クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!의 모든 챕터: 챕터 1051 - 챕터 1060

1114 챕터

第1051話

美月は娘の様子に違和感を覚えたが、ここは外。娘の顔を潰すわけにはいかない。娘のために来たのに、逆に問い詰められるなんて、そんな構図は許せない。「うちの娘を問いただす権利が、あなたにあるとでも?」美月の声は冷ややかで、どこか嘲笑を含んでいた。「そもそも逃がしたのはそっちでしょ。それに、辰琉はうちの娘にあれだけの傷を与えたのよ。今、捕まえられなかったことに娘が動揺するのは、当然じゃない?」その言葉に、執事と孝寛は視線を交わした。どこか妙な違和感は残るが、言っていること自体は筋が通っている。反論の余地はない。孝寛は慌てて頭を下げる。「おっしゃる通りです、二川会長。私が軽率でした。深く考えずに申し訳ありません。ただ、今の状況では、どう動いていいのか......」苦笑しながら続ける。「正直に言いますと、この数日ずっと探しているんですが......あの不肖の息子、私のカードまで持って逃げましてね。本当に素早い逃げ足で」緒莉は無意識に手を握りしめる。「本当に、何の手がかりもないの?」「ええ、まったく」孝寛は苦笑まじりに言い、そしてふと表情を変えた。「......ちょっと余計なことを言うかもしれませんが......緒莉さん、うちの息子は一時はあなたの婚約者だったんですよね。それなのに......そこまでして彼を刑務所に送ろうと?」言葉を区切るごとに、重く沈む空気。その響きが、緒莉の胸にじわりと沈んでいく。けれど、彼女は顔色を変えずに返す。「余計な話だと分かってるなら、言わなくてもいいんじゃない?お母さんが言った通りよ。私の声の今の状態は全部彼のせい。もう彼に情なんてないから」小娘に正面から斬られた形で、孝寛の顔にも不快が滲んだ。だが、飲み込むしかない。ゆっくりと体を起こし、言う。「分かりました。そうおっしゃるなら、私も言うことはありません。息子に未練がないなら、安心しました。情が残っていると厄介ですから」緒莉は鼻で笑い、冷ややかに目を細めた。「安心して。こんな仕打ちを受けて、まだ未練があるなんて......私、そこまでマゾじゃないわ」その言葉に返す間もなく、美月が苛立ったように遮る。「もういいでしょう。今日は感情論を語り合いに来たわけじゃないわ。そちら
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第1052話

孝寛の性格は決して温厚ではなかったが、執事に対してはずっと惜しみなく待遇してきた。給料も待遇も一度も削られたことはない。けれど今の孝寛は、どこか変わってしまったように執事には見えた。そう思う理由は一つ。すべて、美月に追い詰められたせいだと。誰だって、ここまで圧力をかけられれば、心が軋むだろう。美月は緒莉に視線を向けた。その瞳に宿る怯え──それだけで胸が痛む。娘がまだ恐怖に囚われているのだと、そう思った。だって、首を絞められた相手なのだ。娘は弱い女性だ。腹に何か悪意を抱くはずがない。まして、あんな男に対してなら、恐怖するのが当然。「処置は任せるというなら、こちらも遠慮なく動くわ」美月は冷静に言い放つ。「見つけたら、安東家には戻さず、そのまま警察に引き渡す」厳しい声音。しかし孝寛はむしろ嬉しそうだった。「もちろんです!そのまま連れて行ってください。うちでもう面倒を見るつもりはありません。あんな役立たず、置いても邪魔ですし。何より、緒莉さんを傷つけたのは事実。我々に非があります。必ず償いますとも」その満足げな笑み。美月は鼻で笑いそうになる。彼女は金を愛している。だが、子より金を選ぶような人間ではない。いくら財産があっても、継ぐ者がいなければ、最後は他人のものになる。そんなこと、彼女はよく理解していた。だというのに──孝寛はなぜここまで息子を切り捨てられる?「本当に、それでいいのね?」美月が問う。孝寛は力強く頷いた。「もちろんです。迷いはありません。狂ったふりまでして我々を欺いたんだ。その責任は自分で負うべきです。そもそも、悪いのはあいつです」その断言に、美月も言葉を失った。ここまで決めている親を、外野がどうこう言っても意味はない。自分の子ではない。親が切り捨てると決めたのなら、それが答え。「分かったわ。では」そう言って美月が踵を返す。しかし孝寛が慌てて追いすがった。「あの、二川会長!二川グループとの協力は......」美月は振り向かずに言い放つ。「過去の契約は切らない。でも、今後はないわ」それだけ告げ、緒莉とともに去っていく。孝寛がどれだけ利己的か、見切っていた。これで完全に縁は切れた。
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第1053話

これから先、安東家の道はますます順調になるだろう。二川家という脅威さえなくなれば、彼に怖れるものなど何ひとつない。グループも、ただただ上り調子になるはずだ。だが、孝寛は「上には上がいる」という道理を見落としていた。二川家の脅威は消えたとしても、まだ椎名グループが待ち構えている。今回彼が敵に回したのは美月だけではない。身内を守る男――その存在も忘れてはならない。......その頃、辰琉は小さな宿に身を潜めていた。今の彼は多くの人間に追われており、うかつに姿を見せることすらできない。捕まれば終わり――そのことは本人が一番よくわかっていた。だが、頭に浮かぶ場所がひとつある。真白のために用意していた別荘だ。郊外にあり、人の気配も少ない。時折、食事を運ぶ使用人が訪れるだけ。その使用人は長年雇っており、信用できる人物だ。そこだけは、辰琉も自信を持てる場所だった。しかし今の問題は、どうやって郊外まで行くのかだ。考えれば考えるほど、頭が痛くなる。途方に暮れていたそのとき、宿へ向かってくる一団が目に入った。最初は気にも留めなかったが、彼らの話し方を聞くうち、胸に嫌な予感が走る。――自分を探しに来た。直感がそう告げた。辰琉は目を細め、派手ではない彼らの顔ぶれを観察する。知った顔はひとつもない。つまり、父が差し向けた者ではない。――父は自分を差し出したのだ。彼らは警察か、美月の手の者に違いない。胸の奥が一気に冷えた。まさか、自分が安東家の御曹司からこんな惨めな姿に堕ちるとは。――緒莉......全部そいつのせいだ。いつかまた立ち上がれるなら、絶対に許さない。......二川家。緒莉は寝室の中をそわそわと歩き回っていた。まさか、あの男が狂っていなかったとは。どうりであの目つき......ずっと何かがおかしかった。胸の奥がぞわりとしたあの感覚は、間違っていなかった。真実はいつもどこかに痕跡を残す。手が震え、彼女はぎゅっと拳を握る。――もう怯えちゃダメ。帰りの車の中で、美月は彼女の汗をかいた手に気づき、問いただしてきた。なぜそんなに緊張しているのか、と。彼女は安東家で使ったのと同じ理由を口にした。「怖かったから」
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第1054話

緒莉は気丈に言った。「お母さん、心配しないで。私は大丈夫だよ。もし辰琉を見つけられないなら......それでもいいの」美月はすぐに不満げに眉をひそめた。「ダメよ!まだ始まったばかりじゃない。なんで諦めるの?」緒莉はうつむき、ほんの一瞬で目が赤く染まる。再び顔を上げたとき、瞳には涙が溢れそうに光っていた。「お母さん、私だって諦めたわけじゃないの。声をこんなふうにした相手よ。私、もう疲れたの。これ以上あの人と何も話したくない。もし見つけられないなら、もういい。この数年の情分だったと思って、今後は二度と会わないだけでいいでしょ......」涙を散らす娘を見て、美月の胸も締めつけられる。彼女は一歩近づいて緒莉を抱きしめ、背中を優しく叩きながら慰めた。「泣かないの。緒莉がどう決めても、お母さんはずっとあなたの味方よ」言葉数は多くない人だが、美月の愛情は揺るぎない。「追うのをやめるって言うなら、手を引くわ。あなたが望むなら、お母さんは何だってするよ」その言葉に、緒莉はさらに胸がいっぱいになる。母をぎゅっと抱きしめ返し、涙声で言った。「お母さん......ありがとう。お母さんの気持ち、よくわかった。これからは何を決めるにしても、ちゃんと相談するから」「緒莉はいい子ね」美月は静かに目を細めた。この部屋には、穏やかな温かさが満ちていた。......一方、辰琉の状況はまるで対照的だった。ずっと背後にぴったり張りついてくる影を見ながら、彼の顔色は土のように暗い。最初は「形だけの追跡だろう」と思っていた。だが、途中で明らかに雰囲気が変わった。追っていた者たちは突然指示を受けたように散開し、緊張感が消え失せたのだ。それを見て、辰琉も足を止める。胸を締めつけていた焦りは、冷たい疑念に変わる。――本当に追う気がなくなった?それとも、別の指示で、ゆっくり確実に自分を追い詰めるつもりか?陰りを帯びた瞳が、鋭く光る。今、彼には信じられる人間などいない。この世で頼れるのは自分だけ。その思いを深く刻みつけながら、「真白を連れて、この街から消える」と決めた。奥歯を噛みしめ、車を借りて郊外へ向かう。......その頃、美月のもとにはすでに連絡が届いていた。
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第1055話

この二つの件、どれ一つ取っても美月が怒らないはずがない。触れてはいけない相手に手を出し、しかもそれが彼女の最も大切な二人の娘。まるで大動脈を切られたようなものだ。だから美月が今していることは、緒莉の顔を立てて「少しだけ手を緩めている」に過ぎなかった。山口はこらえきれず口にした。「会長、どうしてあんなクズをまだ泳がせておくんですか。もう居場所もわかってるんですし、すぐ捕まえて警察に突き出すべきでしょう」彼も紗雪の件を知っている。辰琉を法の裁きに委ねなければ、紗雪にとってあまりにも不公平だ。その言葉に、美月の表情が一瞬揺れた。確かに、辰琉は二人の娘に傷を負わせた。ここで自分が一方的に緒莉の言葉通りにするなら、紗雪への裏切りになる。それは彼女にとって、最も残酷なこと。美月はゆっくり口を開いた。「今あなたに辰琉を見張らせているのは、そういう覚悟があるからよ」彼女は大きな窓越しに外を見つめ、顔に陰を落とす。「紗雪がつらい思いをしたのはわかってる。でも、もう過ぎた話よ。今緒莉が『見逃してほしい』と言った......その願いを聞いてやってもいいでしょ?」それを聞いた山口は、目を丸くした。こんなにも緒莉を甘やかしていたとは。しかも、一番大きな被害者は明らかに紗雪であるのに。なのに美月はただ監視を命じただけで、それ以上の強硬策は取らない。山口は胸の中でため息をつく。――こんな偏った母親なら、いない方がいいのではないか。そう思う一方で、口に出すつもりはなかった。自分はただの部下。退出しようとしたとき、美月が声をかけた。「紗雪を呼んで」山口は一瞬動きを止めたが、すぐに返答する。「承知しました」美月が軽くうなずき、彼は静かに扉を閉めた。美月は満足げだった。長年そばに置いているだけあって、目配りが利き、余計な騒ぎを起こさない部下。信頼も厚く、仕事もそつがない。だからこそ使いやすい、と。以前、山口は美月を尊敬していた。時代を先取る独立した女性――ずっとそう思っていた。しかし今、その評価は揺らいでいる。自分の子どもたちなのに、一方に偏りすぎている。それはあまりにも不公平だ。だが、美月という人間を知りすぎている。正面から意見すれば、
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第1056話

それに、もし余計なことを言えば、美月は紗雪に対してさらに冷たくなるだろう。まるで紗雪が自分を使って母親に意見させていると誤解するに違いない。実際には、そんなこと全くないのに。山口は心の底からため息をつく。状況がどう変わろうと、美月の特定の人物への「偏愛」には勝てないのだ。緒莉のときと同じ。目の前に紗雪を傷つけた加害者がいても、別の「可愛い子」のためなら、もう一人の娘を傷つける選択をしてしまう。その滑稽さに、思わず苦笑が漏れた。紗雪のオフィスに着き、ガラス越しに中を見ると、彼女は机に向かい、何かを集中して書いていた。山口がノックすると、中から視線も上げずに「どうぞ」と声がする。その声に安心し、扉を開けた。「紗雪様、会長が用があるそうです」彼は丁寧に告げる。紗雪に対しては、ただの部下以上の敬意を抱いていた。能力があり、部下にも誠実で、何より忍耐強く努力家。取締役たちが陰口を叩こうと、決して怒らず、いつも穏やかに理をもって対処していた。「母が?何の用でしょう」紗雪は顔を上げ、困惑の表情を浮かべる。最近会ったばかりなのに、また呼ばれるなんて。安東家の件で何か問題でも出たのだろうか?山口は首を振る。「私も詳しいことは......」これ以上山口を困らせるわけにはいかない。これは彼女と美月の事情だ。「急いでるの?」「お早めに行かれたほうがいいと思います」紗雪は立ち上がる前に、机の書類に視線を落とす。一瞬だけためらったが、すぐに決心したように身を起こした。母が呼んでいる以上、避ける必要はない。「わかった、あとで行くよ」それを聞き、山口はほっと息をついた。――この母子関係、以前とは比べ物にならないほどぎくしゃくしている。彼が退室すると、紗雪は机上の契約書類を整える。そこに記されている数字と事実は残酷だった。多年にわたり、安東家は二川グループに寄生し、利益をほとんど返していない。これでは協力を続ける意味などない。こんな吸い上げるだけの会社、残して何になる?ただ自分を苛立たせるだけだ。滑稽に思えて、少し笑いがこぼれる。でももう心配はいらない。この資料を母に見せれば、必ず理解してくれる。安東家との協力は近いうちに解消されるだろう
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第1057話

紗雪が美月のオフィスへ向かう途中、彼女の顔には抑えきれない笑みが浮かんでいた。安東との繋がりさえ断ち切れば、その先はもう自分が手を下す必要もなく、安東グループは自ら崩れていく。そんな可能性を思うと、紗雪はむしろ面白く感じた。そうなれば、辰琉は今後二度と立ち上がれなくなる。そう考えると、紗雪はますます力が湧いてくる気がした。今一番重要なのは、安東家を切り離すこと。そうすれば、二川全体の環境もずっと健全になり、あの虫けらたちもいなくなる。安東家がずっとグループの血を吸ってきたことを思うだけで、紗雪の胸には苛立ちが広がる。以前は緒莉の顔を立てて黙っていたが、今となっては、あの二人に対して何の情けをかける必要なんて、ない。資料を抱え、紗雪は美月のオフィスへと向かった。今回は一度でしっかり伝えるつもりだ。安東家を助ける必要はもうどこにもない、と。オフィスに到着すると、美月はすでに中で待っていた。彼女がノックするより先に、「入りなさい」と声がかかった。まるで彼女を待ち構えていたかのように。紗雪は一瞬驚いたが、すぐに扉を押し開けた。美月はいつものように仕事をしているわけではなく、来客用のテーブルで茶を淹れていた。部屋には柔らかな茶の香りが漂っている。手元を動かしながら、美月はちらりと紗雪を見て、「来たのね。こっちに座りなさい」と言った。美月のこうした態度に、紗雪は少し驚いた。以前も礼儀正しくはあったが、こんなふうにまるで頼み事があるかのような態度はなかった。そんな可能性を思い浮かべた瞬間、紗雪は軽く頭を振り、その奇妙な考えを追い払った。母娘なのだから、そんな隔たりがあるわけがない。まして頼み事なら、直接そう言えばいいだけだ。紗雪は資料を持ったまま、唇を結び美月の向かいに座った。軽く頷き声をかける。「会長」美月の手がぴたりと止まり、胸の奥に苦味が広がる。少しの間を置き、「紗雪、ここは会社とはいえ、母さんって呼んでいいのよ、そんな――」と口を開いた瞬間、紗雪が遮った。「会長、ここは会社です。距離を保ったほうがいいかと」冷たく、よそよそしい一言。変える気など、初めからない。彼女ははっきり覚えている。以前、会社で美月は彼女に厳しく言い聞かせたのだ。「会社
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第1058話

美月は冷たい表情のまま、湯気の立つ茶を紗雪の前に置いた。「今日はあなたを呼んだのは、相談したいことがあるからよ」「会長こそ、この会社の実質的な決定権者です」紗雪は茶を一口含み、ほのかな香りと甘さを味わいながら、ゆっくりと言った。「私に相談しなくてもご自身で決められるはずです」その言葉に一片の嘘もない。彼女は本気でそう思っていた。何せ、この会社は美月のものだ。自分は、ただその会社で働いているだけ。その事実は、ずっと変わらないし、紗雪も理解している。だから、母がわざわざ自分に意見を求めること自体、彼女には無駄に感じられた。だが美月は娘の態度に不満げだった。「紗雪は私の娘よ。少し相談したくらいで、母親として間違っているとでも?」突然の厳しい口調に、紗雪は一瞬言葉を失った。眉をわずかに上げ、弁明する。「そういう意味ではありません。ただ、ほとんどのことは会長が判断できますし、私も手が離せない仕事があります」その言葉を聞き、美月の目に失望の色が浮かんだ。「つまり、私があなたの時間を奪っている、と」そう言って席を立つ。その表情を見た瞬間、紗雪は胸の奥に焦りが走った。説明したい気持ちはあるのに、うまく言葉にできない。このところ、彼女はずっと会社のことばかり考えていた。「誤解です」そう言いながら、紗雪は視線をテーブルの湯気立つ茶に落とし、話題を切り替えることにした。「それより、この資料を見ていただけますか」「これは?」美月も話題を変えようとする意図を察し、素直に応じた。互いに退きどころを与えるのも、必要なこと。こんな小さなこと一つ折り合わないなら、会社の大事はどう進めるのか。何より、母娘なのだ。大げさな確執など必要ない。紗雪もそれを理解し、率直に言った。「安東家について調査したものです。私は思いますが、安東家は協力すべき相手ではありません。まるで害虫のように、ずっと私たちの会社を食い物にしてきた。彼らとの協力を解消することは、私たちにとって利益しかありません」美月は資料を受け取り、目を通した。そこには具体的な分析、例示、そして実データが丁寧にまとめられていた。その徹底ぶりを見て、美月は言葉を失う。娘は想像以上に優秀だ。すべてに真剣
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第1059話

紗雪は心の中で、ここまで証拠を揃えたのに、まさかまだ信じないなんてことはないだろう、と強く思っていた。資料を閉じた美月は、満足そうに目元を緩めながら言った。「よくまとめたわね。全部読んだけど、問題はないわ」その言葉に、紗雪の胸がぱっと明るくなる。声にも珍しく浮き立つ色が乗った。「では、会長はどうお考えですか?」美月は資料をテーブルに置き、真剣な眼差しで答えた。「協力解消自体は問題ないわ。ただ――」その一言で、紗雪の笑みが凍る。「ただ......?」紗雪は一瞬、滑稽さすら覚えた。まさかこの段階に来て、まだ安東家をかばうつもりなのか。もしそうなら、もう話す価値もない。これほど明白な状況でも信じないなら、これから何を示しても、同じように理由を並べて否定されるだけだ。表情に落胆が滲むのを、美月も見逃さなかった。内心で溜息をつく。やはり若さゆえ、感情が顔に出すぎる――その点は未熟だ、と。まだ経験が足りない。いずれ磨かれるだろうけれど。美月は一度笑みを浮かべ、ソファに座り直した。「協力解消は認めるわ。ただし、今じゃない。その意味はわかる?」紗雪は眉間に深い皺を刻み、何度もその言葉を頭の中で反芻したが、納得の答えは出てこない。すると美月は率直に告げた。「緒莉の喉のことは知っているわね。全部、辰琉のせいよ。だから私は、あの男の父親と話をつけたの。息子を差し出すなら、既存の協力は打ち切らない。ただし、それ以降は二川と安東家の協力は終了って。これなら双方にとって悪くない話でしょ?」その言葉に、紗雪は目を見開いた。母がそんなに大きな話を、何の前触れもなく自分抜きで進めていたとは。さっき「何でも相談」と言っていたのは何だったのか。「つまり......安東家が害虫だと分かっていて、それでも取引を続けるってことですか?」声は震えていた。「どうして前の契約を切らなかったんです?」美月は額に手を当て、疲れたように言う。「さっき説明したでしょう。すでに合意した話なのに、急に反故にはできないわ」紗雪は深く息を吸い、冷たい声音で返す。「でも契約を打ち切れば、安東家に大きな打撃を与えられたんです。それこそ最大の報復じゃないですか」美月は淡々と言った。「悪い
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第1060話

ここまで来て、まだ安東家の人間をそんなふうに切り分けるなんて。いったい何の意味があるっていうの?紗雪は口元を上げた。「辰琉は安東家に育てられた人間ですよ。子が道を外したら、父にも責任がある。安東社長と、本当に何の関係もないとでも?」美月はしばらく言葉を失った。やがて諦めたように息を吐く。「好きに言えばいいわ。どう言われても、私は二言を翻すことなんてできないから」紗雪には、その言い分がひどく滑稽に思えた。でも分かっていた。美月が一度決めたことは、簡単には変わらない。ならもう言っても意味がないし、ただ相手を不愉快にさせるだけだ。そんな骨折り損のこと、ここでする必要なんてない。「もう決めたなら、これ以上言うことはありません」紗雪は立ち上がった。「会長。今後、こういうことは私に相談しなくていいです。ご自分で決めれば」そう言い捨て、紗雪は踵を返した。だが美月は、当初の目的を思い出したように呼び止める。「待ちなさい。他にも話があるのよ」紗雪は振り向きもせず、淡々と返した。「結構です。相談されなくても、私は会社の決定に従います」その態度に、美月の胸に怒りが燃え上がる。「母親に向かって、その態度は何?」「会長。ここは会社です。私たちはただの上下関係です」紗雪は振り返り、鋭い視線で美月を見つめ、少しも引かなかった。正直、紗雪は怒っていた。けれど、もう変えられない現実でもある。それでも胸の奥に澱んだものは、どうしても流れ出てくれない。まして美月の堂々とした顔を見れば、なおさら苛立ちが募る。今さら「親だから」と圧をかけられても、言葉が出ないほど呆れるだけだ。まさか、母娘がここまで来るなんて。入院していた時は、あんなに穏やかだったのに。美月もまた、紗雪の気丈な態度に腹を立てていた。自分は母親なのに、娘から一片の敬意すら感じられない。それなら、母である意味は何なのだろう。「紗雪はまだ私を母と思っているの?」その言葉に、紗雪の動きが止まる。こんな直接的な問いを投げられるとは思っていなかった。「いえ、そんなつもりは......」紗雪は目を伏せる。心の奥では、確かに美月を母としている。越えてはならない一線があることも分かっている。だが、
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