All Chapters of クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Chapter 1441 - Chapter 1450

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第1441話

「わかりました。ではあとで清那に聞いてみます」「ええ、理由ならあの子がちゃんと知ってるから、きっと正直に話してくれると思うわ。でも今の時間帯だと、まだ忙しいんじゃないかしら」そう言ったあと、尚美ははっきりと続けた。「紗雪、こっちもまだ少し立て込んでるの。また今度ゆっくり話しましょう」その言葉を聞いた瞬間、紗雪はすべて察した。これ以上この話題を続けるつもりはないのだ。だから彼女も状況を察して、それ以上引き止めることはせず、そのまま通話を切った。黒くなったスマホ画面を見つめながら、紗雪は静かに考え込む。どうしても、どこか引っかかる。日向が事故に遭ったのなら、なぜ自分には何も知らせてくれなかったのだろう。それに、清那のあの必死な態度も少し不自然だった。紗雪が再び清那へ電話をかけようとしたその時、吉岡がドアをノックして入ってきた。彼は午後の打ち合わせ用資料をすべて机の上へ置き、丁寧な口調で言う。「社長、こちら午後の商談資料です。先に目を通していただければ」「ありがとう、そこに置いておいて」そう答えたあと、紗雪はふと思い出したように彼へ尋ねた。「資料を見た感想は?」吉岡は真剣に考えながら答える。「......柿本社長はかなり譲歩してくれています。現地調査も済ませましたけど、このプロジェクト自体はすぐ動かせる段階です。今必要なのは、細かい契約内容の調整と、どの資材メーカーから材料を発注するか決めることくらいですね」少し間を置き、彼は付け加えた。「他は特には......あ、そういえばデザイナーだけ、まだ正式に決まってません」その答えを聞き、紗雪は心から感心した。「吉岡、本当に前より成長したね」「ありがとうございます。全部、社長が教えてくれたおかげです」吉岡は遠慮なく言葉を続ける。「社長のそばで働いて、たくさん学ばせてもらいましたから」それはお世辞ではなく、本心だった。逆に紗雪のほうが少し照れてしまい、軽く手を振る。「それはあなた自身が吸収力あるからよ。このまま頑張れば、将来私がいない時でも、このスタジオをちゃんと回せるわ」その瞬間、吉岡の表情が一気に変わった。「え、そんな......『いない時』って、どういう意味ですか!?」声には明らかな焦りが滲んでいる。
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第1442話

吉岡は真剣な顔で胸を叩いた。「このスタジオは、私にとっても子どもみたいなものですから」「それなら安心ね」紗雪は立ち上がり、軽く彼の肩を叩いた。「これからもよろしくね。このスタジオは、きっともっともっと良くなるから。それと、清那のことは心配しなくていいわ。事情があるみたいだから」「わかりました」......一方その頃、清那は病院で日向のそばに付き添っていた。全身を全身を包帯とギプスで覆われた彼の姿を見るたび、涙が止まらなくなる。「どうして......昨日まで普通だったのに、なんでこんなことに......」責めるような口調ではあったが、その目には隠しきれない心配が滲んでいた。全身にギプスを巻かれ、触れる場所すら見当たらない姿に、胸が締め付けられる。ベッドのそばには日向の両親も座っていた。二人とも目を真っ赤にしている。清那の言葉を聞いた瞬間、今にも涙が零れ落ちそうになった。「話は......長くなるけど」日向の母親・智子(ともこ)は震える声で続けた。「完全にもらい事故だったの」その言葉に、清那は眉をひそめる。「どういうことなんですか......?」いつの間にか、彼女の声にも焦りが混じっていた。だが今の日向は全身ギプスで固められ、彼自身が答えられる状態ではない。ベッドに横たわるその姿は、遠目には植物状態の患者のようにも見えた。そんな彼を見て、清那の胸に浮かんだのは心配だった。そして、それ以上に、言葉にできないほどの痛み。やがて父親の渉(わたる)が感情を押し殺しながら説明を始めた。「相手は飲酒運転だったんだ。日向はただ歩道を歩いていただけなのに、突然突っ込まれて......」渉の拳がぎゅっと握られる。「人を轢いたあとで、相手は酔いが醒めたらしくてな。そのまま逃げたんだ。今もまだ逃走中。しかも、あの辺りの監視カメラはちょうど故障していた......」声は徐々に掠れていった。「で、その被害者の日向は、今もまだ目を覚ましていない」その話を聞き、清那も胸が痛んだ。「犯人はまだ見つかってないんですか?」彼女には理解できなかった。ただ道を歩いていただけなのに、どうしてこんな目に遭わなければならないのか。しかも神垣家ほどの財力をもってしても、どうして今
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第1443話

「ああ......そういう意味だったのね」そこでようやく、神垣家の両親も清那の言葉の意味を理解した。二人はてっきり、清那が息子に特別な感情を抱いているのかと思っていたのだ。今の息子の姿を見るたび、胸が締め付けられるほど苦しい。顔に傷が残っていないかもまだわからない。もし本当に顔に傷が残ってしまったら、これから先、息子を好きになってくれる女の子なんて現れるのだろうか。親として、どうしてもそんなことまで考えてしまう。小さな千桜は病床のそばに立ち、全身を包帯とギプスで覆われた兄を見つめていた。その大きな瞳には涙がいっぱいに溜まっている。今にも泣き出してしまいそうだった。そんな姿を見て、清那も胸が痛くなる。それでも彼女は、ちゃんと二人の問いに答えた。「あの、逆にどういう意味だと思ってたんですか?」清那自身、本気で気になっていた。自分としては、ただ友達として心配していただけだ。まさか二人が、自分と日向の間に何か別の感情があると思っていたなんて。二人は清那のまっすぐな視線を受け、逆に少し気まずそうな顔をした。こうして比べてみると、考えすぎていたのは自分たちのほうだった気がする。清那はただ純粋に、友達として息子を気遣っていただけなのだ。もし変に勘繰って、彼女を驚かせてしまったらどうするのか。二人は慌てて誤魔化した。「え、いいえ、何でもないの。ごめんなさいね、勝手に深読みしちゃって」清那は二人の反応に少し不思議そうな顔をした。けれど深く追及することはしなかった。「安心してください、おじさん、おばさん。私は日向の友達ですから、ちゃんと支えます。こんな姿になってるのを見ると、私も辛いんです」すると渉が心配そうに尋ねる。「でも、それじゃ君の仕事に支障が出ないかい?」彼も目の前の清那を気に入っていた。だが、誰にだって自分の生活がある。だから清那を息子のそばへ縛り付けるような真似はしたくない。そんなの、彼女に対して不公平だ。まして清那のような娘は、きっと両親に大切に育てられてきた子なのだから。もし息子が以前のように明るく元気なままだったなら、もしかしたら――そんな考えが一瞬頭をよぎる。けれど今の状況では、夫婦はただ顔を見合わせることしかできなかった。胸の
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第1444話

二人は顔を見合わせ、千桜の反応に驚きを隠せなかった。というのも、普段の千桜は他人に触れられることを極端に嫌がる。ましてや清那とは、一度会った程度の関係だ。それなのに今、彼女はあまりにも自然に清那の腕の中へ収まっている。その光景が、二人には信じられなかった。千桜は本当に大人しく清那に抱かれ、触れられても一切抵抗する様子がない。清那はそんな小さな千桜を見て、胸が締め付けられるような気持ちになった。彼女は優しく問いかける。「君も日向のこと、心配してる?」二人はその瞬間、思わず口を開きかけた。千桜は自閉症で、ほとんど言葉を発しない。周りのことにはほとんど関心を示さない。だから清那に、あまり期待しすぎないでほしい――そう伝えようとしたのだ。落ち込ませたくなかった。けれど次の瞬間。清那の腕の中で、千桜が小さくこくりと頷いた。その仕草を見た瞬間、神垣家の両親は同時に目を見開いた。二人は信じられないものを見るように顔を見合わせる。――どういうこと?千桜が、清那の言葉に反応した?今まで、二人に対してですらここまで明確な反応を見せたことはなかった。せいぜい、たまに兄の日向と少し交流する程度。それ以外の人間にはほとんど無関心で、いつも自分だけの世界へ閉じこもっていた。けれど今、清那は優しく話しかけ続け、そのたびに千桜も時折小さな反応を返している。もちろん普通の子どものように会話できるわけではない。それでも、普段の千桜を知っている二人からすれば、これは信じられないほど大きな変化だった。清那もようやく、神垣家の両親の様子がおかしいことに気づいた。彼女は不思議そうに尋ねる。「二人ともどうしたんですか?」「な、何でもないのよ」智子は慌てて言葉を繋げた。「清那ちゃん、お願いがあるけど......もっと千桜と話してあげてくれる?」「もちろんです」清那はにこっと笑った。「すごく可愛いですし、私もこの子のこと好きですから」そう言って、再び千桜へ視線を向ける。その笑顔には一切の偽りがなく、見ているだけで心が温かくなるようだった。その様子を見て、智子は思わず目頭を熱くした。千桜がこんなふうに他人へ反応を示す姿を、彼女は本当に久しぶりに見たのだ。しかも清那は、
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第1445話

何より許せないのは、その加害者が今もどこかで逃げ回り、息子がもう味わえなくなった楽しみを、平然と享受しているかもしれないということだった。こんな現実、誰が受け入れられるだろう。その事実はまるで重い石のように、二人の胸へ圧し掛かり、息をすることすら苦しくさせていた。ほんの数日前までは、息子は元気だった。当たり前のように、二人のそばで笑っていた。それなのに今では、すべてが変わってしまった。そう思うたび、胸の奥からどうしようもない悲しみが込み上げてくる。やがて時間を確認した清那が、自分から口を開いた。「おじさん、おばさん、そろそろ時間なので、私は先に帰りますね」その言葉を聞いた瞬間、智子の胸には寂しさが広がった。清那という子は、本当に人に好かれる子だった。誰に対しても朗らかで、笑えば可愛らしいえくぼが浮かぶ。それに何より、千桜が彼女を気に入っていた。清那に抱かれている時の千桜は、明らかに普段よりずっとリラックスしている。実の両親と一緒にいる時よりも、どこか嬉しそうに見えるほどだった。そんな姿は、これまで一度もなかった。二人は少しでも千桜の状態が良くなってほしいと思っている。だからこそ、清那にはもう少しここにいてほしかった。清那もそんな二人の気持ちを察したのだろう。彼女は優しく微笑みながら言った。「安心してください。時間がある時は、また来ますから」「本当に......?」智子は思わず声を上げた。その瞳には、はっきりとした喜びと期待が浮かんでいる。「はい」清那はもう一度千桜を抱きしめた。その目には愛しさと痛ましさが滲んでいる。「千桜ちゃん、すごく可愛いですから。私もこの子と一緒にいるの好きなんです。日向とも友達ですし、来るのは当然ですよ」その言葉に、智子は思わず涙ぐみそうになった。けれど彼女は唇を強く結び、なんとか涙を堪える。こんな嬉しい時に、喜びを台無しにしたくなかった。「本当、優しい子ね......やっぱり、思った通りの素敵な子ね」すると渉も横から口を挟む。「ほら、智子。そろそろ早く送ってあげなさい。こっちは私が日向と千桜を見てるから」「わかったわ」病室を出る時も、智子は清那の手を握ったまま、なかなか離そうとしなかった。彼女は清那
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第1446話

「いいえ、千桜は......自閉スペクトラム症」それを聞いた瞬間、清那はようやく腑に落ちた。さっきから千桜にいろいろ話しかけても、彼女は時々小さく頷くだけだった。てっきり、人と話すのが苦手なのか、自分とまだ打ち解けていないだけだと思っていたのだ。「そう言われて、やっと分かりました」智子の声は少し詰まっていた。「千桜は、私たち相手ですら、こんなに反応を返してくれることはないの。誰かの腕の中で、あんなふうに何度も頷くなんて初めてで......だから私たち、本当に嬉しくて......別に大それたことは望んでいないわ。ただ、時間がある時に、たまにあの子に会いに来てくれたら......それだけで十分よ」「そうですか......わかりました」清那は、千桜への痛ましさがさらに強くなっていた。彼女は真剣な表情で約束する。「時間さえあれば、絶対に会いに来ます」「それならよかったわ。送迎の運転手を手配しましょうか?」智子は何度もそう言いながら、清那を見る目は、まるで宝でも見るかのようだった。「いえ、大丈夫です。自分で車を運転して来てるので」清那はその厚意を丁重に断った。「そう。それじゃ、また時間のある時に来てくださいね」清那は頷き、それから身を翻して立ち去った。その背中を見送りながら、智子の胸は感慨でいっぱいになる。今度こそ、清那が日向と千桜、あの二人の子を救ってくれるのではないか――そんな期待が、心の中に芽生えていた。それは同時に、長年抱えてきた自責の念から、自分たち夫婦を解放してくれる希望でもあった。部屋へ戻ると、渉が千桜を抱きながらこちらを見ていた。「どうだった?あの子、また来てくれるのか?」「ええ。本当にいい子ね。日向とは親友だから、次も必ず来るって何度も......それは自分の役目だとまで言っていたわ」その言葉を聞き、渉も深く息を漏らした。「うちの千桜にとって恩人だな。これから先、ちゃんと恩返しをしないと」「次に来る前に、何を贈るのがいいか考えておきましょう」智子も真剣な顔で頷く。彼らにとって、お金などただの数字に過ぎない。何より大切なのは、人との繋がりだ。......その頃。緒莉は会社へ戻っていた。母親に言われたこと。そして社員たちが、自分
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第1447話

その言葉を聞き、秘書はなぜか胸の奥に引っかかるものを覚えた。それでも彼は無理に口を開く。「これらの取引先については、以前会長もすでに目を通されております。皆かなり大きな利権を握っている方々なので、提携して損になることはない、と......」「......」緒莉は何も言わなかった。ただ、資料を握る指先がかすかに震えている。まさか最後には、こんな老獪な連中ばかり自分のところへ回ってくるなんて。しかも今度は、自分の方から頭を下げて機嫌を取らなければならない。こんなの、一体どこに文句を言えばいいのだろう。「分かった。もう下がっていいわ」緒莉は手を振り、秘書を下がらせた。部屋に一人きりになると、彼女は目の前の案件資料を見つめながら頭を抱える。こんな連中と交渉なんて、絶対にしたくない。彼女はよく分かっていた。こういう男たちと商談をすることが、どんな結果を招くのか。無傷で済む可能性なんて、ほとんどない。もし噂でも広まれば、自分の副社長という立場も終わりだ。だからといって、色仕掛けで契約を取ればいい、なんて話になるわけがない。下の立場の社員ならまだしも、自分は副社長だ。そんなことが許される立場ではない。何か問題が起きれば、真っ先に名前を晒されるのは自分だし、それで成果を出したところで、自分の実力とは何の関係もない。その時には、母親からもさらに失望されるだろう。そこまで考え、緒莉は眉間を揉んだ。胸の中に重苦しい苛立ちが広がっていく。ふと契約書に視線を落とした瞬間、彼女の脳裏に栄斗の顔が浮かんだ。あの男は最近、驚くほど自分に尽くしている。しかも、自分の容姿に惹かれていることも、何となく感じ取れていた。――だったら、それを利用して何が悪い?緒莉の中で、ある考えが形になっていく。どうして紗雪のスタジオだけが順風満帆で、自分ばかりがこんな目に遭わなければならないのか。自分は上場企業の副社長だ。いったいどこが紗雪より劣っているというの?これまで母親は、体調を理由にずっと自分を会社から遠ざけてきた。もしもっと早く会社に関わっていれば、自分だって紗雪に負けていなかったはずだ。......とはいえ、こういう老獪な連中が相手では、たとえ紗雪に任せたところで、きっとどう
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第1448話

まさか緒莉が、あれこれ選んだ末にこんな相手を選ぶとは思ってもいなかった。だが、もし「会長の娘」という肩書きだけでこの案件を取れるなら、営業部にとっては願ってもない話だ。もっとも、緒莉本人はそんな事情など知る由もない。彼女は川口の写真を見比べた時、他の案件相手に比べれば、まだ誠実で朴訥そうなタイプだと思っていた。年齢の割に禿げてもいないし、だらしない腹でもない。きっと普段から自己管理をしていて、身なりにも気を遣うタイプなのだろう、と。少なくとも大きな問題はなさそうだった。他の連中など、写真を見るだけで胡散臭さと下品さが滲み出ていたのだから。緒莉は栄斗にもメッセージを送っていた。――今夜、ホテルで会おう。そんな含みのある文面を送れば、相手には十分伝わる。あとは何も説明しなくても、向こうから嬉々として飛んで来るに違いない。――夜。レストランでの会食。緒莉と川口は向かい合って座っていた。だが相手が一人で来たのを見て、緒莉は少し不思議に思う。こういう大企業の社長なら、普通は秘書やアシスタントを連れているものではないのだろうか?なのに彼は、一人きりだった。その疑問を彼女がそのまま口にすると、川口はあまり気にした様子もなく笑った。「秘書には秘書の仕事がありますから。ただ食事をして契約の話をするだけなら、わざわざ連れて来る必要もないでしょう。私一人で十分です」その言葉を聞き、緒莉は逆に納得してしまった。確かに、社長同士で案件の話をしながら食事をするだけなのだ。秘書は会社で別の仕事をしていた方が効率的かもしれない。「さすが川口社長です。とても合理的な考え方をされるのですね」緒莉は笑顔で褒めた。ビジネス書の内容通りだった。相手を褒めることが大切なのだ。表面的な印象さえ良くしておけば、相手の好感度も自然と上がる。そうなれば、契約だって難しくない。「それにしても、二川さんはお若いのに、もう二川グループの副社長ですか。私も、若い世代から学ばないといけませんね」川口の口調もまた非常に丁寧で、どこにも不自然さは感じられなかった。顔には終始笑みが浮かび、笑い皺で目尻まで細くなっている。その褒め言葉を聞き、緒莉は心の中で、この案件はもう半分成功したも同然だと思った。
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第1449話

こんな感覚を覚えたのは、川口にとって初めてだった。新鮮さを感じた彼は、思わず口を開く。「以前、二川さんをお見かけしたことがありませんでしたね。もしかして、こうして外で案件交渉をするのは初めてなんですか?」その言葉に、緒莉は少し驚いた。まさか本当に見抜かれるとは思っていなかったのだ。自分では、かなり慣れているように振る舞えているつもりだった。「さすが川口社長。初めてだって、そんなことまで分かってしまうなんて」緒莉は、新人であることを隠さなかった。それもまた、彼女が学校で学んだ「テクニック」の一つだった。適度に弱みを見せれば、相手の男性的な優越感を満たせる。そうすれば商談も進めやすくなるし、相手も自然とこちらに同情心を抱く。「自分は強者で、相手は弱者」という構図ができれば、相手のプライドを満たせる分、契約もまとまりやすくなるのだ。そう考えた緒莉の笑みは、さらに柔らかくなった。一方の川口は、内心でますます気分を良くしていた。改めて緒莉をじっくり眺める。確かに、紗雪ほど圧倒的な美貌ではない。だが、人混みの中でも一目で目を引くタイプの美人だ。華やかな顔立ちに白い肌。ゆるく巻かれた髪が、どこか艶っぽい色気を漂わせている。しかも今日は身体のラインが際立つタイトなスーツ姿だ。川口の喉が、思わずひりつく。彼は目を細めて笑った。「まさか二川さんの『初めて』とは。いやぁ、それは光栄ですね」その言葉に、緒莉はどこか引っかかるものを感じた。けれど相手は終始にこやかだし、深く考えはしなかった。――こういうのが、この人の話し方なのかもしれない。商売人というのは、どこかしら独特な性格をしているものだ。全員が同じタイプなわけではない。緒莉は微笑み返し、そのまま話題を案件へ移した。「ではプロジェクトについてお話ししましょう。この案件、うちと組んでいただければ、他社では得られない利益をお約束できます」「ほう」その言葉に、川口は興味を示したように眉を上げる。ようやく話が案件の方向へ向いたことで、緒莉も内心ほっとした。彼女は真剣な表情で頷く。「しかも、この案件は私自身が監督に入りますので、細かな部分も直接私とやり取りしていただけます」まるで初めて聞いた話のように、川口は
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第1450話

川口は適当に条項を指差すと、そのまま緒莉のすぐそばへ身を寄せた。そして貪るように、彼女の纏う香りを吸い込む。心地よさそうに目を細めた。――こんなに「美味そうな匂い」は久しぶりだ。一方の緒莉は、彼が指した箇所へ視線を落とす。だがそこに書かれていたのは、ただの注意事項に過ぎなかった。「......」ここまで来て異変に気づけないほど、彼女も鈍くはない。次の瞬間、緒莉は勢いよく身体を引き、二人の距離を開けた。その声は一気に冷え切っていた。「川口社長、自重してください。今あなたが聞いた内容......こんなの、字が読めれば理解できるでしょう。それとも川口社長は、文字も読めないんですか?」緒莉は深く息を吸い込み、その言葉を容赦なく叩きつけた。一切遠慮はなかった。その瞬間、川口の顔色が一変し、怒りで顔を曇らせた。「来る前に、そちらの人間から、『ちゃんと私を気持ちよくさせろ』と聞かされなかったのか?」その言葉に、緒莉は怒りのあまり逆に笑ってしまった。「私は仕事の話をしに来たんです。何を『気持ちよくさせる』必要があるんですか?そんな歳にもなって、女性に機嫌をとってもらわないと何もできないんですか?」川口は怒りに顔を歪め、その場で立ち上がる。「業界で私の名前を調べてみろ。どんな評判か、すぐ分かる。お前も、この案件を受ける時点で覚悟して来たんじゃないのか?」「何の覚悟ですか?」緒莉は眉を寄せた。本気で意味が分からなかった。「これでもまだ分からないのか」そう言いながら、川口は再び腰を下ろす。そして次の瞬間、彼は緒莉の太腿へ手を置き、そのままゆっくり撫で始めた。滑らかな感触を味わうように、満足げに目を細める。緒莉は一気に顔色を変え、反射的に立ち上がった。そして――パァンッ!乾いた音が個室に響く。「このクソジジイ、何するつもりよ!」川口は頬の焼けるような痛みに、一瞬呆然とした。だが次第に怒りが込み上げ、目には凶悪な光が宿る。「殴ったな?どんな結果になるのか、わかってるのか?」「どんな結果になろうが、殴るに決まってるでしょう!」緒莉は冷たく鼻で笑った。「私が誰なのか、知らないんですか?」「ただの副社長だろ。何を偉そうに」だが次の瞬間、川口の目付き
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