写真を撮った男は、手にしたカメラを眺めながら、満足そうに口元をつり上げた。「この一枚なら、きっといい値段で売れる」少し前、ある人物に雇われ、この女の写真を撮るよう頼まれた。これだけ撮れたんだ、きっと高くなる。顔には抑えきれない笑みが溢れそうになる。こんな美味しい話が自分に転がり込むなんて、これからもっと楽にやっていけるだろう。しかも、自分の得意分野ど真ん中。――鳴り城郊外。辰琉は全身を目立たないように装い、どこか薄汚れたような格好をしていた。髪は雑草みたいにぼさぼさで、周囲を一度見回すと、帽子のつばを指で押し下げ、陰鬱な目を隠した。郊外の別荘を見つめ、胸の奥にかすかな安堵が生まれる。静まっていたはずの心に、また波紋が広がる。緒莉の件を経験してから、もう誰にも何にも興味なんて持てないと思っていた。けれど今は違う。真白のそばへ近づこうとする今、心は少しも動かない。真白なんて、所詮は踏み台にすぎない。真剣になるつもりなんて最初からなかった。でも今思う。結局のところ、戻って来るのは同じ女だと。そして、自分に一番合うものは、ずっとそばにあったと気づく。どうして今まで気づかなかったんだろう。服を整え、さらに帽子を深くかぶり、別荘へ向かって歩き出した。――屋内では、真白がご機嫌で花を生けていた。生活は退屈だが、自分で楽しみを見つけないといけない。このところ辰琉が近寄ってこない。真白にとっては、貴重な休息の時間だった。陽光が彼女の繊細で美しい横顔に影を落とし、長い指先が丁寧に育てた花びらをそっと撫でる。今、真白の心は穏やかだ。辰琉さえ来なければ、何をしても構わない。ただ彼から離れられればそれでいい。今の彼女の望みは、それだけ。外で何か物音がした。このところ、使用人の足音や口調を聞き慣れてしまった真白は、すぐに来たのが使用人ではないと気づく。花びらを握りしめ、気づかれないように息を潜めた。ここに来て以来、訪れるのは辰琉か使用人だけだった。じゃあ、今の足音は誰?まさか、前から来ていた?ただ自分が気づかなかっただけ?それでも、何かがおかしい。この足音――どこかで聞いた気がする。でも誰なのか、思い出せない。確かめるしかない。
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