All Chapters of クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Chapter 1331 - Chapter 1340

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第1331話

彼女は手にしたバラを見つめながら、ふと考え込んだ。実のところ、京弥の嘘は、自分にとって大きな実害があったわけではない。ただ、このところの自分の気持ちの整理がついていなかっただけで、それは自分でしっかり調整していくべきことだ。とはいえ、最初から真実を告げずに騙していたのは、やはり京弥の落ち度だ。――ならば、彼がここまで努力して見せようとしているのなら、一度くらいチャンスを与えてもいいのではないか。紗雪は口元を緩め、花を顔の前に掲げて左右に眺める。「そんなにチャンスが欲しいなら......あげてもいいかもね」くすっと笑い、そのまま部屋へ入って身支度を整えに行った。......夜。京弥はそっと自室のドアを開けた。足音を忍ばせ、静かに紗雪がいる部屋の前までやって来る。閉ざされた扉を見つめるその瞳には、どこか執着にも似た色が宿っていた。広い部屋でひとり寝返りを打ち続けても、どうしても眠れない。――やはり、紗雪と一緒にいたあの温もりが恋しくてたまらなかった。彼は予備の鍵を取り出し、あっという間に客間の扉を開ける。わずかな達成感が目に浮かび、そのまま音を立てないように中へ入った。部屋の中は真っ暗だったが、月明かりだけで十分だった。慣れた様子でベッドの位置を確かめ、ゆっくりと近づいていく。できる限り静かにベッドに上がり、まずは端に身を寄せる。そこから少しずつ、少しずつ紗雪の方へと距離を詰めていく。やがて、肌が触れ合う感触を確かめたところで、ぴたりと動きを止めた。緊張で呼吸すら止まりそうになる。体勢を整えると、そっと顔を向け、月明かりの中で紗雪の穏やかな寝顔を見つめた。その瞬間、ようやく心の奥から安堵が広がる。呼吸も自然と落ち着き、鼓動さえ彼女の呼吸のリズムに重なっていく。――同じリズムで、同じ時間を共有している。そうはっきりと感じられた。やがて京弥は、慎重に腕を伸ばし、彼女をそっと抱き寄せる。紗雪は眉をひそめ、小さく不満そうな声を漏らした。その一瞬で、京弥は固まるように動きを止める。だがすぐに、彼女の表情は緩み、そのまま自然に彼の腕の中へと身を預けてきた。まるでその温もりに慣れているかのように、無意識のうちに一番落ち着く位置を探し当てる。その様子に、京
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第1332話

紗雪はむっとした顔で手を伸ばし、彼の頬をぎゅっとつねった。今回は少し力を込めている。京弥は眉をひそめ、その痛みで一気に目を覚ました。目を開けた瞬間、目の前にあったのは頬を膨らませた紗雪の顔だった。京弥は先手を打つように問い詰める。「紗雪?なんで紗雪が、俺のベッドに?」紗雪は思わず額に手を当てた。「よくそんな白々しいこと言えるわね。ここ、昨日私が寝てた客間よ」「え」京弥は頭をかき、ぼんやりとした目で周囲を見回す。しばらく観察したあと、いかにもそれらしく頷いた。「なるほど......俺、昨夜夢遊病でここに来たんだな」「そんな話、信じると思う?」紗雪は歯を食いしばりながら彼を睨みつけた。――いつからこんなに図々しくなったの、この人は。京弥はのんびりと体を起こす。「でもどっちにしろ、紗雪は損したわけじゃないし、ぐっすり眠れただろ?」匠に言われたことが頭をよぎる。――女の子を追いかけるなら、図々しくなるべきだ。今の彼には、もうプライドなんてどうでもよかった。「うるさい。さっさと自分の部屋に戻って」紗雪は容赦なく言い放つ。だが京弥は気にせず、長い腕を伸ばして彼女を引き寄せ、そのまま首元に顔を埋めて深く息を吸い込んだ。胸の奥が一瞬で満たされる。「でも......もう一緒に寝るのに慣れちゃったんだよね。そんなに冷たくするなよ」「つまり、夜中にこっそり入ってきたって認めるのね?」「いやだから、夢遊だって」京弥はまだ理性を保っていた。ここで正直に認めれば、次から鍵をかけられるに決まっている。――今日は油断した。本当は先に抜け出すべきだったのに。ここ数日ろくに眠れていなかった分、久しぶりに紗雪のそばで安心してしまったのだ。紗雪は手を伸ばし、再び彼の頬をつねる。「ホント図々しくなったわね!どいて、もう起きる」彼女は急かした。今日は番組のスタッフと打ち合わせもあるし、吉岡に引き継ぐこともある。スタジオはまだ立ち上げたばかりで、ちゃんと整えておかないと安心してバラエティの撮影にも行けない。それでも京弥は手を離そうとしない。「そんな冷たくするなよ、紗雪」「離して。まだ許してないんだから」紗雪はこめかみを押さえながらため息をつく。「最近ます
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第1333話

京弥は心の中でひとつため息をついた。――先はまだ長い。これからも、もっと努力しないといけない。彼は自ら進んで朝食の支度に取りかかった。そして今回は、彼のどこか頼むような視線に折れたのか、紗雪も一緒に席について食事をすることにした。これまでのように、きっぱり拒絶することはなかった。それだけで、京弥の胸はぱっと明るくなる。パンをひとつ、彼女の皿に入れた。「これ、ネットのレシピ見ながら作ったものだけど。味見してみて」「へえ。さすが」紗雪はちらりと彼を見やる。今朝は二人ともほぼ同じ時間に起きたはずなのに、彼はもうこんなものまで用意している。京弥は口元を緩めた。「紗雪のために頑張ったんだ」それ以上、紗雪は追及しなかった。朝食を終えると、紗雪はそのままスタジオへ向かう準備をする。京弥は送っていこうとしたが、きっぱりと断られた。「いいよ、自分で行けるから」どれだけ彼が名残惜しそうな顔をしても、今回は通用しない。紗雪は一人で車に乗り、スタジオへ向かった。京弥も仕方なく、踵を返して椎名グループへ向かう。だが今回は、前回とは明らかに気分が違っていた。その変化は周囲の社員たちもすぐに気づく。そして匠は一瞬で察し、得意げに胸を張った。――あの様子、間違いなく自分の「攻略マニュアル」が効いたに違いない。しかも彼は、さらに緻密な改訂版のマニュアルまで用意していた。案の定、京弥はデスクの前を通り過ぎる際、彼の名前を呼んだ。「井上、ちょっとオフィスに」周囲の視線が一斉に匠へと向けられる。朝一番で出社してすぐ人をオフィスに呼ぶなんて、かなり珍しい。だが今回、匠に不安の色はない。むしろ襟元を整え、誇らしげな表情で堂々と歩いていった。同僚たちは顔を見合わせる。――まさか、こっそり大型案件でも決めてきたのか?だがそれはあり得ない。同じ秘書部として、彼らにプロジェクトが割り振られることは基本的にないのだから。誰もが首をひねる中、匠だけが胸を張り、「攻略マニュアル」を携えてオフィスへと入っていく。コンコン、とドアをノックする。すぐに中から声が返ってきた。「入れ」匠は迷いなく中へ入る。その声には、どこか待ちきれないような響きがあった。――やっぱりだ。
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第1334話

京弥は深く息を吸い込んだ。「なら渡してくれ。約束はちゃんと守る。彼女の機嫌を直せたら、昇進でも給料アップでも、休暇でも問題ない」匠の目がぱっと輝いた。興味津々といった様子で近づき、小声で尋ねる。「社長......奥様の怒り、もう半分くらいは収まりました?」「なんで分かった?」京弥の声には、はっきりとした驚きが滲んでいた。それを聞いた匠は、ますます得意げになる。「そりゃあ、今日の椎名社長、機嫌がかなりいいですから。それに、ああいうやり方は女の子にウケるんです。男がちゃんと気を遣ってくれれば、落ちない相手なんていませんよ」京弥は何度も頷いた。「まさか、お前の勘がここまで鋭いとはな」「お褒めいただき、ありがとうございます!」匠は徹夜で作った資料を取り出す。「昨夜仕上げたものは、もう送ってあります。これは私が長年培ってきた『恋愛の集大成』です。これを使えば、奥様もきっとすぐに怒りなんて吹き飛びますよ」京弥は眉をわずかに上げ、パソコンの画面に視線を移す。資料を開き、表紙に表示された金色に輝く「妻の攻略マニュアル」という文字を見た瞬間――人生で初めて「穴があったら入りたい」という羞恥心に襲われた。だが匠は隣でやる気満々に背中を押す。「大丈夫です、社長!絶対いけます!信じてください!ネットの体験談も、自分の経験も全部まとめてありますから。こんな資料、店に出たら即完売ですよ!中身は全部、私の血と涙の結晶です。参考にするもよし、丸ごと真似しても問題なしです!」しまいには、まるで広告のように語り出した。「この攻略さえあれば、どんな状況でも対応可能!相手がどれだけ頑なでも落とせます!」「......」――それ、何の宣伝?そう思うほど、匠は熱心に売り込んでいた。さすがに目の前で開くのは気が引けて、京弥は軽く手を振った。「ご苦労。あとでちゃんと確認するから、評価は心配するな」「ありがとうございます、椎名社長!」匠は満面の笑みを見せた。京弥も、彼がこんなに心から嬉しそうに笑うのを初めて見た気がした。部屋を出た後も、その笑みは消えていない。周囲の同僚たちは不思議そうに顔を見合わせ、次々と彼に詰め寄る。一体何があったのか、と。だが匠は何も明かさず、ただ誇らしげに一
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第1335話

その様子に、発言していた社員は思わず、「自分、何かまずいこと言ったのではないか、」と疑い始めてしまうほどだった。だが会議の最初から最後まで、京弥は一度も機嫌を損ねることはなかった。ここ数日と比べれば、まさに天と地の差だ。今朝の様子を見ていた社員たちは、匠があれほど誇らしげにしていた理由がますます気になって仕方がない。――いったい何をしたら、あの椎名社長の性格をここまで変えられるんだ?あの椎名社長だぞ?そんなこと、あり得るのか?会議後、社員たちは一斉に匠の周りへ集まった。だが匠は落ち着いた様子で手をひらひらと振る。「まあまあ、落ち着いてください。そんなことより、仕事に戻ってください。皆さんには真似できない手を使ったので」その得意げな態度に、皆は呆れつつもどこか悔しい。それでも、京弥の機嫌が良くなったのは何よりだ。トップの機嫌が良ければ、理不尽に怒られることもない。会議が終わると、京弥は一人でオフィスに戻り、匠の作った資料をじっくり読み始めた。見ていくうちに気づく。確かに一枚目はかなり気まずいが、それ以降の内容は意外とまともだ。いったん集中すると、彼はすぐに没頭してしまう性格だ。気づけば、かなりのページを読み進めていた。しかも、その中には実際に役立つ内容も多い。例えば――女性が怒っている時、こちらも無口になったり、ただひたすら機嫌を取るだけでは逆効果。むしろお互いに冷静になる時間を持ち、その間に男性側は気持ちを示すためにプレゼントを用意するべきだ。ただ待っているだけではダメ。重要なのは、「謝る気持ち」を相手に伝えること。匠の資料はやけに細やかだった。デートに適したタイミング、場所の選び方、女性が好む料理やスイーツまで丁寧にまとめられている。それを見て、京弥は一気に理解が深まった。――これは......分かりやすい。ここまでやってくれているのに、昇給させない手はない。気づけば午前中が丸ごと過ぎていた。京弥は完全にマニュアルに没頭し、眉間にもどこか柔らかな笑みが浮かんでいる。この出来を見れば、匠が本気で取り組んだのは明らかだった。たった2日で、スライドは百枚にも及んでいる。京弥は迷わず決断した。匠の給料を一気に2000万円アップさせ、さらに数日の休暇も
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第1336話

京弥「......」あまりの内容に、彼は完全に呆れた。――こいつ、大丈夫なのか?給料もらった途端、舞い上がりすぎじゃないか?京弥は淡々と一言だけ返信する。【そんなに働きたいなら、残業したいって言えばいいのに】その一文を見た瞬間、匠はぴたりと黙り込んだ。――やっぱり社長は社長だ。自分みたいな社畜が、調子に乗っておべっかを使うもんじゃない。ご機嫌取りのつもりが、完全に地雷を踏んだ形だ。こうして匠は、周囲の羨望の視線を一身に浴びながら、2000万円と数日の休暇を手に旅へと出発した。行き先は、ずっと夢見ていた南国。本当はとっくに行く予定だったが、京弥が忙しく、自分も残業続きで、ずるずると先延ばしになっていたのだ。荷物をまとめ終えた匠は、同僚たちに向かって口笛を吹く。「では失礼。お土産買ってきますね」「はいはい、薄情なやつ」普段仲のいい同僚がからかう。匠は肩をすくめる。「ちゃんと土産買ってくるって言ってるのに、薄情とはひどいですね。連れて行けるわけでもないですし......行きたいなら自分で休み申請するのはどうでしょう」「......」そのドヤ顔に、相手は思わずイラっとする。「うるせえな。さっさと行けよ」「はいはい。では」匠は軽い足取りで去っていく。その背中を見送りながら、社員たちは思わず嘆いた。――なんであいつだけあんなに自由なんだ。誰か代わりに働いてくれ......京弥は外の様子こそ知らなかったが、廊下から聞こえる断片的な声には気づいていた。だが気にすることなく、意識はすべて「マニュアル」に集中している。最初はただの資料だと思っていた。匠が言うほどのものではないだろうと。だが読み進めるほどに、その評価は変わっていく。――これは......想像以上だ。細かい部分まで丁寧に整理されており、自分が今まで気づかなかった点まで、すべて指摘されている。読み終えた頃には、むしろ......あの金額でも安すぎたかもしれない。自分の「恋愛スキル」が、明らかに一段階引き上げられたと実感する。大きく息を吐き出す。目は少し疲れているのに、胸の中は妙に満たされていた。こめかみを押さえると、じんわりとした疲労がある。それでも、気力は普段以上にみなぎっている。
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第1337話

「はい、分かりました」紗雪の言葉を聞いて、凪はようやく安心した。――どうやら、自分の勘違いだったらしい。吉岡も真剣な表情で頷く。今までにはなかったほど引き締まった様子だ。「ご安心ください。社長がいない間は、スタジオはちゃんと守ります」「ええ、よろしくお願いね」そう言って、紗雪はそのまま出発の準備をする。これから番組スタッフと打ち合わせがあるのだ。彼女は車を走らせ、松尾家へ清那を迎えに向かった。だが到着すると、玄関を開けたのは清那ではなく、その両親だった。紗雪は少し不思議そうに尋ねる。「叔父さん、叔母さん、清那は家にいないんですか?」「もちろんいるわ」尚美が先に口を開く。「まだ部屋で寝てるんだ」正人もすぐに続けた。紗雪はスマホをちらりと確認する。やはり、清那からの返信はまだ来ていない。そのことに気づき、思わずこめかみを押さえた。――このままじゃ困る。今後、自分が仕事で不在になることも増えるのに。「じゃあ、起こしてきますね」そう言って中に入ろうとしたところで、尚美に呼び止められた。「その......紗雪、ちょっといいかしら」紗雪は振り返る。「どうしました?」「実は、あなたと京弥のことなんだけど......」尚美はどこか言いにくそうに口を開いた。子ども同士の問題に、大人が口を挟むべきではない――そう分かっているからこそ、余計に気まずいのだ。紗雪も、その言葉を聞いた瞬間、内心でぎくりとした。――まさか京弥とのケンカ、もうこの人たちにまで広まってるの?考えるまでもない。きっと清那が話したのだろう。「叔母さん、あの件は私の方でうまくやっておきますので」紗雪はやや気まずそうにそう答える。「いえ、そうじゃなくて......」尚美は慌てて手を振った。その反応に、紗雪はさらに戸惑う。何が言いたいのか、分からない。すると尚美は続けて説明した。「ええっと、清那が二人の邪魔をしてしまったみたいで......だから親として、先に謝っておこうと思って。今回のことはあの子が悪いわ。だからどうか、気にしないであげて」そこまで聞いて、紗雪はようやく事情を理解した。――なるほど、誤解されているのか。彼女は少し照れくさそうに答える。「叔
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第1338話

二人は紗雪の清那に対する評価を聞いて、内心かなり驚いていた。最初は、あの子が迷惑をかけているに違いないと思っていたのに、まさかここまで高く評価されているとは。思わず顔を見合わせる。そのとき、尚美がようやく言葉を取り戻したように口を開いた。「でも紗雪......清那にはもっと厳しくしてくれてもいいのよ。あの子、家ではだらけてばかりだし......もし何か間違ったことをしたり、よくないところがあったら、遠慮せずに叱ってちょうだいね。私たちのことは気にしなくていいから」その言葉を聞いて、紗雪は最初こそ少し戸惑ったものの、すぐに意味を理解した。――この二人、本当に娘のことを心配しているんだ。「わかりました。でも清那は本当に素直でいい子です」紗雪は柔らかく微笑む。「これだけ長くお付き合いしているんですから、わざわざ嘘をつく必要もありませんし」少しだけ声を和らげて、続ける。「それに私は......もう、とっくに清那のことを家族だと思っています。血の繋がりはなくても、自分で選んだ大切な家族です。私にとって、清那は自分の命に代えても守りたい存在なんです」その言葉が終わるか終わらないかのうちに突然、ぎゅっと抱きつかれた。清那が涙ぐみながら、紗雪の首元に顔を埋める。「うう......紗雪、優しすぎるよ......私がそんなに大事に思われてるなんて......」しっかりと抱きしめられ、紗雪は一瞬ぽかんとした。それからようやく腕を回し、軽く抱き返す。「ほらほら、朝からそんなに泣いて。あとで目が腫れたらどうするの。清那だってわかってるのに、そんなに感動することじゃないでしょ?」松尾家の両親は、その様子を見てようやく安心した。――こんなにも仲がいいなら、もう心配はいらない。そもそも紗雪は、彼らの交友関係の中でもかなり優秀な人物だ。そんな彼女と娘が仲良くしているだけでも、ありがたいくらいだと思っていた。それが今では、ここまで深い絆で結ばれている。ならば、これ以上口出しする必要はない。――若い者には若い者のやり方がある。むしろ、親が出しゃばる方が良くない。清那は涙を拭いて、ようやく本題を思い出した。「そういえば、紗雪、今日は何しに来たの?」「......」紗雪は無言で彼女を見
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第1339話

清那は頭を押さえながら、不満そうに言った。「どういうわけか、全然起きられなくて......アラームは朝6時からかけてたのに、気づいたらもう......」「まあまあ、起きたならいいじゃないか」正人が間に入って場を和ませる。紗雪も特に気にした様子はない。「メッセージ送っても返事がなかったから、まだ寝てるんだろうなって思って、迎えに来たんだ」清那はにこっと笑う。「さすが紗雪、私のことちゃんとわかってるじゃん」「ほら、早く準備して。そろそろ出発するよ」「さあ、早く早く」尚美も慌てて清那を洗面所へ追い立て、それから紗雪に向き直る。「清那のこと、いつもお世話になっますけど......もし迷惑かけることがあったら、どうか大目に見てやってちょうだい」「安心してください、叔母さん。私はもう清那のこと、妹みたいに思ってますから」紗雪は柔らかく微笑む。「こういうところもいつものことですから......ちょっと抜けてるくらいが、逆に素直でいいと思ってますから」その言葉に、松尾家の両親は顔を見合わせ、安堵の色を浮かべた。――こんなふうに思ってくれているなんて、本当にありがたい。やがて支度を終えた清那は、紗雪の腕を引いてそのまま外へ。後ろから尚美が声をかける。「朝ごはんくらい食べていかないの?」「いいの。夜には帰るし、外でちゃんと食べるから大丈夫!」「そう......」尚美は小さく呟き、最後には正人の肩にもたれかかる。目にはうっすら涙が浮かんでいた。「ほんと、大きくなったわね......」「きっと大丈夫だ」正人は静かに言う。「紗雪も、分別のある子だからな」彼自身も心配がないわけではない。だがそれ以上に、子どもには、自分の道を歩ませるべきだと思っていた。......車に乗り込んだあと、清那は先ほどのやり取りを思い出して口を開いた。「さっきのさ......うちの親が言ってたこと、気にしなくていいからね」少し気まずそうに頭をかく。「昔からああなんだよね。私のこと、何やってもダメだって思ってるから、ああやっていろいろ言ってくるの」「それは違うよ」紗雪は車を止め、真剣な表情で清那を見た。「え?」あまりにも急に雰囲気が変わったせいで、清那は戸惑う。「え
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第1340話

紗雪は穏やかに諭すように言った。「清那ならきっと自力でこの件をうまく解決できるって信じてるからね」その眼差しは、優しさで満ちていた。清那も真剣な顔で力強く頷く。「そうね。私、頑張るから!もう、大事な人たちをがっかりさせたりしない」その様子を見て、紗雪はほっと胸をなで下ろす。――ちゃんと立ち直ったみたいね。「じゃあ行きましょう。番組の打ち合わせに」「こんなに早く番組に出ることになるなんてね。なんか私の方が緊張してきたかも」清那は照れくさそうに笑い、どこか落ち着かない様子だ。「なんで清那が緊張するのよ。出るのは私なのに」運転しながら、紗雪はちらりと彼女を見る。清那はパンをくわえたまま、両手を後頭部で組んでシートに寄りかかる。「こういう現場に関わるのが初めてだからかな」「これから、こういう機会はもっと増えるわよ」紗雪は少し考えてから言った。「今回の反響が良ければ、同ジャンルのオファーもどんどん来るはずだから」そして軽く笑う。「なので、私の『優秀なアシスタントさん』。こういうことはちゃんと慣れておかないと」「わかった、頑張る!」清那は心の中で、そっと決意を固めた。――絶対に、紗雪の歩みに追いつく。でないと、彼女がどんどん先に進んでいって、自分だけ取り残されてしまう気がする。それは嫌だった。紗雪と一緒にいる時間が、彼女にとっては何よりも大切で、何よりも楽しいものだったから。子どもの頃から、ずっと二人は一緒に過ごしてきた。確かに紗雪は、昔から何でもこなせる、飲み込みの早い子。その差を感じることはあっても、清那は、それを誇りに思っていた。よく周りの子に自慢していた。「あれが私の一番の親友なの!すごいでしょ?」その言葉を、何度口にしたか分からない。実際、それを聞いた子どもたちは皆、羨ましそうにしていた。登下校のたびに、彼女の周りには人が集まり、紗雪の話題で賑わっていた。それが、清那にとっては大きな満足だった。やがて時間が経ち、皆が知るようになる。――紗雪のそばには、いつも清那がいる。いつしか彼女は、まるで「紗雪の目印」のような存在になっていた。清那がいれば、その近くには必ず紗雪がいる。だから、用事があるときは、まず清那に声がかかるこ
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