食事の途中で、清司はふと思い出したように優里に話しかけた。「そうだ、長墨ソフトが今、採用を拡大してるんだけど、また受けてみるつもりない?」優里はついこの間まで海外にいたが。長墨ソフトの拡大採用についてはすでに知っていた。正直、心は大きく動いた。何しろ長墨ソフトの技術力は本当に優れている。長墨ソフトに入社できれば自身の成長にも大きく寄与するはずだ。ただ……彼女が玲奈の側から圧をかけられるのを心配しているのを察し、清司は軽く笑って言った。「昨日、友達に会ったんだけどさ。技術者の採用以外に、礼二も今は管理職の人材を探してるらしいよ。長墨ソフトの採用状況を見る限り、礼二は彼女のために管理ポストを一つも空けてないみたいだ」この「彼女」とは、当然、玲奈のことだった。長墨ソフトの社内で拡大と再編が進んでいる今は、本来なら玲奈に役職を与える絶好のタイミングだった。にもかかわらず、礼二は一つもポジションを用意していない。それは、礼二がまだ冷静で、玲奈のわがままに振り回されていないことの証でもあった。あるいは、二人の関係にすでに綻びが生じているのかもしれない。いずれにせよ、玲奈が今後も長墨ソフトで役職に就かないままだとすれば、彼女の影響力は確実に低下する。だからこそ、今このタイミングで優里が長墨ソフトに入るのは、悪くない選択だった。礼二が玲奈をどれほど大事にしているか、優里はよく知っている。年末のパーティーでも、礼二は玲奈に冷たくされたことを気にしていた。それが、こんなにも早く二人の間に距離ができるとは、さすがに意外だった。優里は少し驚いたように固まった。しかし……けれど、冷静に考えれば、さほど驚くことでもなかった。最初から分かっていたのだ。玲奈が礼二を永く繋ぎ止めておけるはずがない。この日が来るのは、いずれ当然だった。彼女は自然な微笑みを浮かべ、軽く言った。「わかったわ。あとで時間作って、履歴書送ってみる」清司はにやりと笑い、ずっと黙っていた智昭の方を見て茶化すように言った。「藤田総研のほうは、智昭がわざわざ君のためにプロジェクト立ち上げたってのに、君はあっさり辞めちゃうんだな……」智昭は茜に料理を取り分けながら、淡々と答えた。「大したことじゃない」優里は彼がそう答えるだろうと分かっていた。
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