All Chapters of (改訂版)夜勤族の妄想物語: Chapter 461 - Chapter 470

482 Chapters

6. 「あの日の僕ら2」㊾

-㊾ 早すぎる再訪と突然の知らせ- 大学病院の救急治療室の前の廊下で美麗の復帰を今か今かと待っていた一同は、美麗の意識が戻ったという知らせを受けて治療室内へと向かったが結愛と光明はその場で足を止めた。守「おい、何やってんだよ。」結愛「俺達の所為で意識不明にしちゃったからやめておくよ、テレビのニュースで流れちまった事は間違いなく真実だからな。」光明「折角意識を取り戻したのにまた迷惑を掛ける訳にも行かんだろう。」守「そうか、取り敢えず様子を見て来るよ。」 自動ドアの向こうで数台のベッドが並べられ精密な医療機器に囲まれた室内、そこで美麗は呼吸器等の機器を外してテレビのニュースを見ていた、どうやら未だに結愛が死者である事実を受け止める事が出来ていないらしい。美麗(日本語)「パパ、これ本当なの?結愛さん昨日店にいたじゃない、訳が分からないよ。全国ニュースが嘘ついているんじゃないの?」龍太郎「美麗(みれい)・・・。」 残念ながら報道されているニュースが嘘ではない事、そして結愛に聞いた通りの話を全て話した。守「なぁ美麗(メイリー)、今結愛に会えるなら会うか?」美麗「うん、知らなかったとは言っても結愛さん達に失礼な事しちゃったもん。会って謝りたい、よいしょっと・・・。」 無理くりにベッドから降りて歩き出そうとする美麗、しかし治療に耐えた体には余り体力が残っていなかった。守「今は動かない方が良いんじゃないのか?俺、連れて来てやるよ。」美麗「ごめん、助かるよ。」 美麗を気遣い結愛達を呼びに廊下へと向かう守、本当に気遣いの出来る奴だ。 守は自動ドアを開けて廊下に出てはみたがそこに結愛達の姿は無かった、思い出したかのように催したので化粧室を探そうと歩き出すとある看護師が守に手紙を渡した。裕孝の母、小比類巻光江だ。息子の結婚式の翌日だと言うのにバリバリ仕事をしていた様だ。光江「あ、守君!!ナースセンターに結愛ちゃんに似た子がこれを置いていったって聞いて持って来たんだよ。あんた宛だってさ。」守「俺に?」 手紙の封筒の表麺には「守へ」と、そして裏面に「貝塚結愛」と書かれていた。守は早速封筒を開いて中を確認した。守へ 美麗ちゃんには驚かせて悪かったって謝っておいてくれ、俺らは急な呼び出しがあったから帰るぜ。次はいつ来るか分からんが元気にしてろよな。あ、叔
last updateLast Updated : 2025-12-01
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6. 「あの日の僕ら2」㊿

-㊿ 信じたくない- 結愛の発言に驚きの表情を隠せない守、急ぎ家へと戻りトイレの扉を叩いた。ドアノブを見てみると扉の鍵は閉まっていた、まぁ当然の事か。守「母ちゃん!!母ちゃん!!中にいるんだろ!!開けろって!!」 まさか「トイレに行ってくる」が母の最期の言葉になるとは思いたくない守はドアノブを必死に動かしていた、しかしドアはピクリとも動かなかった。これも当然の事。結愛「守待てよ、落ち着けって。もしドアが開いて、お前の母ちゃんが生きてたとしてもしも脱いでたらどうするつもりだよ。俺がやるからどかんかい。」 自らも死者だからか、やたらと落ち着いていた結愛は守と交代して中にいると思われる筆頭株主に声をかけた。しかし・・・。結愛「おば様、いるんでしょう!!返事して下さい!!」 一瞬にして落ち着きを無くした結愛、やはり恩人を亡くしたくないが故に心中は息子以上に必死になっていた様だ。ただ、扉の向こうからの反応は全くない。結愛「守、悪い。ぶち破るぜ!!」 結愛が勢いよく扉に体をぶつけると中から真希子が倒れ込んできたので守が下から受け止めた、社長によるとどうやら用を済ませた後でちゃんと服は着ている様だ。 守は母をすぐそばに寝かせて救急車と警察署にいる美恵に電話をした。美恵(電話)「守君、落ち着いて。すぐに文香と行くから現場をそのままキープしておいて。」 電話を受ける守の声は何処か暗かった、母を亡くしたかもしれないので当然だ。守「分かった・・・、外に出ておいた方が良い?」美恵(電話)「うん、その方が良いかも。すぐに行くからね。」 5分後、数名の警官と共に美恵と文香が駆けつけた。家の周辺に規制線が張られ警官達が家の中に流れ込む様に入って行った、結愛はいつの間にか消えてしまっていた。文香「それで・・・、守君が外で待ってた時に中々出てこなかったから様子を見に行ったって訳ね。」 流石に亡くなった事が報道された社長に知らされたなんて言えない。守「うん、そこにある母さんのくる・・・、あれ?」 守は自らが立っていた場所を指差した、何故か真希子のスルサーティーが消えていた。美恵「どうしたの?」守「そこにあったはずの母ちゃんの車が無くなってて。」美恵「真希子さんの車って確か「紫武者」のスルサーティーだよね。守君が乗って行った訳では無く?」守「俺は別に車があ
last updateLast Updated : 2025-12-01
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6. 「あの日の僕ら2」51

-51 走馬灯の様に- 霊安室で穏やかな表情を見せて眠る真希子の横で、守は1人静かに涙を流していた。守が幼少の頃、旦那に先立たれた真希子は唯一の肉親として息子に辛い思いをさせまいと幼稚園や小学校で守が家にいない間はパートをかけ持ちして生計を立てていた。 当時真希子の事情を全く知らなかった守は自分の家には父親というものがいないという事で周囲からの疎外感を感じていたが、母に辛い思いをさせてはいけないと決して「どうして自分の家にはお父さんがいないのか」と聞かなかったという。 真希子の決死の努力のお陰ですくすくと成長した守、小学校の高学年になった頃には父親の事など全く気にならなくなり、母とたった2人で囲む団欒を何よりも楽しみに1日を過ごしていたという。 しかし、当時の守には疑問に思う事が有った。守(当時)「お母さん、どうしてうちは毎晩カップ麺なの?」真希子(当時)「私達2人の将来の為にお金を置いとく為さ。」 そんな中、真希子はパート代から少しずつだが「へそくり」を作り当時まだ小さな服飾企業だった「貝塚服飾卸(後の貝塚財閥)」の株を買って成長を待ちつつ配当金が出る度に守に寂しい思いをさせない様に少し贅沢な夕飯を楽しんでいたという。そのお陰で当時、2人の団欒は楽しかったのだろう。 団欒を楽しむ守の横で真希子は別に配当金から貯金を作っていた、そして小さな軽のバンを買ってそれまで徒歩で行っていた買い物を楽に行えるようにした。 そう、少し贅沢をしつつも頭の良かった真希子はパート代や配当金をやりくりして生活をよりよい物に変化させて守の人生が少しでも楽しい物になる様にと工夫していたのだ。 2人の生活に一番変化があったのは守が中学2年の頃、貝塚服飾卸がアメリカを中心とした海外に進出して成功を収めたが故に急成長して株価が急上昇した事に伴い、真希子への配当金も上がった。その配当金で買ったのが愛車のスルサーティーだった。 それからというもの、真希子が夕飯を済ませると夜な夜な外に出ていく事が多くなり、巷で「赤鬼」と「紫武者(パープルナイト)」という言葉をよく耳にする様になった。 しかし守は高校受験の勉強等で忙しく、母が毎夜毎夜出ていく事など気にもならなかった。守が学校から家に帰った時、真希子は必ず何事も無かったかの様に夕飯を用意して温かい笑顔で息子を迎えていたからだ。真
last updateLast Updated : 2025-12-06
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6. 「あの日の僕ら2」52

-52 親友(バディ)- 王麗は薄暗い化粧室の一室で若かりし頃の真希子と撮った写真を握りながら震えていた、スルサーティーを背に2人が屈託のない笑顔とピースサインをしていた仲睦まじい様子の思い出写真。王麗「真希子、もうあんたのドライビングには乗れないんだね。」 当時刑事だった王麗は渚と同様、警察に協力する側の走り屋の1人として峠を攻めていた真希子の助手席に乗り犯人の逮捕に尽力していた。王麗(当時)「全く・・・、あんたも無茶をする女だね。見てる私がヒヤヒヤするのに平気な顔しちゃってさ。」真希子(当時)「良いじゃないか、あたしゃこのスリルを楽しみたくてこの車を買ったんだ。それにあんたは乗ってるだけで仕事が出来て給料が出るんだ、一石二鳥ってやつさ。」 この日も警察本部からの要請を受けた王麗は真希子が当時パートをしていたスーパーへと向かって協力をお願いしていた、因みにこの事は2人以外に警察署長とこの店の店長しか知らない。店長「真希子ちゃん、走るのは良いけど怪我だけはしないでおくれよ、王麗ちゃんはいいけど真希子ちゃんはウチの大事な従業員だからね。」王麗(当時)「店長、それどういう意味だい。」店長「刑事さんだからどんな事でも平気だろ?」王麗(当時)「何言ってんのさ、刑事である前に私だって1人の女なんだからね。」店長「悪かった悪かった、いつものサービスするから許してよ。」王麗(当時)「そう来なくっちゃ。」 店長の言葉を聞いて笑顔で指パッチンをした王麗は早速惣菜コーナーへと向かい春巻きと公魚のフリッターを数本ずつ取った。店長「おいおい、いくら何でも取り過ぎだって。しかも新商品の公魚まで。」王麗(当時)「良いだろう、真希子の分だよ。」店長「もう、調子良いんだから・・・。」王麗(当時)「えへへ、あたしらに勝とうだなんて100年早いんだよ。」店長「仕方ないな・・・。」 実は揚げ物はカムフラージュで「サービスをする」と言うのはこの店の地下にある2人のアジトを開放するという意味だった、2人は早速今夜の作戦を考え始めた。奥の壁に張られたスクリーンに今回のターゲットのデータが表示されていた。 2人は店長から貰った揚げ物を頬張りながら話し合った。真希子(当時)「またこの犬どもか、懲りない奴らだね。」 通称「山犬」と呼ばれる暴走族がにらみを利かせた写真が映
last updateLast Updated : 2025-12-06
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6. 「あの日の僕ら2」53

-53 遺書と叱責- 守の言葉に再び涙する王麗、故人も同様に思ってくれていた事が本当に嬉しかった様だ。王麗「最後の最後まで嬉しい事を言ってくれるじゃないか、それなのに何で・・・。神様も意地悪なもんだね。」 警視の言葉がより一層涙を誘ったらしく、守は立ち直れそうになかった。 そんな中、連絡を受けた真帆が病院に駆けつけて勢いよく守を抱きしめた。真帆「守・・・、真帆に出来る事が有ったら何でも言ってね。真帆は守の味方だからね。」王麗「真帆ちゃんだけじゃないさ、ここにいる全員が守君の味方だよ。」守「ありがとう・・・、俺は1人じゃなかったんだな・・・。」 守が廊下の椅子に腰かけて何とか気持ちを落ち着かせようとしていると、事件の捜査を抜け出して来た美恵と文香が急ぎ足で駆けつけた。美恵「守君、大変よ!!」文香「勝手にやって申し訳ないけど遺品を整理してたらこれが出て来たの!!」 文香が懐から出したのは真希子からの遺書だった、守は静かに中身を確認した。どうやら弁護士の確認の下で本人が手書きで作成した物らしく、書面の右下には押印までされていた。王麗「良かったら聞かせてくれる?何て・・・、書かれていたの?」 守は体を小刻みに震わせながら母の遺書を女将に渡した。王麗「どれどれ・・・。」 遺書には真希子の持つ貝塚財閥の株券や土地、そして自らが管理していた家や財産全てを守に譲ると言う内容が書かれていた。守「こんなの貰っても母ちゃんが戻ってくる訳じゃ無いだろう、結愛にも聞いたけどあっちの世界に母ちゃんがいたらしいんだ。好美と同じさ、もうここにはいないんだ・・・。」美麗「守君・・・。」 美麗は両手を強く握って守を叱った。美麗「何よ、いつまでもウジウジしてさ!!好美や真希子さんがあんたにずっと泣いて欲しいって言った訳?!」 確かにそうだ、2人は守に笑っていて欲しいとずっと尽力していたはずだ。特に真希子は母親として人生の大半を守との幸せな生活の為に捧げていた。その証拠に遺書でも自らの全てを守に譲ると書いてあったのだ、周りからすれば守は相当な幸せ者だ。 遺書には「宝田 守」と書かれていた通帳と印鑑が入っていた、どうやらこの様な事態がいつ起きても良い様に真希子が密かに貯金していたらしい。守「そうだな・・・、取り敢えずこの金で母ちゃんの葬式をしてやらないとな。」
last updateLast Updated : 2025-12-06
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6. 「あの日の僕ら2」54

-54 母が改めて実感させたかけがえのない存在- 珍しく天然をかましてしまった部下に呆れた様子の警視総監は頭を抱えながらも落ち着きを保っていた、一緒にいたメンバー以外には人気の無い廊下で大きくため息をついて2人の刑事の方向を見た。龍太郎「美恵ちゃん、そして文香ちゃん。2点ほど約束して欲しい事が有るんだ。」文香「はっ、警視総監、何なりと仰ってください。」美恵「これまでの数々のご無礼を反省致しております。」 改まった様に緊張した様子で松戸夫婦に向かって敬礼する刑事達。龍太郎「まぁまぁ、そう改まるな。簡単な事さ。①俺達が警視総監と警視だって知っている上で今まで通り付き合う事、俺達の事を知っているのは君たちの周辺では「めっちゃん」こと姪家警察署長位だからな。②俺達はこれまで通り中華料理屋の店主と女将としてひっそりとしていたいからくれぐれも俺達の事は秘密にしておく事、いいね?」文香「分かっ・・・、た、龍さん。」美恵「わ・・・、私も・・・。」 2人の言葉を聞いて安心した様子の龍太郎は一息ついて王麗に相談を持ち掛けた。龍太郎「なぁ、この2人の活躍は母ちゃんも知っているだろう、そろそろあの事を伝えても良いんじゃないのかと思うんだけどどう思う?」王麗「あたしゃ構わないけどめっちゃんはどう言ってるんだい?」龍太郎「別に構わないって言ってるよ、一応俺は警視総監だからな。」 夫婦の会話に首を傾げる刑事達に真実(というより吉報)を知らせる事にした龍太郎。龍太郎「倉下刑事、そして吉馬刑事。」2人「は・・・、はい!!」 美恵と文香は珍しい呼び方で呼ばれたのでつい改まってしまった。龍太郎「我々の独自捜査への協力や周囲の方々への無数の心遣い、誠に感謝しています。よって2人を警視総監である私の権限で警部へと昇格させて頂きます、おめでとう、そしていつもありがとう!!」 刑事達改め警部達2人にとって全く記憶に無い事だが、「まぁ良いか」と昇格を受け入れる事にした。 さて、すっかりほったらかしになってしまった故人の葬儀なのだが遺書に書かれてあった通り身近な人間のみで密かに行われた。喪主となった守が葬儀へと参加した全員に火葬場で弁当を配っていると真帆が彼氏を手伝い始めた。真帆「真帆、守の為なら何でもするって言ったじゃん。」守「悪いな、参列してくれた上にこんな事まで。」
last updateLast Updated : 2025-12-06
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6. 「あの日の僕ら2」55

-55 完璧にならなくても良い、今日は甘えなさい- 自らの為に何でもする、守ると誓った恋人を抱きしめながら守は改めて涙を流した。先程の真帆の言葉が胸に刺さったからだ。 自分の名に恥じぬような行動を心がけていこう、一生をかけて恋人を守るのは自分だろと言い聞かせていたのにも関わらず、今の自分はその通りになれているだろうかと心の中で自問自答していた。真帆「どうして泣くの?笑ってよ、笑顔でお母さんを送るんじゃなかったの?」守「違うんだ、俺自身の事が情けなくて。大切にするって決めた、守るって決めた真帆に守られる側になるなんて情けなくてよ・・・。」真帆「お母さんが亡くなったのに平気になれる人がいる訳がないじゃん、今は真帆に甘えてくれて良いんだよ?」守「くっ・・・、母ちゃん・・・。」 恋人の言葉に救われた気持ちになった守はより一層速く、小刻みに震えだした。その様子を悪いと思いながら建物の陰から見守っていた龍太郎が煙草を燻らせた後、深く息を吐いて声をかけた。龍太郎「真帆ちゃん、おじさんに任せてはくれないか?これは男同士でしか理解できない話かもしれないから少しだけ席を外して貰っても構わないかな?」真帆「龍さん・・・、守元気になるよね。」龍太郎「俺を誰だと思ってんだ、ここら地元にいる若者皆のお父さんだぞ。」真帆「と言っても守や好美さんが通ってた大学は県境跨いで向こう側だったけどね。」龍太郎「チャリや歩きで行ける距離だ、そんなの関係ねぇさ。だからあの大学に通っている学生も俺ん所にランチしに来るんだよ、好美ちゃんの家も松龍の真上だったからな。気軽に通えるならもうご近所、いや地元だよ。真帆ちゃんもそうは思わないかい?」真帆「さすが龍さん、頭が上がんないや。じゃあ私の大切な恋人をよろしくお願いします。」 真帆はそう言うと王麗達がいる控室の方向へと歩いて行った、真帆の姿が見えなくなったタイミングで龍太郎は再び煙草を燻らせ始めた。龍太郎「急な事で大変だったな、大丈夫か?」守「俺は大丈夫、今まで母ちゃんがしてきた思いに比べりゃちっぽけなもんさ。」龍太郎「でもよ、店に来る度に真希子さん言ってたぜ。お前に母親らしい事を何も出来ていなくて悔しいって、いくら自分が忙しいからってお前の事を蔑ろにし過ぎたんじゃないかって悔やんでたよ。」守「そんな事無いよ、あんなに明るくて、
last updateLast Updated : 2025-12-06
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6. 「あの日の僕ら2」56

-56 過去に故人の親友が演出した懐かしき聖夜- 守は松戸夫婦が自らの為に作った特製の弁当を一口一口噛みしめる様に食べていた、大好きな味と思い出に浸る度に乾いたはずの涙が止まらなかった。龍太郎「喪主も大変だから腹減ってたんだろうな、嬉しい食いっぷりだぜ。」王麗「父ちゃん何言ってんのさ、真希子を亡くした守君は空腹どころじゃないはずだよ。」 まるで本当の両親の様に自分達の作った弁当を食べる喪主を見守る松戸夫婦、すると女将は何かを思い出したかのようにビニール袋を取り出した。中には白く小さなスチロール製の弁当箱が1つ、屋台のたこ焼きでも入っているのだろうか。王麗「守君、余り物で作ったんだけど良かったらこれも食べないかい?」 守は警視からビニール袋を受け取ると中の弁当箱を取り出して聞いた。守「開けて・・・、良い・・・?」王麗「勿論だよ、これもあんたにとっちゃ思い出のあるものだと思ってね。」 王麗の言葉を聞いた守はゆっくりと中身を確認した、中には懐かしい料理が入っていた。守「これ・・・。」王麗「あんた、小さかった時も高校生の時もずっとこれが好きだったもんね。」守「女将さん、覚えててくれたんだ・・・。」王麗「勿論だよ、忘れる訳が無いさね。私にとっても良い思い出だったもの。」 王麗は時間の許す限り昔の思い出を語り始めた。 これは守達がまだ幼少だった頃のクリスマスの日の事だ、夜8:00前に宝田親子は仲良く手を握り空気の冷たい夜の道を歩いて松龍に到着した。真希子(当時)「王麗、悪いねえ。クリスマスだから他の店も考えたんだけどうちの子がどうしてもここが良いって言うから。・・・ってあんた、そのサンタ服、気合入ってんね。」王麗(当時)「そりゃあクリスマスだからね、言っちゃなんだけど今日みたいな日に中華を食べる人なんか殆どいないからね。丁度早めに閉めて小さなパーティーでもしようかって言ってたんだよ、良かったら2人も参加してくれないかい?」真希子(当時)「良いのかい?折角の親子水入らずの時なのに。」王麗(当時)「何言ってんだい、2人もあたしにとっちゃ大事な家族みたいなもんさね。守君、一緒にケーキ食べようね、その前に何か食べたい物はあるかい?」守(当時)「チキンカツと炒飯!!」王麗(当時)「それいつものじゃないか、それにチキン以外クリスマス要素が無いよ・
last updateLast Updated : 2025-12-09
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6. 「あの日の僕ら2」57

-57 親孝行とは- 王麗と真希子が店にある限りの鶏肉を揚げた物を肴にしてビールを楽しんでいる向かいで、サンタクロースに模したチキンライスや餡掛け炒飯を守と美麗が仲良く取り分けて楽しそうに食べていた。守(当時)「母ちゃん、美味しいね。楽しいね。」美麗(当時)「私、このお髭の所(餡掛け)好き。ママの料理で一番好きなんだ。」王麗(当時)「あんたはそれ食べてる時本当にいい顔するね、母ちゃん嬉しいよ。」 3人が談笑している中、真希子には気になる事が有った。真希子(当時)「それにしても良いのかい?ありったけの鶏肉使っちゃったじゃないか、明日から店の方はどうするんだい?」王麗(当時)「大丈夫だよ、明日には新しいやつが入荷するし賞味期限が近かった物を吐かせたかったから丁度良かったんさ。それに子供達も楽しそうにしているじゃないか、あんたも何も気にせず呑んでおくれ。」真希子(当時)「それを聞いて安心したよ、それにしてもあんなアイデアをよく思いついたね。本当に豪華なパーティー料理になっちゃったよ、ただのチキンライスなのに。」王麗(当時)「物は考えようだよ、それに自分が今着ている服がヒントになったんだ。結果オーライってやつだよ。」 未だ終わりの知らせが来ない火葬場で王麗はあの日のパーティーでチキン等の食事を楽しんだ4人が決して大きいとは言えないが丁度いいサイズのホールケーキを仲良く食べた後、座敷で満腹になった守と美麗が仲良く眠っていた時の事を思い出していた。王麗「そう言えばね、あの時真希子が守君の事を「親孝行者」だって言ってたよ。」守「俺が?俺は母ちゃんに何もした覚えは無いけどな・・・。」王麗「本人が言うにはね、不器用者だった自分が作った物を決して文句を言わずに笑顔で「美味しい、美味しい」って食べてくれていた事が本当に嬉しかったんだってさ。」守「美味い物を美味いって言うのが「親孝行」だって?素直に言っただけなんだけど・・・。」王麗「それが嬉しかったみたいだよ、やっぱり本人が言ってた通り何かと忙しかったからって母親らしい事を何一つ出来なかった事が悔しかったんじゃないかな、それでも守君がすくすくと育ってくれた事が何よりも嬉しい「親孝行」になってたと思うけどね。」守「そうか・・・、ほぼ1日ずっとパートで働いてた母ちゃんの事凄いなって思ってたけど本人はずっと俺の
last updateLast Updated : 2025-12-09
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6. 「あの日の僕ら2」58

-58 脳裏に残る冷やし中華- 美麗は本人曰く、「反省点が多々ある冷やし中華」を少し暗い顔をしながら真希子の座るテーブルへと運んだ。具材をもっと細くきるべきだった、麺をもっと冷たい氷水で締めるべきだったなど色々と思い浮かんでいた。美麗(当時)「下手くそでごめんなさい、要らなかったら私が後で食べるから。」 少し緊張しながらゆっくりと皿を置く美麗、心中で「絶対怒られる・・・」と思っていたので手が小刻みに震えていた。真希子(当時)「あら・・・、ご馳走だね。こんなに美味しそうな冷やし中華は初めてだよ。」 いくら何でも大袈裟すぎやしないかと言われかねない誉め言葉を聞くとは思わなかったので、少し驚いていた。美麗(当時)「じょ・・・、冗談でしょ?こんなに下手くそな冷やし中華、酷いって言ってくれた方が助かるよ。」真希子(当時)「何言ってんだい、こんなに美味しそうじゃないか。折角だから頂くよ。」 美麗が調理場に冷やし中華を下げようとしたので真希子は必死に皿を掴んで止めた後、料理をテーブルに置いて手を合わせた。真希子(当時)「頂きます・・・。」 麺と具材を解して上にかかった醤油ダレを絡めると、目を輝かせながら早速と言わんばかりに1口麺を啜った。真希子(当時)「うん・・・、キリっとよく締まっているじゃないか。暑かったから丁度良くて嬉しいよ。どれどれ・・・。」 真希子は美麗が自信を持てていない具材へと箸を延ばした、両親の作った物に比べると太くなってしまった胡瓜を口にした。真希子(当時)「これ位の太さでないと瑞々しさが無くなっちゃうんだよね、私好みにしてくれたのかい?」美麗(当時)「そ・・・、そうなの?」真希子(当時)「それにこの叉焼、ふんわりとしていて私好きだよ。沢山入れてくれてありがとうね。」美麗(当時)「入れすぎちゃっただけなんだけど、良かったのかな。」 少し照れ始めた美麗は指で頬を搔き始めた、涼しい店内にずっといたのにも関わらず顔が少し赤くなっていた。美麗(当時)「いくら何でもほめ過ぎだよ、でもそう言われると嬉しいな。」真希子(当時)「まぁこの子ったら、嬉しいのは私の方なのに。」 そんな中、「お使い」を終えた両親が店に戻って来た。まさか真希子が来ているとはと思っても居なかった。王麗(当時・中国語)「美麗、ただいま。悪かったね。(日本語)・・
last updateLast Updated : 2025-12-09
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