-59 男の掌- 自分の知らない所にあった母と友人の温かな思い出話につい涙が流れた守、そんな中で悪いと思いながらも盗み聞きしていた王麗が2人に声をかけた。王麗「そういえばそんな事もあったね。真希子が周りの皆を心から愛し、周りの皆からも愛されてた。今でもそんな気がするよ。」 守は兎に角嬉しくて仕方がなかった、それと同時に母がどうして自らの葬儀を少人数で行うようにと遺書に書いてあったかを改めて考えていた。美麗「きっと周りの人を騒がせて迷惑をかけたくなかったからじゃないかな。」 よく考えれば昔からそうだった気がした、自分より他の人の事を優先させる性格。守「やっぱり母ちゃんは変わる事なく、優しかったんだな。皆に好かれるのも納得いくな。」王麗「本当だね、神様の事が意地悪に思えて仕方がないよ。」 今の王麗の台詞を一番に言いたかったのは他の誰でもなく守だった、恋人に続きたった1人の肉親を奪われたが故の抑えきれそうにない悔しさがこみあげてきた。しかしどれだけ悔やんでも2人が戻って来る訳ではない、どこかやり切れない気持ちを抱えながら初七日法要までを終えた一行は近くの日本料理店でささやかな食事を行った。これも真希子が遺書に書いていた事だ、どんな時でも周りの人への感謝の気持ちを忘れない、それを伝えたかったのだろう。 複雑な気持ちでいっぱいだった守を気遣ったのか、龍太郎が守のグラスにビールを注いだ。龍太郎「大丈夫か?」守「うん・・・。」 日本料理店の店主の厚意で飾られた真希子の写真を眺める守の背中にはまだ哀愁が残っていた、当然の事だ。注いでもらってから少し経っていたが故に泡が少なくなっていたビールを一口、ただ辛さが勝ったからか味を全く感じなかった。守「母ちゃん・・・。」 守はグラスを持つ手を強くした、今にも割れてしまいそうな勢いだ。そんな守の肩に龍太郎が手を乗せた。すると何故だか分らなかったが守は落ち着きを取り戻す事が出来た。それから一息ついた守は一先ず腹を満たそうと、出された食事に箸をつけた。嬉しい事に、今度は味がした。きっと龍太郎は守が忘れかけている「あの事」を思い出させてくれたのかもしれない。声に出さずとも動きだけで伝わった、「今日は周りに甘えても良い、決してお前を1人になんかはしない」と。 守の心は龍太郎への感謝でいっぱいだった、母親を失ったばかりの
Last Updated : 2025-12-09 Read more