九条薫は顔を上げ、泣きそうな声で言った。「お兄さん、苑がここに残りたいかどうか、ちゃんと彼女の気持ちを聞いて!こんな風に縛り付けるの、昔の私が送っていた生活と何が違うの?だから、お願い、苑を自由にさせてあげてよ。今まであなたにお願いなんてしたことなかったけどこれだけはお願い、聞いて欲しいの......もし彼女が助かるなら、このまま津帆くんと穏やかな生活を送らせてあげたらいいじゃない。苑はもうこれまで十分苦しんだのよ......」兄妹が水谷苑のために言い争うのは、これで二度目だった。九条時也は九条薫をとても可愛がっていた。彼女の心を傷つけたくはなかったが、水谷苑を手放すこともできなかった。最後に彼は電話を切り、操縦桿を引いた。ヘリコプターは轟音を立てて、青空へと飛び立った......九条薫の姿はどんどん小さくなり、彼女はまだ九条時也を呼び続けていた。「お兄さん。お兄さん、忘れたの?刑務所から出てきた時、私の結婚生活をどれだけ心配してくれたか。沢と何度も喧嘩したじゃない。なのに、どうして苑のことは大切にできないの?お兄さん、私は苑が不憫なだけじゃない。お兄さんをも不憫に思うの。あなたには愛のない結婚生活に縛られて、自分の首を絞めるような真似をしてほしくないの。苑はもうお兄さんのことを愛してない、だからもう無理強いしないで。彼女はもう愛してないから、死のうとしているのよ」その言葉が漂う中、九条薫の姿は次第に見えなくなった。ただ一滴の涙が、九条時也の心に落ちた。......香市仰徳病院。病棟の最上階を、九条時也が貸し切った。各エレベーターホールには警備員が配置され、虫一匹容易には入れない厳戒態勢だった。水谷苑が目を覚ましたのは、午後4時だった。真っ白な壁、かすかな消毒液の匂い、そして、傍らで見守ってくれている人がいた。「起きたか?」九条時也の声は少し嗄れていたが、微かに優しさが感じられた。彼は彼女を見つめ、水谷苑の唇が小さく動くと、彼女の意図を察して言った。「津帆は隣の部屋にいる。使用人が面倒を見ているから安心しろ」水谷苑はハッとして目を閉じた。ちょうどその時、太田秘書が保温容器を持って入ってきた。彼女は気まずい雰囲気を察知し、笑顔で言った。「高橋さんがお粥を作ってくれました。栄養たっぷりで
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