彼は言った。「みんな、姉のことをすごく尊敬してるみたいですね」案内していた社員は笑って言った。「それは当然ですよ。大森部長は優秀ですし、うちのチームの人たちはみんな部長のことが大好きなんです」ましてや、大森部長と藤田社長の関係もあって、チームの福利厚生もかなり充実している。もちろん、それは口には出さなかった。姉のことを褒められた徹は、嬉しそうに微笑み、内心少し誇らしく感じた。とはいえ、彼は優里の仕事を邪魔するつもりはなかった。彼は言った。「他のところも見せてください」「かしこまりました」そうして徹たちが外へ出ようとしたところ、ちょうど入口から入ってきた辰也と鉢合わせた。徹の案内役は慌てて辰也に挨拶した。「島村さん」辰也は軽く頷き、そばにいた徹に目をやった。まだあどけなさの残る顔立ちに、学生らしい爽やかな服装。どう見ても社会人には見えず、彼はすぐに徹の素性を察した。だが、彼は何も言わなかった。代わりに案内役が紹介した。「こちらは大森部長の弟さんの徹さんです」徹は辰也と会うのは初めてだった。けれど、徹は辰也のことを知っていた。案内役が「島村さん」と呼んだのを聞いて、徹は尋ねた。「あなたが辰也兄さんですか?」辰也は頷いて「こんにちは」と言った。徹も笑って「こんにちは」と返した。徹がさらに何か言おうとしたその時、辰也はすでに近くで仕事をしている玲奈を見つけていた。「ちょっと、あちらへ失礼します」そう言い残し、徹や案内役の反応を待たずに、玲奈の方へ歩いていった。徹は一瞬きょとんとした。未来の義兄の友人たちは、姉ともすごく仲がいいって聞いてたけど?なんだか、辰也の態度は少しそっけなく感じたが?だが、辰也は徹の気持ちなど気にも留めていなかった。彼はそのまま玲奈のそばまで歩いて行き、声をかけた。「玲奈さん」玲奈が振り返り、彼の姿を見て一瞬止まった。「辰也さん」年末が近づき、辰也も忙しくしていた。彼と玲奈は実のところ半月近く会っていなかった。しかも、あの日玲奈と話した後すぐ、彼は上層部と極秘に面談していた。けれど、その件について彼は一切触れず、玲奈を見つめながら訊いた。「今週末のうちの会社のパーティー、玲奈さんは出席されますか?」玲奈は答えた。「出席します」彼が
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