアの向こうから軽快な足音が聞こえ、すぐに田中秘書と人事部の二人の部長が姿を現した。二人の部長は複雑な表情をしていた。彼らは入ってくるとすぐに人事異動を告げた。「本日付で、藤堂文人は社長室へ異動となります」藤堂文人は驚いて言った。「いいや、ここでちゃんとやれてるから!」田中秘書は近づき、優しい声で言った。「社長のご意向です。社長はあなたを側に置いておきたいとおっしゃっています」藤堂文人はため息をついた。「ああ、普通の生活がしたいと言ったのに!沢は本当に......」彼のデスクの上には、もともとあまり荷物がなかった。田中秘書が直々に片付けてくれるなんて、これほど優遇されている者は、社内でも未だかつていなかったはずだ。なにせ田中秘書は社長専属の秘書で、役員クラスでさえ彼女に指図することはあまりできないのだ。彼らは小声で話し合い、藤堂文人は社長の遠い親戚ではないかと噂していた。田中秘書はそれを聞きつけ、眉をひそめた。「何を言っているんですか?こちらは社長のお父様、以前の藤堂社長です!」全員が言葉を失った。さっきの部長は、その場に倒れこんでしまった......こうして、グループ全体で、文書課で働いていた藤堂文人が、社長の父親だったということが知れ渡った。......それからの数日間、藤堂沢は事件のことで慌ただしく奔走していた。しかし、警察には未だ手がかりがなかった。あっという間に土曜日になり、藤堂言の学校のイベントの日がやってきた。朝8時、藤堂沢は自ら九条薫と藤堂言を迎えに行っ
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第526話

藤堂沢は彼女の小さな頬をつまみ、そして思わず抱きしめた。小さな体には、ほどよく肉がついていた。彼は、神様が償いのチャンス、そして再び九条薫と子供たちを取り戻せたことに感謝していた。藤堂言は藤堂沢の気持ちを感じ取り、優しく彼の髪を撫でた。藤堂沢は再び彼女にキスをした。彼には二人の子供がいたが、彼にとって藤堂言は特別な存在だった。最初の子供であるだけでなく、彼が最も申し訳なく思っている子供でもあった。あの時、彼が九条薫にしたことがなければ、藤堂言は病気にならず、あんなに苦しむこともなかっただろう。愛情だけでなく、罪悪感も抱いていた。そばで、九条薫は静かに見つめていた。彼女の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。帰る途中、彼女は何度か藤堂沢に尋ねようとしたが、結局何も言えずにいた。しばらくした後......彼女が我に返ると、彼はすでに車を邸宅の地下駐車場に停めていた。九条薫はあまり深く考えず、静かに尋ねた。「会社には行かないの?」言葉が終わると同時に、藤堂沢はシートベルトを外し、彼女の首を抱き寄せてキスをした......深いキスをしながら、彼女の体を愛撫していく。九条薫が彼の指に反応して声を漏らすと、彼は彼女の唇に自分の唇を重ね、震える声で囁いた。「生理が終わったんだな。触れただけで分かる」九条薫は恥ずかしさで顔を赤らめ、藤堂沢を押しのけながら、低い声で言った。「さっきまで悲しそうだったのに、急にどうしたの......」「欲しい!薫、お前欲しいんだ、頼む!」言葉ではお願いをしているものの、彼の行動には少しのためらいもなく、そう言いながら九条薫を後部座席まで抱きかかえていた......そして、まもなく、九条薫のシルクのドレスはするりと脱がされ、下に落ちたのだった。藤堂沢は彼女の体にひれ伏しながら、絶妙なタイミングで彼女と深く結ばれた。黒いベントレーの車体は、リズミカルに揺れていた。九条薫は少しむっとして、彼の整った顔を撫でながら、呟いた。「あなた、一体どうしたの?どうして車の中でばかり......」「待てなかったんだ!」藤堂沢は少し照れくさそうに、彼女には言わなかったが、今日彼女がこのドレスを着ているのを見た瞬間から、こうして彼女を抱きたいと思っていたのだ。彼が言わなくても、九条薫はすぐに察しがつ
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第527話

藤堂沢は彼女の電話をかけたが、九条薫の携帯は、ずっと話し中だった......悪い予感が的中した。藤堂沢は急いで家に戻り、別の車の鍵を持って追いかけたが、住宅街を出る頃には、九条薫の乗った黒いベントレーの姿はどこにも見当たらなかった。車内、藤堂沢の顔は引きつっていた。彼はすぐに幼稚園に電話をかけ、先生に藤堂言の様子を見てくれるよう頼んだ。5分後、先生は酷く取り乱し、泣きそうな声で電話してきた。「藤堂さん、言がいません!さっきまで......お昼寝をしていたのに!」藤堂沢は、思わず携帯を落としそうになった。彼は、杉田文恵が藤堂言を連れ去ったと確信していた。前回、自分が杉田文恵を疑った時、彼女は時間差トリックを使い、自分に彼女が京市にいると思わせた......実際のところ、「杉田文恵」は確かには京市にいた。正確に言えば、この世には杉田文恵が一人ではないということだ。あの梅の花の模様は、彼女たちのシンボルだった。京市にいたのは、見かけが似ているだけの偽物だったが、それだけで簡単に自分を騙すことができた......そして本物の杉田文恵、自分の叔母はずっとB市にいたのだ。彼女が植田医師を殺し、藤堂文人の薬をすり替えたのだ。20年以上もの間、彼女はまるで毒蝮のように藤堂文人に付きまとい、そして今、藤堂言と九条薫を連れ去った。彼女は一体何を企んでいるんだ?10分後、最寄りの交通管制センター。捜査員はB市全域の交通監視カメラの映像を調べ、九条薫の現在の居場所を探していたが、それは容易ではなかった。相手は非常に狡猾で、九条薫に複雑なルートを指示しており、追跡が困難だった。約40分後、ようやく手がかりが掴めた。「奥様は室山方面へ向かっています!」藤堂沢は拳を握りしめ、外へ歩きながら言った。「新しい情報があれば、すぐに連絡をくれ」藤堂沢はB市随一の富豪だった。彼の妻と娘の失踪に、関係各所は緊張感を高め、10台以上のパトカーが室山へ向かった............室山は海に面しており、地形が複雑だった。九条薫は電話の指示に従って山奥深く車を走らせ、迷路のような道をどれほど進んだだろうか、ようやく路肩に車を停めると、電話から女の声が聞こえてきた。「そのまま電話を切らずに脇の洞窟へ進め」九条薫はエンジンを切り
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第528話

杉田文恵は冷ややかに笑った。「まさか、私が彼を好きだと思った?」「いいえ、ただ姉さんが彼に夢中になっているのが気に入らなかっただけ。二人を別れさせたくて仕組んだことが、うまくいったのよ。狙い通り、私が仕掛けた誤解で、あの間抜けな義兄は家出をしてしまった。だけど、それで彼に近けることができても、文人のあの石頭が......私がどんなに誘惑しても、全然なびかなかった!ここ何年も、私は彼のそばで使用人みたいに尽くしてきたのに、彼は私をまともに見ようともしなかった。ましてや、男女の関係になるなんて、もてのほかだったわ!」「まあいいわ、姉さんの性格じゃ、誰だって耐えられないもの!」「でも、姉さんの大切な息子と薫は、ラブラブじゃない。見ているだけでムカつく......だから、二人をこのまま幸せにはさせないわ!」「姉さん、知っている?私が殺した男たちは皆、奥さんと仲睦まじかったのよ。でも、私と関係を持った途端、みんな薄情な男になった。家では奥さんの相手をしながら、私とは情事に溺れた。そんな男たちは、死んで当然よ!」......藤堂夫人は憎しみを込めて罵った。「あなたって本当に、きちがいだわ!」「そうよ、私はきちがいよ!」それを言われても杉田文恵は全く気にせず、九条薫にロープを投げた。「自分で足首を縛って、両手を上げろ......大人しく私の言うことを聞けば、言もこのばばあも傷つけたりはしないわ」九条薫はじっと彼女を見つめ、動かなかった。すると杉田文恵は突然暴走し、手に持ったナイフを藤堂言の首に突きつけた、突端に、言の肌から血が滲み出てきた......藤堂言は恐怖のあまり身動ができず、泣き声さえ上げることができなかった。九条薫はわずかに瞼を動かしながら、声を張り詰めて「わかった!」と言った。杉田文恵は彼女を見つめ、固くロープを結んだ。九条薫が簡単にほどける結び方ではないことを確認してから、ようやく藤堂言から手を離した。そして、彼女は箱を開けた。中には8本の薬剤と注射器が入っていた。杉田文恵の目は、興奮で輝いていた。彼女は薬液を注射器に吸い取りながら、そっと言った。「これが何か分かる?神経細胞を広範囲に破壊する禁止薬物よ。たった一発打てば、薫は沢のことを永遠に忘れてしまう。そうすれば二人に幸せな未来は訪れなくなる!姉さん
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第529話

そう言うと、杉田文恵の体は震え始め、彼女は自分の身に起きた出来事を語り始めた。「私もかつては純粋で優しい人間だったのよ!」「結婚後、私と阿部新太(あべ しんた)は小さな女の子を養子に迎えたの。その子は綺麗で純真で、私は彼女に愛情を注ぎ込んだ......でも、数年後、彼女が美しく成長した時、まさか夫と寝るとは思ってもみなかった!」「私の夫は、養女と関係を持ったのよ!」「姉さん、知っている?あの時、その女は18歳で、新太は40歳だった。私が選んだベッドの上で、二人がどんな風に体を重ね、どんな甘い言葉を囁き合っていたか、この目でしっかり見てきたわ」「新太は彼女に、一番愛していると言ったのよ!」......杉田文恵は涙を流しながら笑った。「彼は、一番愛しているのは彼女だと言った!じゃあ、私は一体なんなの?年の取った醜い家政婦か使用人なわけ?二人がいつから関係を持ったなんて、考えたくもなかった。一体いつから新太があの女に惹かれたかなんて、考えたくもない!」「彼は、彼女といると特別な感じがすると言ったのよ!」「私は綺麗じゃないの?」「私は彼を殺した。あの淫らな女も殺した。彼女の白い体を汚水池に捨て、腐らせてやった......あの時は、本当に気持ちが良かった!」......藤堂夫人は吐き気を催した。「あんた、イカれてるわ!」杉田文恵は彼女を無視した。彼女は九条薫に向かって歩き、不気味な笑みを浮かべながら言った。「それに比べて、私はあなたたちにどれだけ優しくしていることか!」彼女は九条薫の首を掴み、絶望に満ちた彼女の目の前で、薬液を腕に注射した。藤堂夫人は悲鳴を上げた。「彼女に何をするの!」藤堂言は泣きながらママを呼んだ。九条薫の目は絶望に染まりながらも、どこかで一筋の平静を保とうとしていた。彼女は杉田文恵を見つめ、そっと尋ねた。「文恵おばさん、もしあなたが記憶を失ったら、もっと辛くなるんじゃない?だって阿部さんを愛し、憎んだことさえ忘れてしまうから!」杉田文恵は一瞬たじろいだ。九条薫は注射器を掴み、力任せに引き抜くと、杉田文恵が信じられないという顔で見つめる中、彼女の喉に突き刺した......血が噴き出した。杉田文恵はもがき苦しみ、九条薫の目を睨みつけた。九条薫は足元のロープをほどいた。彼女は
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第530話

意識が朦朧となり、視界がぼやけてきた。耳元には、藤堂言が泣きながら「ママ」と呼ぶ声が聞こえる。まだ死ねない、九条薫はそう思った。藤堂言もいる、藤堂群もいる......そして藤堂沢もいる。今日、仲直りした二人は、あれほど激しく互いを求め合っていたのだから、これから先も数えきれないほどの未来が待っているはず......藤堂沢は自分に「良いお年を」と言ってくれた。それはただの挨拶だけでなく、一種の約束のようでもあった。彼女は、彼がその約束を果たしてくれることをどれほど願ったことだろう。一緒に子供たちの成長を見守り、一緒に白髪になるまで生きていきたかった......やっと藤堂沢とやり直すことができたのに、やっと手に入れた愛だったのに。彼女は、どれほど無念だっただろうか。しかし、薬を注射され、大量に出血している彼女は、もう助からないかもしれない。彼女はこの世界を、子供たちをどれほど恋しく思っていたのだろう。どれほど別れが惜しかったことだろう......でも、彼女は藤堂沢との約束をもう果たせないかもしれない。もう邸宅にも戻れないし、彼の妻としてもいられなくなるだろう。藤堂沢は子供たちが大好きだから、きっと子供たちの成長を見守ってくれる。きっと、大切に育ててくれる。......九条薫は杉田文恵を抱きしめ、残る力を振り絞って、洞窟の出口へとよろめきながら走っていった。外は断崖絶壁、彼女も怖かった。彼女も美しくありたかった。かつては両親の可愛いお姫様だった。でも、今、自分の命と引き換えに藤堂言が助かるのなら、彼女は喜んでそうするだろう。その瞬間、藤堂夫人は何かを悟ったようだった。彼女は泣き叫んだ。「薫!やめて!お願い!」しかし九条薫は、彼女を悲しげな眼差しを向けながら最後に唇で軽く、許してあげる、とだけ残した。最後の最後で、九条薫は許すことを選び、「おばさん!」と呼びかけた。藤堂夫人は悲しみに泣き崩れた。彼女は拘束されていたが、体を引きずって洞窟の外へ出た......そして、九条薫が杉田文恵を抱きかかえたまま、崖から身を投げ出すのを見た。九条薫は、藤堂夫人と藤堂言に生きる道を与えたのだ。藤堂夫人は悲鳴を上げた......その瞬間、彼女の世界は崩壊した。後を追うように洞窟から這い出てきて
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