彼女はふいに河野誠を見かけた。コンビニの前で、河野誠は若い女性を支えていた。女性のお腹が大きくなっていたので、二人は結婚しているのだろう。河野誠はベビー用品の入った袋を提げていた。水谷苑の姿を見かけた瞬間、河野誠は硬直し、持っていた袋を落としてしまった。彼の妻は、向かい側に立つ水谷苑を見た。それは美しく、気品のある、若い女性だった。女とは敏感な生き物で、妻はすぐさま、自分夫がかつてこの女を好きだったのだとわかった。彼女は静かに夫に尋ねた。「あなたの知り合い?」河野誠は水谷苑から目を離さなかった。生きている間に彼女に会えるとは思っていなかった。九条時也にひどい目に遭わされて、もしかしたら、もう歩けない体になっているかもしれないと思っていたのに。まさか、こうして再会できるとは。彼女は相変わらず、か弱く、美しかった。それは高価な服を身にまとっても、隠し切れない可憐さだった。河野誠の目に涙が浮かんだ。彼は落とした荷物を拾い上げ、妻に向かって微笑んだ。「違うよ......知らない人だ」彼は妻を支えながら、水谷苑とすれ違った。本当のところ、彼自身が一番よくわかっていたのだ。水谷苑はこれまで一度も彼を愛したことがないことを。彼女がここに来たのは、自分が元気でいるかを確認するためだろう。確かに、今の彼は楽しく過ごしせている。数年前、九条薫からもらったお金で家を買って、怪我の手術も受けられた......結婚して、もうすぐ子供が生まれる。所詮自分には、水谷苑を愛する資格などなかったのだと彼は密かに思った。だって、彼女を守ることさえできなかったのだから。自分もまた、普通の人間だ。お金を受け取ってからも、何度も彼女の泣き叫ぶ夢を見たし、彼女に会いに行きたいという衝動に駆られたこともあったが、結局会ったところで自分はなにもできないだろう。下手したら、今度は両足を失うはめになるかもしれない。自分は、そういう弱い男だった。愛に狂うのは、一度でたくさんだ。彼らはすれ違い、背中合わせになった二人は、まるで過去を捨ててしまったかのようだった。水谷苑は彼を呼び止めなかった。説明もしなかった。彼が幸せに暮らしているのを見て、少しだけ気が楽になった......向こうから、長身の男がゆっくりと歩いてきた。九条時
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