All Chapters of 離婚は無効だ！もう一度、君を手に入れたい: Chapter 631 - Chapter 640

結局、九条時也の思い通りになってしまった。薄いカーテン越しに朝の光が差し込み、寝室は柔らかな光に包まれていた......白いベッドの上で、華奢で美しい女性が仰向けに横たわっていた。無表情な彼女の傍らで、男は久しぶりのセックスに夢中になっていた。そして彼にしては珍しく、優しかった。ピンポン。ピンポン。......水谷苑の携帯に、何度もメッセージが届いた。彼女は男の動きに耐えながら、震える手で携帯を取ろうとした。しかし、体が動いたことで男はさらに興奮し、激しく彼女を求めた......九条時也は携帯を叩き落とし、彼女に見せまいとした。彼は熱い息を吹きかけながら、嗄れた声で言った。「集中しろ！」しかし水谷苑には、何も感じることができなかった――。自分はもうすぐ死ぬというのに、この不実な男に、どうして快感を感じられるだろうか？ただ、この激しいセックスの中で、心を閉ざすしかなかった。そうすれば、苦しまずに済むから......九条時也はセックスに溺れていたが、水谷苑の心は、そこにはなかった。白いシーツに顔を擦り付け、涙を流しながら、床に落ちた携帯を再び手に取った......彼の激しい動きに揺さぶられながらも、震える手で携帯を開いた。知らない人から、動画が何本か送られてきていた。再生ボタンを押すと、男女が絡み合う映像が流れた。九条時也と田中詩織が、ホテルで過ごした三日間。水谷苑は静かに瞬きをした。噂で聞くのと、実際に目にするのとでは、全く違う。一度は見た映像なのに、吐き気がこみ上げてきた。彼女はどこからか力を振り絞り、彼を押しのけた。そして水谷苑がトイレに駆け込み、激しく吐いている時、九条時也もようやく動画を目にした。誰が送ってきたのか、考えるまでもない......田中詩織が、水谷苑を挑発し、自分の地位をアピールするためにやったのだろう。地位......こんな後ろめたい関係に、どういう地位があるんだっていうんだ。本来であれば、水谷苑に知られても、彼は何とも思わないだろう。しかし、田中詩織に自分の権威に挑戦されるのは許せない。男というのは、そういうものだ。九条時也は怒り、動画を削除し、送信者のアカウントをブロックした。セックスは、後味の悪い形で終わった。九条時也は体を拭

B市、ある高級住宅街。黒塗りのロールスロイスがマンションの前にゆっくりと停車した。九条時也はすぐに車から降りず、中でタバコを一本吸っていた。水谷苑が自分の足元にひざまずき、震える声で言った言葉を、彼は思い出していた。彼女は九条津帆を手放してほしいと必死に訴えていた。九条津帆を水谷燕に育ててほしい、九条薫と藤堂沢に育ててほしいと。九条津帆を自分の傍に置いておきたくないのだ......彼女にとって、自分は最低な男なのだろう。煙が細く立ち上っていた。煙が消えると、九条時也は車のドアを開けて降りた。......彼は考え事をしていたので、エレベーターを使わず、非常階段を22階まで歩いて上がった。そして、田中詩織の部屋の前で、インターホンを鳴らした。しばらくして、田中詩織がドアを開けた。彼女は念入りに化粧をし、セクシーなネグリジェを着ていた......ドアにもたれかかる姿も、男を誘惑するには十分だった。彼女は九条時也の首に抱きつき、甘えるように言った。「何日も来なかったじゃない」しかし、次の瞬間、彼女の首は掴まれた。九条時也は力を込めて、田中詩織の首を締め上げた。女の柔らかい体が、そんな乱暴に扱われて、耐えられるはずもなかった。田中詩織の体は崩れ落ちそうだった。息ができなくなり、美しい顔が紫色になった。彼女は必死に九条時也の手を叩いた。しかし、男は容赦しなかった。彼は無表情で彼女を見つめ、恐ろしい声で言った。「お前は俺たちのことがそんなに自慢なのか？そんなに世の中に広めたいのか？お前が自分から休憩室に来て俺を誘ったんだろう？お前の体と引き換えに俺は金を払った......ただの取引じゃないか！苑に嫌がらせをして、俺がお前を愛しているアピールでもしたいのか？詩織、頭がおかしいんじゃないか？」だけど田中詩織には、彼の腕を叩き続けることしかできなかった。彼女の目に恐怖が浮かんだ。こんな九条時也を見るのは初めてだった。もし、殺人が罪にならないのなら、彼は今すぐにでも自分を殺すだろう。そうだ、彼は自分を殺したいのだ。田中詩織の心は凍りついた。彼女は彼を好きだった。とても好きだった。ハンサムで、仕事もできて、ベッドではワイルド。こんな男に、惚れない女がいるだろうか......まして、何年も一緒にい

背中は冷や汗でびっしょりだった。周囲の罵声は聞こえなくなり、彼の世界は静まり返った......まるで、あの日、香市の小さな教会に戻ったようだった。神聖な光が差し込み、ウェディングドレスを着た水谷苑が、花束を持って祭壇の前に立っていた。革靴の音が、磨き上げられた床に響いた。そして白い鳩が羽ばたいた。その様子はまるで神の思し召しがあったかのようだ。神聖なる聖歌が響く中、白い結婚指輪が彼女の指にはめられた。水谷苑は顔を上げ、薄いベール越しに、小さな声で言った。「結婚したのね。時也、これからは、私をもっと大切にしてね」なぜ、彼女は自分をもっと大切にしてほしいと願ったのか？兄に内緒で結婚したからだ。もし水谷燕に知られたら、きっと、ひどく怒られるだろう。あの時、彼女には彼以外に......もう誰もいなかった。......車の窓を、誰かが激しく叩いた。窓の外の男が、車を移動させろと怒鳴っていた。九条時也は窓の外をちらりと見ると、男は唾を飲み込んだ。九条時也は視線を戻し、アクセルを踏んで車を走らせた......彼は川沿いを、目的もなく走っていた。午後4時、彼は九条薫の住む別荘に着いた。ちょうど日曜日で、九条薫と藤堂沢は家にいた。九条薫は藤堂言にバイオリンを教えていて、藤堂沢は藤堂群と遊んでいた。その傍らには、田中秘書が持ってきたばかりの緊急の書類が置かれていたのだった。庭に、車の音が響いた。使用人が来て、「奥様、時也様がいらっしゃいました」と告げた。九条薫は少し驚いた。バイオリンの練習をサボろうとしていた藤堂言は、「おじさんだ！」と喜んだ。九条薫が彼女を睨むと、藤堂言は慌ててバイオリンを構え、練習を再開した......九条時也は玄関を入ると、温かい家族の風景を目にした。彼の心は複雑だった。藤堂沢は九条津帆の誕生日を覚えていて、九条薫に「今夜、誕生日プレゼントを持って、苑と子供の様子を見に行こうか」と話していたところだった。九条薫も同じ考えだった。男同士だからこそ、分かり合えるものもあった。藤堂沢は、九条時也の不機嫌な様子に気づいた。彼は皮肉っぽく言った。「津帆くんの誕生日なのに、家で祝ってやらずに、ここに来るなんてどうしたんだ？苑に追い出されたのか？」九条時也と水

彼女は落ち着いていて、まるで何もなかったかのようだった。九条時也は携帯に触れ、水谷苑に電話をかけたい、彼女の聞きたいと思った。しかし、彼女に連絡する勇気が出なかった。彼は1時までオフィスにいて、ようやく車の鍵を持って帰路についた。真夜中に別荘に戻ると、使用人がまだ起きていて、彼を出迎えた。「今日の午後、奥様は一人で長い時間、書斎にいらっしゃいました」と小声で言った。九条時也はしばらく黙った後、「夕食は食べたのか？」と尋ねた。「食べましたよ」使用人はため息をついて言った。「今日は津帆様の誕生日ですから、どんなに不機嫌でも、津帆様のためにケーキを少しは召し上がりました......奥様は、本当に津帆様を可愛がっていらっしゃいます」九条時也は頷いた。彼は階段を上り、二階へ向かった............水谷苑はリビングで、九条津帆が8歳の時に着るためのセーターを編んでいた。窓の外は、月明かりに照らされてぼんやりとしていた......夜遅くまで編み物を続け、目は充血していた。それでも彼女は手を止めず、昼夜を問わず九条津帆の服を編んでいた。下腹部が痛む時は、鎮痛剤を二錠飲む。痛みがひどい時は、ベッドで横になって少し休む。そしてまた、九条津帆の服を編み始める。庭に車の音が聞こえ、水谷苑は九条時也が帰って来たことを知った。しかし、彼女は顔を上げなかった。彼女の心は穏やかで、何も感じていなかった。寝室のドアが開き、九条時也がそこに立って、彼女をじっと見つめていた。彼の目には、罪悪感と、彼女と仲直りをしたいという気持ちが見て取れた。水谷苑は彼に目を向け、彼がすっかり穏やかになった様子に、思わず苦笑いした。彼女は、もう子供ではない。彼の考えがわかった。案の定、九条時也は彼女の視線を感じながら、ゆっくりと部屋に入り......彼女の前にしゃがみ込み、彼女が編んでいるセーターに優しく触れた。彼の声はとても優しかった。そして言った。「津帆に編んでいるのか？苑、俺にも一枚、編んでくれ」長い間、心が彷徨っていたのだろう。心から家庭に戻りたい、あの頃の気持ちを取り戻したいと思った彼は、ゆっくりと水谷苑の膝に頭を乗せた......これほど、夫婦らしい瞬間はなかった。しかし、失った時間は戻らな

やっぱり九条時也は無情だった。田中詩織はプライドを捨て、彼に訴えた。「お願い、お願いだから、これまでのことを水に流して、私を見逃して。あなたが許してくれないと、私は仕事も見つからないの」彼女は泣きじゃくりながら言った。「私の彼も家の圧力に負けて、私と別れてしまったんだ！私にはもう、何も残っていない！」しかし、九条時也の心は鬼のようだった。彼は冷たく言い放った。「自業自得だろう？俺に見逃してくれとかほざく前に,お前自身が自分に逃げ道を残したのか？」そういうと彼は夕暮れの中で、タバコに火をつけた。その姿が冷酷無情そのものだった。かつて彼女が愛した男とは、まるで別人だった。青白い煙がゆっくりと立ち上り、風に流されて消えていくなか、九条時也の声は更に冷たかった。「B市から出て行け。二度と、この街に姿を現すな」田中詩織は思わず後ずさりした。彼女は信じられないという目で彼を見つめ、涙声で言った。「本当に、そこまで私を追い詰めるの？B市を出たら、私には何も残らない。家族も、仕事も、人脈も、全てここにしかないのに、私をB市から出て行けと言うの？」彼女はさらに何か言おうとしたが、彼は聞く耳を持たなかった。彼はタバコの火を消し、玄関へ向かおうとした......田中詩織は彼に駆け寄り、腕を掴んで「時也、お願い、お願いだから......あの時、私は......」と訴えようとしたが、九条時也は彼女を振り払った。そして、家の中に入りながら、使用人に言った。「彼女を追い出せ。今後、俺の許可なく、彼女を家に入れるな」使用人が二人、田中詩織を連れて行った。田中詩織は家の外に放り出された。中に入ろうとしたが、黒い彫刻が施された門は、彼女の目の前でゆっくりと閉まった......九条時也の冷酷さを象徴するかのように。彼女はその門を見つめながら、力が抜けたように笑った。......九条時也はリビングに入ったが、水谷苑はいなかった。高橋は言った。「奥様は二階にいらっしゃいます......最近、奥様の体調が優れなくて、あまり外出なさっていません。ずっと、家でセーターばかり編んでいらっしゃいます。奥様のことを本当に大切に思っているなら、気分転換にどこかへ連れて行ってあげてください。ずっと家に閉じこもっていると、余計に病気が