楓は今や完全に縮み上がっていた。特に冬真の態度が急変し、「私がここに来たのは、お前が楓を傷つけるのを止めるためだ」という言葉に肝を冷やしていた。馬鹿にしているのか!楓は冬真に追い詰められて、行き場を失ってここに駆け込んできたのだ。夕月に命だけは助けてもらいたい一心だった。「と……冬真、まさか私のお腹の子を……堕ろすつもりじゃないでしょうね?」楓の心臓はまだ激しく打っている。病院から逃げ出してきたばかりなのだ。冬真は自分の子供でさえ、その手で始末できる男だ。二十数年の幼馴染みとしての絆も、冬真はあっさりと断ち切った。一時間前、楓は手術台に送られる寸前だったのに、今になって冬真は夕月に向かって楓の子を気遣うような口ぶりを見せている。そんな嘘で騙されるのは夕月くらいのものだろう。「楓、こっちに来い」冬真の声に、楓の身体が震えた。まるで鋭く冷たい氷柱が足元から突き上がって、足の裏を貫いているかのような痛みが走る。軽はずみな行動は取らず、夕月の陰に身を隠したまま、楓は冬真と交渉を続けようとする。「本当にこの子に責任を取るつもりなの?」男の眼に殺意にも似た冷たさが宿る。楓の煮え切らない態度と度重なる確認に、苛立ちが募っていた。「いい加減に出てこい!」楓が必死に声を上げた。「約束して!お腹の子に危害を加えないって約束して!今すぐSNSに……私と結婚するって投稿してよ!」男の瞳に棘のような冷たさが宿る。「調子に乗るな」夕月には分かっていた。楓は冬真を恐れている。追い詰められなければ、こんなところまで逃げ込んでこない。夕月が口を開く。「楓、あなたの方から先にSNSで発表したら?橘冬真の子を妊娠したって。それを見れば、きっと橘社長もすぐに反応してくれるでしょうね」夕月の瞳に面白そうな光が踊る。振り返ると楓を見据えた。「ずっと彼と一緒になりたかったんでしょう?念願が叶うのよ。なのに、なぜ私の後ろに隠れているの?」楓の顔が青ざめる。冬真の前でこれほどみじめな姿を夕月に見られたくなかった。「夕月……冬真は私が妊娠するなんて考えてもいなかった。まだ受け入れられないだけよ。それに、あなたと冬真が離婚したばかりなのに、私はあなたの実妹なんだから……いきなりSNSで公表したら、藤宮家の評判に関わるじゃない」夕月の
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