Semua Bab 再び頂点に戻る、桜都の御曹司にママ役はさせない: Bab 551 - Bab 553

553 Bab

第551話

男が料理をする姿など、これまでも見慣れてきた。物心ついた頃から、兄の天野がキッチンに立つ姿を見て育ったのだから。けれど、天野が料理をする一挙手一投足を、うっとりと見惚れるような気持ちで眺めたことなんて、ただの一度もなかった。どうしてこの人は、キッチンに立っているだけでこんなにも優雅なのだろう。自分がキッチンに立つときは、たとえ簡単なサラダを作るだけであっても、ボウルをかき混ぜる自分の姿に見惚れるような要素など微塵もないというのに。涼は何をしていても優雅な人だった。助手席に座って、自分のナビゲーターを務めてくれる時も。キスをする時も、その目元は、目を逸らせなくなるほど上品で──彼の背筋は、すっとまっすぐに伸びている。リビングに設置されたカメラは、ちょうどキッチンの入り口を向いていて、彼の長い脚や九頭身はあろうかという抜群のスタイルを、余すことなくフレームに収めていた。そこへ、瑛優が画面に現れ、涼のそばに寄ると、涼は出来上がった料理を瑛優に手渡す。この食事は瑛優と二人で食べるからだろう、量は少なめなのに、使っているお皿は少し大きめだ。瑛優が料理をテーブルに運ぶのを手伝うと、涼はご飯をよそってキッチンから出てきた。その時、彼が何気なく監視カメラの方向にちらりと目を向けたのを、夕月は見てしまった。その一瞥に、夕月は訳もなく後ろめたい気持ちになる。まるで自分が覗き見をしている盗人のようだ。……まさか涼は、今まさに誰かが監視カメラで自分を見ているなんて、知らないわよね?いや、そもそも自宅に成人男性がいるのだから、監視カメラで涼の一挙手一投足を見張っていたって、何の問題もないはずだ。涼は席について瑛優と一緒に食事を始める。二人のお茶碗に盛られたご飯の量は、ほとんど同じだった。瑛優はお箸を持つと、大きな口で料理を頬張り、実に美味しそうに食べている。近頃の涼の作る料理は、ますます瑛優の口に合うようになってきているようだ。モニター越しに瑛優が食事する様子を見ているだけで、夕月の胃がきゅうっと音を立てて空腹を訴えてくる。何もない胃腸がうねり、小さく反響しているのが自分でもわかった。その時、社長室のドアがノックされ、夕月はデスクのボタンを押してロックを解除した。入ってきたアシスタントが告げる。「社長、ご注文の夕食が届きました」
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第552話

アシスタントはぱあっと顔を輝かせた。「社長と、お兄様ってそんなに仲が良いんですね!素敵、羨ましいです!」夕月はアシスタントに微笑み返しながら、身代わりにされてしまった天野に、少し申し訳ない気持ちになった。「ええ、昔から兄とは仲が良いの。料理が好きで、すごく面倒見がいい人だから」「わあ!そんな素敵なお兄様がいらっしゃるなんて、本当に羨ましいです。では、お食事の邪魔はいたしませんので。ごゆっくりどうぞ」アシスタントが退室すると、夕月はほっと胸をなでおろした。彼女は再び弁当箱を開け、中にぎっしりと詰められた、彩り豊かなおかずを眺める。しかも、その全てが自分の好物ばかりだった。夕月は食事を始め、目の前にはスマホスタンドに立てかけられたスマートフォンが置いてある。画面には、自宅の監視カメラの映像が映し出されていた。そこで彼女は気づいた。食卓に並んでいる料理のいくつかが、自分の弁当に入っているものと同じであることに。涼と瑛優は食べるペースが速い。食事のたびに、夕月は瑛優にゆっくり食べるよう言い聞かせ、時には口に入れたら十回は噛んでから飲み込むように数えてやったこともあった。しかし涼が瑛優の面倒を見るとなると、夕月のようにそこまで細かく気を配ることはできないし、食べるペースに直接口を出すのも憚られるのだろう。夕月が顔を上げると、モニターの中では、瑛優が涼の後片付けを手伝っていた。「今日の食事、ちょっと速すぎたかな」キッチンに入ってから、涼は自分の食べるペースと瑛優の食べるペースが違うことにようやく思い至ったようだ。瑛優が自分と同時に食べ終わったということは、彼女が普段より速く食べたということになる。「だって、涼おじさんのご飯が美味しすぎるんだもん!」瑛優が甘えるように言うと、涼は愛おしそうに目を細めた。「次からは、一口ずつ大事に味わいたくなるような、君だけの特別なお皿を探してあげよう。ママがいない時こそ、ちゃんとゆっくり噛んで食べないとね」瑛優はわざとらしくぷくっと頬を膨らませてみせる。涼が自分のためを思って言ってくれているのはわかっていたが、彼と二人きりの食事だからこそ、こっそり食べるペースを上げてしまったのだ。「だって、涼おじさんのご飯、すっごく美味しいんだもん。ゆっくり食べてたら、お腹が空いて死んじゃいそう
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第553話

すぐに涼から返信がポップアップ表示された。【御意】夕月は唇の端を上げた。その言葉を口にする涼の声が、すぐ耳元で聞こえたような気がした。続けて、涼からもう一通メッセージが届く。【次も、夕食を届けていいだろうか】そこには、伺うような慎重さが滲んでいた。【あなたの料理、とても美味しかったわ】と夕月は褒めた。そして尋ねる。【これからの私の夕食、あなたに任せてもいいかしら】【御意!】涼から返ってきたのは、またしてもその一言だった。夕月:【桐嶋さんは、ロールプレイングがお好きなの?今のあなた、まるで騎士みたいよ】涼からの返信が画面に表示される。【君だけの騎士になろう】夕月の指先が、スマートフォンの画面の上を素早く滑った。【騎士は、主人に不埒な考えを抱いてはいけないものよ】彼女は画面に表示された、自分と涼のやり取りをじっと見つめる。まるで、いちゃついているみたいだ。夕月は口元に何とも言えない表情を浮かべた。自分が無意識のうちに惹きつけられているのを感じる。そこには涼の意図的な誘導があるのかもしれない。けれど、彼の誘導は静かに深く流れる水のように、知らず識らずのうちに染み込んでくるものだった。彼が自分に寄せる想いは、夕月も当然気づいている。それでもこの男は、微塵の攻撃性も感じさせなかった。彼はただ、夕月が今まで一度も見たことも、体験したこともない世界の扉を開けて見せてくれただけ。涼の世界に足を踏み入れるかどうかは、全て夕月の決断に委ねられている。そう、この男は、一度たりとも強引に彼女の世界へ侵入してきたことはなかった。そして今、涼が彼女の世界に存在しているのは、ひとえに彼女自身の黙認と、彼女からの積極的な招き入れによるものなのだ。涼からの返信が、画面に浮かび上がる。【俺はただ、君の意のままに動くだけだ。君のどんな望みにも従う。もし助けが必要なら、どうか一番に俺を思い出してほしい】夕月はその数行の文字の上を、何度も何度も視線でなぞった。心臓の鼓動が速くなっているのに気づき、夕月は咄嗟にスマートフォンを置いた。数回深呼吸をしてから、込み上げてくる衝動を食欲へと転化させ、弁当箱に残っていたご飯を綺麗に平らげた。深夜まで会社で残業は続いた。夕月はオフィスチェアに深くもたれかかり、天井を見上げ
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