彼は許してくれなかった。そもそも彼には情けの欠片もなかったのだ。自分はなぜ愚かにも彼が情けをかけてくれると思ったのだろうか。食事を拒めば、彼が折れて自分を解放してくれるとでも思ったのだろうか......自分を過大評価しすぎていた。そして、九条時也を高くくっていたのよ、と水谷苑は思った。彼には人情などない。ただの人でなしだ。水谷苑の目から、かつての光が消えた。彼女は静かに横たわったまま、食べる気力も絶食をする気力も失っていた。自分自身にも先行きの見えない人生にも絶望したのだ。彼女の目尻には、絶望の涙が流れていた。九条時也は彼女が目を覚ましたのを見て、声をかけようとしたが、彼女の涙を見て、再び心を鬼にした。山下医師も、九条時也のかかりつけの人だった。彼は九条時也の気難しい性格を知っていたから、普段なら彼からの依頼は受けないのだが、一回の往診で200万円という高額な報酬ともなれば、それを断る医師などいないだろう。山下医師は、水谷苑に同情していた。彼はできるだけ優しく言った。「まだお若いのに、体を大切にしてください。何事も命あってこそ成し遂げるのですよ。奥様が元気になれば、きっと明るい未来が待っています」水谷苑は静かに瞬きをした。九条時也は冷たく言った。「俺は、精神科医を呼んだわけではない」山下医師も負けていなかった。彼は毅然と言い放った。「奥様はかなり深刻な精神的問題を抱えていらっしゃるようですな。それに、九条様にも、深刻な精神的問題があるように見えます。病気は、治さなければいけません」九条時也の表情は冷たく、周りの空気が凍りついたようだった。山下医師はそれ以上何も言えなかった。点滴が終わると、彼は道具箱を持ってそそくさと帰って行った。他の人がいなくなってから、九条時也は水谷苑に目を向けた。彼女には、反省の色は全く見えず、ただ天井をぼんやりと見つめ、無言の抵抗を続けていた。その夜、彼女は2時間も風呂場にこもった。何度も何度も体を洗い、肌が赤くなるまで、まるで皮が剥けそうになるまで、ゴシゴシと擦り続けた。それでも、まだ自分が汚れているように感じた。九条時也に触れられたことで、自分も汚れてしまったように感じたのだ。二人の膠着状態は、一週間続いた。正月は、そんな重苦しい雰囲気の中
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