美月は娘の様子に違和感を覚えたが、ここは外。娘の顔を潰すわけにはいかない。娘のために来たのに、逆に問い詰められるなんて、そんな構図は許せない。「うちの娘を問いただす権利が、あなたにあるとでも?」美月の声は冷ややかで、どこか嘲笑を含んでいた。「そもそも逃がしたのはそっちでしょ。それに、辰琉はうちの娘にあれだけの傷を与えたのよ。今、捕まえられなかったことに娘が動揺するのは、当然じゃない?」その言葉に、執事と孝寛は視線を交わした。どこか妙な違和感は残るが、言っていること自体は筋が通っている。反論の余地はない。孝寛は慌てて頭を下げる。「おっしゃる通りです、二川会長。私が軽率でした。深く考えずに申し訳ありません。ただ、今の状況では、どう動いていいのか......」苦笑しながら続ける。「正直に言いますと、この数日ずっと探しているんですが......あの不肖の息子、私のカードまで持って逃げましてね。本当に素早い逃げ足で」緒莉は無意識に手を握りしめる。「本当に、何の手がかりもないの?」「ええ、まったく」孝寛は苦笑まじりに言い、そしてふと表情を変えた。「......ちょっと余計なことを言うかもしれませんが......緒莉さん、うちの息子は一時はあなたの婚約者だったんですよね。それなのに......そこまでして彼を刑務所に送ろうと?」言葉を区切るごとに、重く沈む空気。その響きが、緒莉の胸にじわりと沈んでいく。けれど、彼女は顔色を変えずに返す。「余計な話だと分かってるなら、言わなくてもいいんじゃない?お母さんが言った通りよ。私の声の今の状態は全部彼のせい。もう彼に情なんてないから」小娘に正面から斬られた形で、孝寛の顔にも不快が滲んだ。だが、飲み込むしかない。ゆっくりと体を起こし、言う。「分かりました。そうおっしゃるなら、私も言うことはありません。息子に未練がないなら、安心しました。情が残っていると厄介ですから」緒莉は鼻で笑い、冷ややかに目を細めた。「安心して。こんな仕打ちを受けて、まだ未練があるなんて......私、そこまでマゾじゃないわ」その言葉に返す間もなく、美月が苛立ったように遮る。「もういいでしょう。今日は感情論を語り合いに来たわけじゃないわ。そちら
더 보기