男が料理をする姿など、これまでも見慣れてきた。物心ついた頃から、兄の天野がキッチンに立つ姿を見て育ったのだから。けれど、天野が料理をする一挙手一投足を、うっとりと見惚れるような気持ちで眺めたことなんて、ただの一度もなかった。どうしてこの人は、キッチンに立っているだけでこんなにも優雅なのだろう。自分がキッチンに立つときは、たとえ簡単なサラダを作るだけであっても、ボウルをかき混ぜる自分の姿に見惚れるような要素など微塵もないというのに。涼は何をしていても優雅な人だった。助手席に座って、自分のナビゲーターを務めてくれる時も。キスをする時も、その目元は、目を逸らせなくなるほど上品で──彼の背筋は、すっとまっすぐに伸びている。リビングに設置されたカメラは、ちょうどキッチンの入り口を向いていて、彼の長い脚や九頭身はあろうかという抜群のスタイルを、余すことなくフレームに収めていた。そこへ、瑛優が画面に現れ、涼のそばに寄ると、涼は出来上がった料理を瑛優に手渡す。この食事は瑛優と二人で食べるからだろう、量は少なめなのに、使っているお皿は少し大きめだ。瑛優が料理をテーブルに運ぶのを手伝うと、涼はご飯をよそってキッチンから出てきた。その時、彼が何気なく監視カメラの方向にちらりと目を向けたのを、夕月は見てしまった。その一瞥に、夕月は訳もなく後ろめたい気持ちになる。まるで自分が覗き見をしている盗人のようだ。……まさか涼は、今まさに誰かが監視カメラで自分を見ているなんて、知らないわよね?いや、そもそも自宅に成人男性がいるのだから、監視カメラで涼の一挙手一投足を見張っていたって、何の問題もないはずだ。涼は席について瑛優と一緒に食事を始める。二人のお茶碗に盛られたご飯の量は、ほとんど同じだった。瑛優はお箸を持つと、大きな口で料理を頬張り、実に美味しそうに食べている。近頃の涼の作る料理は、ますます瑛優の口に合うようになってきているようだ。モニター越しに瑛優が食事する様子を見ているだけで、夕月の胃がきゅうっと音を立てて空腹を訴えてくる。何もない胃腸がうねり、小さく反響しているのが自分でもわかった。その時、社長室のドアがノックされ、夕月はデスクのボタンを押してロックを解除した。入ってきたアシスタントが告げる。「社長、ご注文の夕食が届きました」
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