All Chapters of クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Chapter 1601 - Chapter 1610

1610 Chapters

第1601話

これほど大がかりな仕掛けまでしたのだから、もし自分の夫がこんなふうにデマを流されたら、誰だって黙ってはいられないはずだ。ところが、けしかけた山田は紗雪を挑発するどころか、逆に問い詰められてしまった。もし最後に山田が自分のことまで白状してしまえば、それこそ言い逃れはできない。今まで外向きに必死で築き上げてきたイメージも、一瞬で崩れ去ってしまうだろう。一方、山田が逃げるように立ち去る姿を見た紗雪は、軽く眉を上げた。その瞬間、彼女の中ではすべての答えが出ていた。やはり、あの男は誰かに差し向けられた人間だった。そうでなければ、あそこまで来てあっさり逃げ出すはずがない。本来なら、そのまま追及し続けることもできたはずだ。そして、その「誰か」が誰なのかも、もはや考えるまでもなかった。紗雪は何気ない様子で、隣に立つ千弦へ視線を向けた。その時点で、彼女の心の中には確信があった。紗雪の視線に気づいた千弦は、胸がどきりと鳴る。緊張を隠しながら問いかけた。「なんですか?」紗雪が口を開く前に、千弦は先に続けた。「二川さん、あれは全部ネットの噂にすぎないわ。まさか、本気にしちゃったの?」そう言いながら眉を上げ、挑発するような視線を紗雪へ向ける。その挑発に気づかない紗雪ではない。しかも周囲には何台ものカメラが回っている。ここで千弦と真正面から衝突すれば、すぐにネットのトレンド入りするのは目に見えていた。「まさか。信じませんよ。ご本人が気にしていらっしゃらないのに、どうして私が?」紗雪は非の打ちどころのない笑みを浮かべた。まるで千弦の言葉など最初から意にも介していないかのようだった。実際、そのとおりだった。本当に京弥と結ばれているのは自分なのだ。だったら、どうして部外者の言葉など気にしなければならないのだろう。しかし、紗雪が平然としていられても、その隣にいた清那はそうはいかなかった。とりわけ千弦のあの尊大な態度を見ると、胸の内はますます穏やかではない。今どきは、部外者のほうがここまで堂々としているものなのかと腹が立って仕方がなかった。そんな清那の様子に気づいた紗雪は、すぐに彼女の腕をそっとつかみ、小さく首を振って「落ち着いて」と合図する。千弦の狙いはまさにそこだった。自分
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第1602話

「どうして私は気にしていないと思うんです?」「本当に気にしているなら、どうして正面から問い詰めてこないの?あなただって、本当は分かっているんじゃない......?」その先はあえて言わず、千弦は含みを持たせたまま、挑発的な眼差しを紗雪へ向けた。その様子を見て、紗雪は相手の意図をすぐに理解した。ここまで露骨に挑発してくるということは、それだけ自分に反応してほしいということだ。千弦にとって、これは一つのゲームだった。そして紗雪は、すでにそのゲームの盤上に乗せられている。彼女は紗雪の反応を見たいのだ。その反応によって、自分の欲求を満たそうとしている。もし紗雪が激昂したり、理性を失った行動を取ったりすれば、それを口実に堂々と京弥のそばに立ち、紗雪の醜態を世間にさらすことができる。だが残念ながら、紗雪はそんなことを少しも気にしていなかった。それどころか、千弦の考えも狙いも、一足先に見抜いていた。「篠塚さんが国内外でご活躍されていることは存じています。おっしゃりたいことも十分分かっています」紗雪はゆっくりと千弦へ歩み寄り、真剣な表情で続けた。「でも私は愛情を、怒ったり、争ったりすることで証明するものだとは思いません。それに、私と京弥の夫婦関係はとても良好です。篠塚さんに心配していただく必要はありません。それから、もし今後もネットでデマを流し続けるようなら、こちらにも法的措置を取らせていただきます」「あら?ようやく腹が立ってきたの?」千弦はからかうような笑みを浮かべ、紗雪の反応を面白がるように見つめていた。「二川さん、最初にも説明したよね?ネットの件は私とは何の関係もないって。どうして信じてくれないの?二人の関係に、そんなに自信がないわけ?」さすがに清那は我慢できなくなり、横から口を挟んだ。「篠塚さん、いい加減にしてください」「何のことかしら?」千弦は両手を広げて肩をすくめる。「私は本当のことを言っているだけよ。そんなに焦る必要ある?」紗雪は終始落ち着いたままだった。「まさか。あの人は私の夫です。どれだけデマを流されたって、最後には必ず私の味方でいてくれます。ネットの噂なんて、私も彼も気にしていません。私たちにとっては何の影響もありませんから」そう言って、紗雪は軽く千弦を上から下
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第1603話

清那も慌てて紗雪のもとへ駆け寄り、千弦を大声で責め立てた。「篠塚さん、一体何をするつもりなんですか?いい加減にしてください!」「わ、私は......」千弦がここまで取り乱したのは珍しかった。手を上げては下ろし、どうしていいのか分からない様子で立ち尽くしている。だが次の瞬間、我に返ったように紗雪を指差し、怒鳴った。「これは何の演技?!さっき私に見せたあの態度を、今ここでもみんなに見せてみなさいよ!カメラが回っているからって、今さら被害者ぶるつもり?」二人の騒ぎに、多くの人が視線を向けた。中には思わずスマホを取り出して撮影し始める者までいた。これまでも番組内で二人の仲が悪いことは知られていたが、まさか裏では本当に手まで出るとは誰も思っていなかったのだ。しかし、その場に倒れている紗雪の姿を見て、しかも彼女の整った顔立ちも相まって、その場にいた人々の心は最初から紗雪の側へ傾いていた。一方の千弦は立ったまま紗雪を見下ろしており、その姿はどこか威圧的に映った。その光景は人々の印象に強く刻まれ、あちこちで小声のささやきが広がっていく。「篠塚さんって普段は感じのいい人だと思ってたのに、まさかこんなことをする人だったなんて」「やっぱり人は見かけによらないね。こんなに人が見ている前でさえあんなことをするなら、普段は二川さんにどんな態度を取ってるのか想像もつかないよ」「知らないの?二川さんってボランティア活動にもたくさん参加してるし、すごく親切な人だよ。でも篠塚さんは、人使いが荒いって有名じゃない」ひとたび流れが変わると、人々は一斉に同じ方向へ傾いていく。誰かが紗雪を褒めれば、その対比として千弦の悪い印象はますます際立っていった。周囲の声を耳にするたび、千弦の胸には怒りが込み上げる。――この二川紗雪、本当にやり方がうまい。きっと同じ手で京弥をたぶらかしたのだろう。彼女は紗雪を指差し、悔しそうに吐き捨てた。「ふん。これほど計算高い女だったなんて思わなかったわ。覚えてなさい!」そう言い残すと、ヒールを高く鳴らしながら人混みを押し分け、自分の部屋へ戻っていった。千弦が去ると、今度は紗雪の周りに大勢の人が集まってきた。清那も紗雪を支えながら立ち上がらせる。誰もが心配そうに声をかけた。「二川
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第1604話

この場にいる人間はやはり鋭かった。皆、芸能界で生きてきた人間だ。この程度の駆け引きでは、いずれ見抜かれてしまう。それに、あとで千弦が冷静になれば、逆に自分が被害者だと言い張ることだって十分あり得た。紗雪が口を開くより早く、清那が一歩前へ出て皆を責めた。「さっきのこと、皆さんも見ていたでしょう?紗雪が篠塚さんに突き飛ばされたんですよ!」清那は正義感に満ちた口調で続ける。「それなのに今度は紗雪に責めるなんて、それって被害者にも問題があるっていう言い方じゃないですか?今まさに目の前で起きたことなのに、それでもまだ否定するんですか?」そこまで言うと、清那は冷たく鼻を鳴らした。「忘れないでください。紗雪だってこの番組の出演者なんです。篠塚さんが紗雪に嫉妬して、あんなことをした可能性だって十分あるでしょう?しかも、さっきはあれだけ大勢が見ている前で突き飛ばしたんですよ。誰も見ていないところでは、一体何をするか分かったものじゃありません。そっちのほうがよほど恐ろしいと思いませんか?」清那の言葉に、その場は一気に静まり返った。確かに、彼女の言うことには一理あった。あれほど人目がある場所でさえ千弦は紗雪を突き飛ばした。もし人目のない場所だったら、もっとひどいことをしていたかもしれない。しかもその場にはカメラも監視もない。本気で誰かを陥れようと思えば、方法はいくらでもある。そう考えた途端、先ほど紗雪を疑うような発言をした人たちは、急に申し訳ない気持ちになった。次々と頭を下げて謝罪する。「二川さん、本当にすみません。さっきの発言は軽率でした......」こういう場では、一人が謝れば周りも続くものだ。ほかの人たちも次々と紗雪へ頭を下げた。「申し訳ございません......事情も分からないまま、責めるようなことを......」「二川さんが突き飛ばされるところは見ました。悪かったのは絶対あちらです」一方で、今後を心配する声も上がる。「でも、篠塚さんには後ろ盾がいるって聞きました。二川さんは大丈夫ですか?」その問いに、紗雪はふっと笑みを浮かべ、逆に皆を安心させるように言った。「心配してくれてありがとうございます。でも安心してください。ちゃんと考えていますから。皆さんもさっき言っていたでしょう
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第1605話

「さすが二川さん。篠塚さんとは大違い」「二川さんのほうがずっと度量があるよ。こんなことくらいで根に持たない」「これがもし篠塚さんの立場だったら、どれだけ大騒ぎになっていたか......」その言葉を聞き、皆は互いに顔を見合わせた。その意味するところは、誰もがよく分かっていた。皆この業界で生きている人間だ。口にできないだけで、本当は何がどうなのかくらい、それぞれ分かっている。ただ、誰かに口を封じられているから、軽々しく話せないだけだった。紗雪は改めて皆に微笑みかける。「私のことはもうここまでにしましょう。こうしてちゃんと皆さんの前に立っていますし、皆さんもおっしゃったように、今はカメラの前ですから。それぞれ自分の役目を果たせば、それで十分です。これから番組でも、どうぞよろしくお願いします」こうして紗雪は、この一件をきっかけに、あっという間にスタッフや出演者たちの輪へ溶け込んでいった。彼女の言葉を聞き、先ほどの痛々しい姿を思い出した皆は、次々とうなずく。「もちろんです。こちらこそよろしくお願いします」「二川さんはまだ番組では新人なんですから、困ったことがあれば何でも聞いてください」「私たちも全力でサポートしますから」その言葉を聞き、紗雪もようやく安心した。清那に肩を貸してもらいながら、足を引きずるように部屋へ戻る途中、周囲には「少し薬を塗って、一晩休めば大丈夫ですから」と伝え、心配しないようにと笑顔で告げた。こうして二人は、大勢の心配そうな視線に見送られながらホテルの部屋へ戻った。部屋に入るなり、清那は紗雪の怪我が気になって仕方なく、彼女の上着をめくって傷の具合を確かめようとした。紗雪は慌ててその手を押さえる。「ちょっと、何してるの?」「怪我の場所を確かめるの!」清那は当然と言わんばかりに答えた。さっき千弦が突き飛ばしたときの勢いは決して軽くなかった。その瞬間を、彼女はすべて見ていたのだ。むしろ、自分がもっと早く飛び出して止められなかったことを悔やんでいた。油断していた。もし間に入れていたら、少しは紗雪への衝撃を和らげられたかもしれない。しかし紗雪は困ったように笑う。「大げさだよ。そんなにひどい怪我じゃないから」清那は納得できず、頬を膨らませた。「また無
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第1606話

清那の心配そうな表情は、やがて困惑へと変わった。さっきまで紗雪は足を引きずり、本当に歩けないほど重傷に見えたのだ。あのときは怪我がかなりひどいのだと思い、救急車を呼ぼうとまで考えていた。それなのに部屋へ戻った途端、普通に歩けるようになっている。その光景に、清那の頭は完全についていけなかった。そんな彼女に、紗雪は真剣な表情で説明する。「ごめん。さっきのは、実はわざとだったの」紗雪は小さく鼻を鳴らした。「彼女はもともと気が強いし、ああいう状況ならカメラの前でも手を出す人だって分かっていたの。だから、わざと怒らせたのよ」「どうしてそんなことを?」清那は紗雪の考えを理解できなかった。そんなやり方は、まさに相手に大きなダメージを与える代わりに、自分も大きな代償を払うようなものだ。危険すぎる。少なくとも清那なら、絶対にこんな危ない方法は勧めない。しかし紗雪は気にした様子もなかった。「気づかなかった?スタッフたちの私を見る目があの後、全部変わったでしょう。効果あったってこと」その言葉を聞いて、清那もようやく腑に落ちた。先ほどの皆の態度は、彼女もずっと見ていた。最初は千弦の肩を持つ人までいた。けれど、「大勢の人とカメラの前でさえ手を出した」という一点が示されると、皆の考えは一気に変わった。そこまで考えて、清那はようやく紗雪の狙いを理解した。確かに、自分を弱い立場に置くことにはなった。だが、その代わりに得られたものも大きかった。清那は思わず親指を立てて見せた。「さすが紗雪だよ。見事だった」「でも、これはその場しのぎにすぎない。いつまでも逃げ続けるわけにはいかないわ」紗雪の笑みは少し薄れた。自分のやり方が、しょせんは目くらましにすぎないことも分かっている。今の自分と千弦を比べれば、実力差はあまりにも大きい。今の自分では、相手に到底及ばない。何をどう考えても、自分が劣勢なのは間違いない。だから今やるべきことは一つ。できるだけ早く自分の力を伸ばし、いつまでも受け身の立場に甘んじないことだ。「そうだね。でも大丈夫。何かあったら、今度は私に任せて」清那は真剣な顔で胸を叩き、力強く言った。その姿を見て、紗雪は胸が熱くなる。幼い頃からずっと自分のそばにいてくれ
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第1607話

匠は、京弥と千弦の間に何の関係もないことを知っていた。二人は長年一緒に仕事をしてきた。もし本当に恋愛関係だったのなら、とっくに付き合っていたはずだ。今になって突然そんな話になるほうがおかしい。そんな話を信じるほうが無理がある。ネット上に出回っている親密そうな合成写真を見た京弥の表情は、ますます険しくなっていった。まさか千弦がここまで図々しい真似をするとは思わなかった。こんなことをするのに、今では事前に自分へ一言の相談すらない。勝手に話を進めるばかりか、そのやり方もますます度を越していた。「先に出ていてくれ。少し考えたい」ネット上の騒ぎを見た瞬間、京弥が思い浮かべた解決策は、匠とほとんど同じだった。これだけ大騒ぎになっている以上、今のまま放置するわけにはいかない。このままでは、自分の妻まで別の人間にされかねない。紗雪ではなく、千弦が自分の相手だと思われるなど、受け入れられるはずがなかった。匠も空気を読んで部屋を出ると、静かにドアを閉めた。「かしこまりました。では失礼します」実のところ匠は今でも理解できずにいた。なぜ二人はこれほど仲が良く、関係も安定しているのに、公表しないのだろうか。正式に発表すれば、会社の株価にとってもプラスになるはずだ。そうすれば、こんな人間につけ入る隙など与えなかっただろう。千弦が京弥の交際相手を利用して話題作りができるのも、「椎名家の妻」という立場が世間に明かされていないからだ。もし正式に公表されていれば、彼女もこんなことはできなかった。なぜなら、その場で「それは違う」と証明できる人がいたからだ。今は紗雪もこの件をあまり気にしていない。だからこそ、千弦はますます増長しているのだ。だが京弥は何度考えても、このまま千弦の好きにさせておくわけにはいかないと思った。放置すれば、自分と紗雪の関係にも少なからず影響が出る。それに会社の株価も下がるだろう。千弦は、自分の知名度を利用して世間の注目を集めている。言い換えれば、自分の知名度をダシにして話題を作っているのだ。このまま好き放題させれば、自分が世間からどう見られるかなど、容易に想像がつく。京弥は愚かではない。千弦の狙いなど最初から分かっていた。自分と紗雪を怒らせ、世間の視線を集
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第1608話

ただ、今日千弦と直接対峙したことで、紗雪にはよく分かった。彼女の態度ははっきりしている。自分の非を認めるつもりなど、最初からないのだ。しかもネット上の騒動についても、千弦は自分の関与を完全に切り離していた。案の定、京弥は口を開いた。「ああ。ただ、君にも関わる方法だから、まず君の意見を聞きたい」その言葉を聞いた瞬間、紗雪はすでに答えを察していた。今回の件は京弥まで巻き込み、会社の株価にも影響を及ぼしかねない。となれば、解決策は正式に二人の関係を公表することしかない。京弥と千弦は何年も仕事を共にしてきた。それだけ長く協力関係にありながら交際に発展しなかったということは、お互いに恋愛感情がなかった証拠だ。それなのに今、ネットでは二人の親密な合成写真まで出回り、会社にも悪影響を及ぼしている。会社の株価に悪影響を及ぼすような事態だけは、何としても避けなければならない。紗雪も、その程度のことはよく理解していた。しかもネット上の野次馬たちの狙いはは明らかだった。京弥を標的にし、千弦と結び付けて騒ぎを大きくしたいだけなのだ。「つまり......私たちの関係を正式に公表するってこと?」紗雪の問いに、京弥は少しも驚かなかった。彼はずっと知っている。紗雪はとても聡明で、一歩先どころか三歩先まで見通せる人だ。どんな問題でも、自分の中では答えにたどり着いている。ただ、最後の一歩だけ誰かに背中を押してもらう必要があるだけなのだ。だから彼女がここまで察していたことにも、何の意外さもなかった。もちろん、紗雪に迷いがあることも理解している。だが今の状況では、もう意地を張っている余裕はない。不安やわだかまりがあるなら、それは二人だけで話し合うべきことだ。しかし今は、その問題がすでにネット上へ持ち出されてしまっている。このまま逃げ続ければ、会社の株価に大きな影響が出る。京弥は小さくため息をつき、正直に話した。「井上とも相談した。その結果、今の状況では関係を公表するのがお互いにとって一番いいという結論になった」「それなら、すぐ公表すればいいのに......」その一言に、京弥は苦笑するしかなかった。紗雪が皮肉を言っていることくらい、すぐに分かった。以前、自分が本当の身分をすぐに
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第1609話

千弦は容姿も悪くない。京弥の隣に立てば、誰が見てもお似合いの二人だった。以前二人が仕事で共演していた頃から、ネットでは「理想のカップル」といった言葉で語られていた。今回の記事も、そのときに築かれた印象を土台に、人々の憶測を「事実」と思い込ませるのが目的だ。京弥の話を聞きながらも、紗雪の心はまだ揺れていた。一方、彼女が長い間黙っていることで、何を考えているのか京弥にも伝わっていた。彼は小さくため息をつく。「時には考え方を変えてみてもいいんじゃないか。俺は君の後ろ盾であり、人脈でもあるんだ。なのにどうしてそれを活用しようとしない?これらは使うためにあるんだ。そうでなければ、どうして皆必死になって上を目指すと思う?本当に、成功した人間はみんな何の後ろ盾もなくここまで来たと思っているのか?」その言葉を聞いた瞬間、紗雪は呆然と立ち尽くした。まるで頭の中が真っ白になったようだった。自分には京弥という大きな後ろ盾がある。それほどの力を手にしているのに、どうして活用せず、わざわざ苦労ばかり選んできたのだろう。もしそうだとしたら、自分は一体何を追い求めていたのだろう。しかも、京弥の力を借りたからといって、自分の夢を叶えられなくなるわけではない。ただ、その道のりが少し楽になるだけだ。自分にも実力はあるのに、どうして彼の力を借りることを恐れていたのだろう。そこまで考えて、紗雪は自分がおかしく思えてきた。どうして今まで、京弥との関係を公表することをあれほど拒んでいたのだろう。人生には近道もある。自分はその道を選べばいい話。関係を公表しなかったからこそ、千弦に付け入る隙を与え、自分を踏み台にしてのし上がる機会まで与えてしまったのだ。それでも紗雪が黙ったままだったため、京弥は再びため息をついた。「もしこの対応策に賛成できないなら、別の方法を考える。この件はもう気にするな」最後に彼は優しく付け加える。「君は番組の収録に集中してくれ。全部俺が片付ける」そう言って電話を切ろうとした。紗雪がこの案に同意しない以上、匠と改めて今後の対応を相談するしかない。もちろん、力づくでネット上の話題を押さえ込むこともできる。だが、トレンドを消せても、人々の口や好奇心まで封じることはできない。「待って、京弥
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第1610話

「そうね。だから、さっき京弥が言ってた案で進めましょう」その一言を聞いた瞬間、京弥の目が輝いた。胸いっぱいに込み上げる喜びが、一気に全身を駆け巡る。「本当にいいのか?」今になっても京弥は信じられなかった。これまでの紗雪は、一度もこの件で折れたことがなかった。彼との関係を公表すれば、多くの人が彼とのつながりを理由に便宜を図るようになり、仕事も楽になる。そうなれば、それは自分の実力ではなくなる。周囲は自分の能力ではなく、背後にいる京弥という存在しか見なくなる。彼女はずっとそう考えていた。だが今になってようやく気づいた。努力だけで状況を変えられると思っていたが、現実はそう単純ではなかった。しかも、その隙を利用して付け込む人間まで現れてしまった。千弦の得意げな顔を思い浮かべるだけで、胸の奥がざわついて仕方がない。「うん、もう決めたから」紗雪は決意を固めたように言う。「今はネットでも大騒ぎになっている。このまま私たちが表に出なければ、篠塚さんがこれから何をしでかすか分からない。だったら、今度こそはっきりさせて、京弥と彼女の噂を完全に断ち切ったほうがいいと思う」京弥は思わず笑みをこぼした。「やっと分かってくれたんだな、さっちゃん」あまりに嬉しくて、思わず彼女の愛称で呼んでしまう。実は今日この電話をかける前から、どこかで紗雪は承諾してくれる気がしていた。それでも彼は独断で決めることはしなかった。何よりも紗雪の気持ちを尊重したかったからだ。もし自分の思い描いた通りにならなかったらどうするのか。そんな可能性も考えていた。素性を打ち明けて以来、京弥は以前のように何でも独断で決めることはなくなった。話し合うことの大切さを、ようやく理解したのだ。今の二人は夫婦だ。何かあれば二人で相談して決めるべきで、一方が勝手に結論を出すものではない。もし何でも一人で決めるのなら、結婚した意味などどこにあるのだろう。ただ一緒にいる相手が増えただけで、互いの意見を聞く必要もないというのなら、それは夫婦とは呼べない。「わかった。今すぐ手配しよう」京弥は口元を緩めた。紗雪との関係をようやく世界中に公表できると思うと、躍り上がりたいほどの歓喜がこみ上げていた。「なんだか、すごく嬉
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