All Chapters of (改訂版)夜勤族の妄想物語: Chapter 481 - Chapter 490

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6. 「あの日の僕ら2」69

-69 いつもと違う雰囲気を楽しむ恋人達- 美麗は相も変わらずのチャイナ服で大学の授業を数コマこなした後に友人の安倉 優(あくら ゆう)と安正達のいる食堂へと入った、2人はこの日朝から連絡を取っていなかったのでまさかこのランチタイムにこの食堂で会うとは思ってもいなかった。優(当時)「ねぇ美麗、今日もあんたは昼限定ランチで良いよね。AとBのどっちにする?」美麗(当時)「じゃあ・・・、Cで!!」優(当時)「Cね・・・、何のセットだったかな・・・、ってあるかぁ!!」美麗(当時)「それと、お腹空いてるからご飯は小盛ね!!」優(当時)「どっちなのよ!!ボケを連発しないでよ、ツッコミが追いつかないじゃん。」 どうやら当時、学科内で美麗はクラスのボケという役柄を担っていた様だ。その事を一切知らなかった安正は恋人を見かけてポカンとした様子だった。安正(当時)「美(メイ)・・・、麗(リー)・・・?」美麗(当時)「安正?!何でいんの?!」安正(当時)「たまにはここで食うかってなったんだよ、この後授業無いから。」 後は帰るだけになった安正は大学より自宅からの距離が近いという理由だけでこの食堂を選んでいた。優(当時)「本当にこの人と付き合ってたんだ、じゃあ今夜も一緒に?」美麗(当時)「いや、残念だけどバイトがあるんだって。」 安正は淋しそうな表情を見せる彼女を急いで宥めた。安正(当時)「それがさ、今夜休みになったんだ。夜は店閉めるって言ってたから。」 安正の言葉に黙っていなかったのは他の誰でも無く優だった、優は安正のバイト先の常連だったそうで本人にとってはかなり重大な緊急事態が発生したらしい。優(当時)「じゃあ今夜私が予約してる焼肉弁当は?18:00に5人ま・・・!!」成久(当時)「待って、ちょっとこっち・・・。」 優の言葉に焦りの表情を見せた成久は優を少し離れた場所へと連れて行った、優は成久の咄嗟の行動に驚きの表情を隠せなかった。成久(当時・小声)「すいません、安正達に2人の時間を過ごして貰おうと嘘ついたんです。じいちゃんが言うには勿論今夜も営業しますし、焼肉弁当は肉多めで用意しますから話を合わせて頂けますか?」優(当時・小声)「ふふん・・・、ご飯も大盛りに出来ます?」 優のノリの良さは地元でも評判があったらしい。優(当時)「予約・・・、明
last updateLast Updated : 2025-12-15
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6. 「あの日の僕ら2」70

-70 嫉妬の矛先- 2人は綿菓子の屋台から数メートルに渡り伸びる行列に並んで自分達の順番を待っていた、十数分経過してやっと自分達の番が近づいて来た時に恋人たちはある事実に気付いた。安正(当時)「結構大きいね、どうしようか。」美麗(当時)「お腹いっぱいになっちゃったら他の屋台を楽しめなくなっちゃうね、最初から困ったな・・・。」 2人は数分の間黙り込んだ後に互いを見つめ合って声を掛けた。2人(当時)「半分こしようか。」 顔を赤らめながら手を繋いで待つ恋人達の様子からは初々しさも見て取れたのだが、互いが同じことを考えていた事による照れと嬉しさで2人の顔はもっと赤くなった。美麗(当時)「もうすぐだね、甘い良い匂い・・・。」 それから数分経過して2人の番まであと2組となった、ここまで近づくと屋台の中の様子を伺えたのだが見た目からしてどう考えてもヤクザ者の幹部と言える40~50歳代の男性と下っ端らしき20~30歳代の男性の2人で営業している様だった。ただ周囲でこの屋台の綿菓子を楽しんでいる客たちは本当に美味しそうに食べていた、どうやらこの屋台は当たりの人気店らしい。 そして2人の番となった、注文は「下っ端」の方が受け付けている様だ。下っ端(当時)「いらっしゃい、2つで良いかい?」安正(当時)「いや、1つでお願いします。」下っ端(当時)「何でだよ、ケチくせえ事言うなよ。」 すると隣で見事な綿菓子を作っていた「幹部」が「下っ端」を怒鳴った、2人の様子から恋人たちの意図を汲み取ったのだろうか。幹部(当時)「サブ!!余計な口たたいてんじゃねぇ!!」サブ(当時)「す、すいません、兄・・・、大将・・・。じゃあ君ら1つね、300円ね。」大将(当時)「待てサブ、君ら怖い思いさせてすまねぇな。こう見えてもヤクザから足洗って堅気の人間として頑張ろうと思ってんだよ、実は俺達は昔からある恩人のお陰で料理やお菓子作りが密かな趣味だったからこうやって綿菓子の屋台を出してんだけどな。どうやらまだヤクザ者の血が抜け切れてねぇみたいだ、悪い事しちまったからこれは俺からの侘びだ、タダで持って行ってくれ。こう言っちゃなんだが、幸せな2人に俺からの手向けって事にしといてくれや。」美麗(当時)「良いん・・・、ですか?」大将(当時)「ああ・・・、俺は決して嘘はつかねぇ・・・。」 
last updateLast Updated : 2025-12-15
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6. 「あの日の僕ら2」71

-71 大将の過去と正体- 安正達の惚気たっぷりの思い出話に浸りながらそれを肴に呑む真帆は、段々つまらなくなってきたのか、それとも酔いからか、目をじとっとさせて呟いた。真帆「結局、キス魔の話じゃん。」安正「待てって、ここからが良い話なんだ。」 必死に真帆を宥める安正の横から美麗が口を出した。美麗「ここからは私が話して良い?」 当時沢山の出店が並ぶ中で堂々と口づけを交わし、歩き出そうとしていた2人を追いかける様に呼ぶ声がした。声の主は綿菓子屋のサブだ。サブ(当時)「待ってくれ、ちょっと時間あるか?兄・・・、大将があんた達を呼んでいるんだ。」 動揺を隠せない安正とは裏腹に堂々とした態度で答えた美麗。美麗(当時)「分かりました、行きます。」 2人はサブの案内で大将の待つ屋台の裏へと向かった、客足が落ち着いた様で小休止を取っていた大将は煙草を燻らせていた。大将(当時)「いきなり呼んで悪いな、サブもすまねぇ・・・。」 大将は小銭入れから500円玉を1枚取り出してサブに手渡した。大将(当時)「すまんがこれでコーラでも買ってきてくれや、御釣りはお前にやるから。」 サブは状況を察して会釈するとすぐさまその場を離れた、大将は煙草を深く吸い込んでゆっくりと吐き出すと2人に話しかけた。大将(当時)「間違っていたら悪い、君は龍太郎さんの所の美麗(みれい)ちゃんだね?」美麗(当時)「はい、お久しぶりです。豊(ゆたか)さん。」 状況を上手く読み込めない安正は少し焦りの表情を見せた。豊(当時)「そうなるのも無理はないさ、そちらの方は彼氏さんかい?」美麗(当時)「はい、最近付き合いだした安正って言います。」豊(当時)「そうかい、俺は渡瀬(わたせ)豊だ。気軽に「豊」って呼んでくれ。」 豊が先程まで綿菓子を作っていた「職人の手」で安正に握手を求めたので安正はゆっくりと手を出した。安正(当時)「桐生安正です、よろしくお願いします。それにしても美麗(メイリー)、どうして2人が知り合いだったって事を黙ってたの?」豊(当時)「俺が他の人の前では他人のフリをする様に頼んだんだ、ヤクザと知り合いだってバレたら美麗ちゃんが悪く言われて可哀想だからな。」安正(当時)「でもどうして2人は知り合いになったの?」美麗(当時)「えっとね・・・。」豊(当時)「美麗ちゃん、俺
last updateLast Updated : 2025-12-19
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6. 「あの日の僕ら2」72

-72 涙を誘った思い出の味と報告- 祭りの熱気が冷める事を知らない中、屋台の裏で煙草を片手に豊は語り続けた。豊(当時)「俺は龍太郎さんの案内で美麗ちゃんの住む店に行った、ただ財布も持たずに飛び出したから一文無しだったんだが。そんな俺に龍太郎さんは笑顔でこう言ってくれたよ。」龍太郎(回想)「近くの肉屋と共同で作ったうちの人気商品なんだが作り過ぎて余ったんだ、良かったら食ってくれ。お前の事は俺が何とかしてやるから、金の事とかは気にすんな。」豊(当時)「あの時食った「よだれ鶏」とふっくらと炊き上がった銀シャリの味と香りは今でも忘れないよ、それをきっかけに俺は暫くの間松龍に住み込みで働く様になったんだ。その時、ちょこちょこ美麗ちゃんと外で遊ぶようになったんだよ。」美麗(当時)「私が格闘技を習ったきっかけもこれ。」豊(当時)「それから俺は龍太郎さんの知り合いを通じてこの屋台の仕事を紹介して貰ったんだよ。」 美麗の心温まる話を聞いた真帆がずっと泣いている中、松龍の出入口から懐かしい声が。声「お邪魔します、皆元気にしているかな?」 そこにはあの時と同じで優しい顔をした豊がいた。美麗「豊さん!!」 美麗は思わず飛び出した、まるで子供の様に懐かしい顔に抱き着いた。後から安正も会釈しながら顔を合わせ、店内は温かな雰囲気に包まれた。真帆「もしかして、さっき話に出た豊さん?」美麗「うん、私の恩人の豊さんだよ。」 座敷で顔を赤らめながら自分の名前を呼ぶ女の子を見て頭を掻く豊。豊「あの子って真帆・・・、ちゃんだよね。森田さん家の。」美麗「豊さん知っているんですか?」豊「2人共小さい頃一緒に遊んでたの覚えて無いのかい?そう言えば・・・、真美ちゃんはどうしたの?」美麗「豊さん、どうしてそんな昔の事を覚えているんですか?」豊「そりゃそうさ、生きている間ここに来るまではあまり楽しい思い出が無かったからね。あの頃の事は今でも昨日の事の様に鮮明に覚えているよ、ここはある意味俺の人生が始まった場所だからね。」 豊が楽しそうに語っていると、店の奥から龍太郎が瓶ビールを片手に出て来た。龍太郎「久々だな、豊。取り敢えずゆっくりして行ってくれ。」豊「龍太郎さん、頂いても良いんですか?」龍太郎「俺が一緒に呑みたいと思ってお前を呼び出したから当たり前だろうが、それとも俺
last updateLast Updated : 2025-12-19
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6. 「あの日の僕ら2」73

-73 故人の恐怖- 美麗にとって「第2の父」と言っても過言ではない存在の豊からの祝杯により祝福ムードが漂う松龍の片隅で守は1人、紹興酒の入ったグラスを揺らしながらほくそ笑んでいた。真帆「どうしたの?」守「いや、何でも無いよ。ただ、この光景を母ちゃんが見たら喜ぶだろうなと思ってな。」真帆「喜ぶに決まってんじゃん、皆決して悲しそうにしていないもん。遺書や手紙の通り、笑ってるから真希子おばさんも安心してくれていると思うよ。」 守の言葉が聞こえたのか、豊は本来どうしてここに皆が集まっているのかを疑問に思い始めた。豊「あの・・・、龍太郎さん。本当は違う目的でここに皆ここに集まっているんじゃないんですか?」龍太郎「ああ・・・、本当はな。ちょっといつもの裏庭に来いよ。」 龍太郎は男同士で話したい時は必ず裏庭を使う、これは豊が松龍で働いていた時から変わらない事だった。出てすぐの場所にあるいつものベンチで2人は瓶ビールを呑み始めた、1人1本という贅沢なラッパ飲みだ。龍太郎「これやっていつも母ちゃんに怒られてたっけな、懐かしいよ。」豊「確か・・・、紫武者(パープルナイト)の真希子さんにも怒られてましたよね。2人が揃うと怖かったな・・・、確か黒と紫の特攻服を着てた時もありましたよね、また見たいな・・・。」龍太郎「もう・・・、見えないんだよ・・・。」豊「じゃあ・・・、まさか・・・。」 龍太郎から今宵、皆が真希子を偲んで集まっていた事と座敷で紹興酒を呑んでいた守が真希子の息子だという事を説明されると豊は小走りで守の座る座敷へと向かった。豊「お母さんの事聞いたよ、大丈夫かい?」守「はい、もうこの通りですし自分にはご覧の通り沢山の仲間がいますので大丈夫です。」真帆「それに守には真帆もいるもんね。」守「ああ、そうだな。」 隣で笑う真帆の顔を見て安心した表情を見せる守の空いたグラスにゆっくりとビールを注ぐ豊。豊「俺な、昔暴力団から足を洗った時にここで働いてたんだけどその時君のお母さんによくお世話になっていたんだよ。」守「確か・・・、渡瀬 豊さんでしたっけ?」 美麗と安正の話を聞いていたので豊の事は少しだけだが理解していた。豊「うん、お母さんと当時刑事だったここの女将さんがバディを組んで警察としての捜査を行っていた事は知っているね?」守「はい、母が亡く
last updateLast Updated : 2025-12-19
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6. 「あの日の僕ら2」74

-74 キス魔だらけの再会- 友人の恩人と自らが亡くした母との思い出話によりその場が和やかな雰囲気に包まれる中、真帆はいつもは聞けない質問を酔った勢いで投げかけた。ただ本人にとっては結構重要で、そして不安になっている案件だった。真帆「ねぇ守、真帆は好美さんの代わりになれてる?」 守は呑みかけたビールのグラスから口をゆっくりと離して答えた。守「好美の代わりは誰にも出来ないよ、それに真帆は真帆じゃないか。」真帆「やっぱり守にとっての1番は好美さんなんだね・・・。」 少し寂しそうな表情を見せる真帆、ただその表情を見ても守は否定できなかった。守「俺は人に順位を付けたくないだけなんだ、唯一言える事は俺は好美と同じくらい真帆の事が好きだって事だ。」真帆「嬉しい・・・。」 真帆は突然大粒の涙をぼろぼろと流し出した、付き合い始めてからずっと守に愛されている実感が湧いていなかったのだ。真帆「ねぇ・・・、今すぐキスしていい?」守「う・・・。」 彼氏に答える間も与えずに真帆は持っていた小皿をテーブルに置いて守に口づけた、その光景を見た豊は顔を赤らめながら周りを見回した。すると・・・。豊「おいおい、ここはキス魔だらけですか?」王麗「この子たちが集まるといつもこうなんだよ、許しておくれ。」 そう、他のカップル達も濃厚な口づけを交わしていた。折角の料理が冷めてしまいそうだった。豊「ちょっと俺、トイレ行こうかな・・・。」 数分後、トイレから出た豊は再び顔を赤らめさせた。龍太郎「初めてこの光景を見た奴は大体そうなるんだよ、俺達はもう慣れたけどな。」豊「これに慣れる・・・、事があるんですか?」龍太郎「もう日常茶飯事ってやつだ、こいつらは恋人同士で集まると周りが見えなくなっちまうんだよ。」王麗「恥じらいって言葉を知らないのかね、もう何の抵抗もないみたいなんだよ。」 王麗は熱燗にした日本酒をグラスに注ぎ入れてチビチビと呑み始めた、肴は炙って七味マヨネーズを付けたスルメイカの干物だ。本当に中国人なのだろうか。王麗「でもね、この子達のお陰で警察の人間でありながら細々と中華屋の人間として働くだけだと思っていた生活が一層楽しくなったのも事実なんだよ。今思えば色んな出来事が有ったね、笑った事も泣いた事も。」豊「そうですか、この子達のお陰でどんな事でも楽しく笑える様
last updateLast Updated : 2025-12-19
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6. 「あの日の僕ら2」75

-75 山中での惨劇- 真美は豊に感謝の意を伝える為、恩人の目の前にある瓶ビールを手に取りグラスに注ぎ始めた。豊「いつ振りかな、真美ちゃんに注いでもらうのは。」真美「確か私が中学生だった時以来だったと思います。」 そう、丁度真美が豊の部屋に入り浸って経済学の本を読み漁っていた頃だ。真美は学校が終わるとまっすぐ松龍へと向かい、居住スペースにある豊の部屋で宿題を終わらせてから夜までずっと経済学の本を読み、夜になると晩酌をする豊と経済学について語り合っていた。豊「本当、顔が生き生きしていたよな。俺が読んでいない所も読んでたから話に追いつくのが大変だったよ。」 ただ豊は楽しそうに話す真美を見て懸念している事が有った、自分の所為で真美が1人の女の子としての人生を楽しめていないのではないだろうかと。その証拠に、いつもの事だが真美の服装は真帆に比べて質素な物だった。豊「真美ちゃんはファッションとかには興味が無いのかい?」真美「あんまり無いですね、どれだけ着飾っても自分は自分なので。」 真美はそのままの意味で言ったつもりだったが、豊には意味の深い言葉に聞こえた。それと同時にあの頃の自分は無理し過ぎていたのではないかと悟った。 豊が阿久津組にいたのは、元々は自分の意志ではなかった。幼少の頃、母と豊が手を繋ぎ買い物に出かけていた時の事だ。2人は何者かの手により突然黒のワンボックスに押し込められた。窓からの光が黒のカーテンで遮られ、真っ暗な車内で豊は泣きわめいていた。犯人「うっせぇぞ、殺されてぇのか?!」 自らも苦しみながら、母は豊を守ろうとした。母「お願いです!!この子の命だけは奪わないで下さい!!」犯人「そうかい、じゃあその通りにしてやるよ。」 犯人がそう言うと車は急停止してスライドドアが開いた、人気の無い静かな山中だった。犯人「出ろ。」 母が犯人に引きずり出され地面に落ちてしまった瞬間、犯人の撃ち放った銃弾が母の心臓を貫いた、即死だった。犯人はその山に母の遺体を捨ててしまった、豊の目の前で。 その数分後の事だ、銃声を聞いた数人の男達が駆けつけて来た。その中の1人が犯人に怒鳴った。男「お前は三井組の・・・、堅気の人に手ェ出すなって言われなかったのか?!」犯人「お前は阿久津組の・・・、関係ねぇやつは引っ込んでろ!!」 そう、偶然にもその場に駆
last updateLast Updated : 2025-12-19
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6. 「あの日の僕ら2」76

-76 息子だから出来る事- 目の前で唯一の肉親を撃ち殺された豊に同情したのか、組長は同じ目線に立つためにしゃがみ込んで頭を優しくゆっくりと撫でた。組長(当時)「そうか、そりゃ辛かったよな。そうだ、これからは俺がお前の父ちゃんになってやる。一緒についておいで。」 組長は組員に車を回させると豊を後部座席に招待した。組長(当時)「そう言えばお前、名前は何て言うんだ?」豊(当時)「渡瀬・・・、豊・・・。」組長(当時)「良い名前だ、大事にしろよ。ちゃんと名前言えて、偉いな。」 組長は再び豊の頭を撫でた。数十分後、車は阿久津家に到着した。組長は豊と手を繋ぎながら門をくぐった。組員「お疲れ様です、組長!!」 中にいた組員達が頭を下げていた。組長(当時)「良いか豊、今日からこいつらと俺がお前の家族だ。安心して暮らすと良い、たださっきも言った通り親から貰った名前だけは大切にするんだぞ。」 これをきっかけに豊は阿久津組の一員となった。 数日後、外で1人遊びをしていた豊にある組員が声をかけた。組員「豊、お前は俺達の事怖くないか?」 顔に多数の傷跡がある組員は近くにある縁石に腰かけて静かに話しかけていた。豊(当時)「お兄さん達の事を怖いと思った事は無いよ、父ちゃんが皆家族だっていってくれたもん。」組員「豊・・・、お前良い子だな・・・。」豊(当時)「どうしてお兄さんは泣いてるの?」組員「だって組・・・、いや豊にはまだ早すぎるかな・・・。」 組員が涙を拭いながら立ち上がると、豊は組員の足にしがみついた。豊(当時)「教えて、父ちゃんに何があったの?」組員「分かったよ、話すよ・・・。実はな、組・・・、いやお前の父ちゃんには昔、明って言う息子がいたんだ。お前の父ちゃんは明の学校の行事等には必ず出席する様にしてた、でも俺達は見た目がこの通りだから明は恥ずかしくなったのか嫌になったみたいで高校入学前にこの家から出て行っちまった。暫くして、偶然その明に会った時に俺は聞いたんだよ。どうして家を出て行ったんですかって。すると・・・。」明(回想)「俺な、父ちゃんや組員さんの所為で友達が出来なかったんだ。暴力団の家の人間だからって周りに怖がられて避けてられたんだよ、もうあんな思いをしたくなくて全然俺の事を知らない人ばかりの街でやり直す為に家を出たんだ。 この光景
last updateLast Updated : 2025-12-22
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6. 「あの日の僕ら2」77

-77 幹部として、そして息子として- 豊が阿久津組の幹部として活躍している光景を組長は嬉しく思っていなかった、寧ろ後悔をしていた。本当に暴力団の人間として生きていたいと思っているのだろうか、本人の意志なのだろうかと。 幼少の豊を山中で拾った時はこんな事になるとは思ってもいなかった、本来は普通の子供の様に義務教育や高等教育を受けさせて立派な社会人に育てようと誓っていたのだ。 それが故に、敢えて豊には「阿久津」の姓を名乗らさせず、親から貰った「渡瀬 豊」の名前を大切にするように伝えていた。決して明の二の舞にならない様にする為だ。 ある晴れた日曜日、縁側から自宅の庭園にあり複数の鯉が泳いでいる小さなため池を眺めていた組長は豊を自分の下に呼び出した。組長(当時)「ああ豊・・・、来たか。おはよう。」豊(当時)「おはよう父ちゃん、何だよ朝から。」 組長と幹部の関係以前に義理ではあるがやはり親子なので2人は互いを「豊」、そして「父ちゃん」と呼び合っていた。組長(当時)「急に呼び出して悪いな、1つお前に聞きたい事が有るんだ。」豊(当時)「聞きたい事って何だよ。」組長(当時)「いやな、お前は今の生活に満足しているのかなって思ってよ。実は俺自身、お前を組の人間にするつもりは無かったんだ。本当はお前を大学まで通わせて立派な大人にしようと考えてたんだぜ、それなのに折角入試に合格してた大学を蹴ってまで組に入ったからお前に気を遣わせたんじゃないかって思ってよ。」 豊は俯きながら答えた。豊(当時)「俺がこの家に来て間もない時なんだけど、ある組員に言われたんだ。「父ちゃんを元気づけてやって欲しい」って。その人から明さんの事、聞いちまったからさ。」組長(当時)「俺なんかの為に・・・。余計な事を言った奴がいるんだな、誰だそれは。」 豊はその組員の名前を告げた、ただ本人は数週間前の抗争で撃ち殺されていた。組長(当時)「あいつか・・・、義理人情に厚いやつだったもんな・・・。」豊(当時)「それで組の幹部になろうって思ったんだよ、ずっと父ちゃんの側にいたいと思ったから。」組長(当時)「そうか・・・、俺の側にか・・・。」 この言葉を聞いて組長はより一層不満げになった、暴力団同士の抗争の数々に参戦して多数の団員を殺していたのは自分の側にいたかったからなのかと。そして、自分の
last updateLast Updated : 2025-12-22
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6. 「あの日の僕ら2」78

-78 過去の優しい真相- 躊躇いながら話す息子の様子を義理の父親は見逃さなかった、先程の幹部と同様に組長も大学受験に向けて必死に勉強していた豊の様子を見て影ながらに応援していたからだ。組長(当時)「豊、無理していないか?お前の人生は他でも無くお前の物だ、お前の好きにして良いんだぞ。」豊(当時)「無理なんてしてないよ・・・、本当に父ちゃんと一緒にいたいと思ってたんだ。」 組長は即座に目の前の息子が嘘をついている事を見抜いた、目が泳いでいた上にあの日見た豊の眼差しを覚えていた為だ。しかし、その嘘が自分の為だと分かっていたので決して豊を咎めようとはしなかった。組長(当時)「そうか、分かった。何度も呼んで悪かったな。すまん、ちょっと煙草を買って来てくれるか?」 本人からの目線での昔話を語り終えた豊はゆっくりと目を開けた。豊「それから数日後に例の取引と抗争があって、俺は組を追い出されたんだ。」 すると、豊の話を聞いていた龍太郎が横から携帯を片手に声を掛けた。龍太郎「豊・・・、そんな取引や抗争が本当にあったと思うか?」 龍太郎の言葉に驚きを隠せない豊。豊「ど・・・、どういう事ですか?」龍太郎「ちょっと待てよ・・・。」 龍太郎は何処かに電話して確認した。龍太郎「おい剛毅(ごうき)、あの事を本人にそろそろ話しても良いか?と言うよりお前の口から話してくれよ。」 電話の相手が了承したらしく、龍太郎はスピーカーフォンに切り替えた。豊は「剛毅」という名前に聞き覚えがあった。電話の向こうの男性は豊に優しく語り掛けた。剛毅(電話)「豊・・・、元気にしているか?」豊「父ちゃん!!」 そう、電話の相手・剛毅は豊にとっての「父ちゃん」、阿久津組の組長だったのだ。剛毅(電話)「豊、お前には本当に申し訳ない事をしたと思っている。許せとは言わないがせめてあの時の事を話させてくれ。」豊「これは一体・・・。」 困惑を隠しきれていない豊は訳が分からなくなっていた。龍太郎「じゃあ聞くが、どうしてあの時現場にいるはずの俺があの橋の下にいたと思う?」豊「偶然だったのでは・・・、なく?」剛毅(電話)「実はな、赤江組の奴と龍さんに頼んで芝居を打って貰ったんだよ。」豊「という事は父ちゃん、俺を騙したってのか?!」龍太郎「待て!!剛毅はお前の為を思って俺達に頭下げたんだ
last updateLast Updated : 2025-12-22
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