All Chapters of クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Chapter 1451 - Chapter 1460

1466 Chapters

第1451話

緒莉は続けて口を開いた。「私は、両社が友好的に協力できる形を望んでいます。こんなふうに険悪になるために来たわけじゃありませんから」川口の表情は明らかに険しくなっていた。まさか今日は、こんな厄介な相手に当たるとは思っていなかった。彼は顔に浮かんでいた欲望の色を引っ込める。――あの二川会長も、相当どうかしてる。たかが一つの案件のために、実の娘まで送り込んで来るとは。そこまでする必要があるのか?「お前の母親は、お前が私と商談してることを知ってるのか?」川口は今になって気になり始めていた。二川会長が、自分の長女を寄越していることを本当に把握しているのかどうか。しかも自分は、ついさっき緒莉にあんな真似までしてしまった。もしあの女に知られたら、何をされるか分からない。そこで初めて、川口の背筋にじわりと冷たいものが走った。だが緒莉は、落ち着いた態度を崩さない。「これは会社にとって必要な案件ですし、以前から川口社長は弊社とお取引があります。だから私が来ること自体、不自然ではないと思いますけど?」彼女の口調は終始堂々としていた。感情的にならず、あくまで「協力関係」として話を進めている。その姿を見て、川口はすぐに察した。――こいつ、二川会長には何も言ってない。もし報告していたなら、あの女はとっくに電話を寄越しているはずだ。そう思うと、逆に妙な違和感も覚えた。二川会長の娘ともあろう人間が、なぜわざわざこんな営業まがいのことをしているのか。「お前みたいなお嬢様が、わざわざ私と商談を?本気なのか?」川口は純粋な興味から尋ねた。だが緒莉は気にした様子もない。「だったら、そんなお嬢様が直々に来ることは、むしろあなたにとって光栄なことじゃないですか?」その返答は実に隙がなかった。川口ですら、言い返す材料を見つけられない。むしろ彼女を見る目には、少しばかり感心の色さえ浮かんでいた。「......分かった。契約書を見せろ」川口は手を差し出した。その瞬間、緒莉の胸に喜びが広がる。――やっぱり上手くいくんだ。秘書が言っていた通りだった。「会長の娘」という肩書きだけで、相手に十分プレッシャーを与えられる。しかも、この立場は思っていた以上に便利だった。母親の名前を
Read more

第1452話

ビジネスにおいて、誰もが即決を避けて含みを残したがるものだということは、緒莉も分かっていた。一度持ち帰ってしまえば、結局この話はそのまま流される可能性が高い。「そこまで考えてくださってるなら、ここで契約してしまった方がいいんじゃありませんか?」「そんなに急ぐ必要があるのか?」川口は思わず問い返した。本音を言えば、彼としては契約は後日に回したかった。引き延ばせるなら、その方がいい。正直、今の二川グループは彼にとって最優先の提携先ではない。もしもっと条件のいい会社が現れれば、わざわざ二川を選ぶ理由もないのだ。人間というのは、結局は利益で動く。自分に得をもたらす方へ流れるのは当然だ。だが緒莉は笑みを崩さない。「川口社長が何を考えているのか、私には分かります。でもお話しした通り、私はあなたに最大の利益をもたらすつもりです。他社とも比較したいと思ってるはずですが、他社が出せる条件なら、うちだって出せます。それに二川グループは老舗企業ですから、あちらより信用もあります......違いますか?」その言葉には、半ば誘惑、半ば圧力のような響きが混じっていた。川口を持ち上げながら、巧みに追い込んでいる。それも無理はない。今の緒莉には、どうしても「実績」が必要だった。そうでなければ、会社の中で居場所を築けない。周囲の人間は、すぐにそのことで彼女を責め立てる。何かあるたびに紗雪と比較されるのだ。しかも最近は、紗雪の会社がますます順調になっている。会議中ですら、社員たちはことあるごとに紗雪の名前を口にする。それを思い出すだけで、緒莉の胸は苛立ちでざらついた。彼女は必死だった。自分は紗雪に劣っているわけじゃない。ただ、本気を出してこなかっただけだ。もし本気になれば、こんな案件だって簡単に取れる。「......確かに、一理あるな」川口は本当に考え始めた。契約書を手に取り、一行一行を丁寧に確認していく。そして最後には、緒莉の言葉が嘘ではないと気づいた。提示されている条件は、確かにかなりの好条件だった。他社と組んだとしても、ここまで利益を譲ってくれるとは限らない。「分かった。契約しよう」その瞬間、緒莉の胸に喜びが弾けた。「はい、絶対に失望させません!」「
Read more

第1453話

「せっかく気持ちよく提携できたんだ。握手くらい、してもいいだろ?」「......」正直、握手なんてしたくなかった。川口が差し出した手を見つめながら、緒莉はしばらく躊躇する。さっきのこともあって、考えれば考えるほど気まずい。今では、川口の視線を向けられるだけで違和感を覚えた。どうしても「下心」が透けて見える気がするのだ。「握手は......やめておきませんか?」緒莉は遠回しに断った。「もう契約も決まりましたし、私が約束したことはきちんと実行します。だから、それ以上に必要以上の接触はなくてもいいんじゃないでしょうか」その言葉に、川口の顔が不機嫌に歪む。「は?」彼は鼻で笑った。「これからビジネスパートナーになるんだぞ?そんなこと言って、筋が通ると思うか?」「......」言われてみれば、確かに自分の言い方もまずかった。今後も仕事で顔を合わせる機会は山ほどある。その相手に、今の段階で露骨に距離を取るのは不自然だ。しかも川口の「何だこいつ」と言いたげな視線を受けていると、緒莉自身も居たたまれなくなってくる。結局、彼女は仕方なく手を差し出した。「......では、今後ともよろしくお願いします」だが、緒莉はすぐに後悔した。川口は彼女の手を握ったまま、まったく離そうとしなかったのだ。――やっぱり。この男は、どうしようもない変態だ。余計な接触を避けるべきだった。彼は緒莉の身分を知った今ですら、隙あらば少しでも得をしようとしている。川口は彼女の手を強く握ったまま、ざらついた指先で手の甲をゆっくり撫で始めた。きめ細かく滑らかな感触を楽しむように、うっとりと目を細める。その様子に、緒莉は本気で吐き気を覚えた。彼女は力任せに手を引き抜く。「自重してください。私が誰か、忘れたんですか?」だが川口は気にも留めない。「だから何だ?」彼はニヤつきながら言った。「お前の母親だって、お前を外に出して商談させてるんだろ?だったら、こういうことが起きるのも分かってるはずだ。何がおかしい」それどころか、彼は自分の容姿にまで妙な自信を持っていた。「それに、他の脂ぎったオヤジ連中と比べたら、俺はまだ見た目も体型もマシな方だろ?」その自信満々な態度に、緒莉は呆れて言
Read more

第1454話

緒莉は契約書を持ったまま、そのままレストランを後にした。本当に店の外へ出た瞬間、彼女の気分は一気に軽くなる。――これで契約を取った。会社の古参連中も、もう自分に何か言えるだろうか?自分は決して無能なんかじゃない。川口の悪評は業界内でも有名だ。そんな相手との案件を、たった一度の会食でまとめ上げたのだ。商談というものも、思っていたほど難しくはない。いずれきっと、自分は紗雪を超えられる。そう確信しながら店を出たところで、栄斗からメッセージが届いた。【いつ来るんだ?もう着いたけど】その文面を見て、緒莉は思わず白けた顔になる。こちらは今やっと食事を終えたばかりだというのに、あの男はもう待ちきれないらしい。だが、まだ彼の力は必要だ。そう考え、彼女は結局約束の場所へ向かう。以前は関係を切ろうとも考えていた。けれど今は、京弥の存在を思えば、簡単には切り捨てられない。しかも現時点では、栄斗以上に都合のいい相手も見つかっていなかった。彼は椎名家と繋がりを持っている。今後、椎名家のパーティーや上流階級の集まりに出入りするなら、栄斗は最適な足掛かりになる。そう考えているうちに、緒莉の脳裏には以前パーティーで見かけた晃生の姿が浮かんだ。――あれこそ、本当の目標。彼女にとって大切なのは、結果だけだ。世間は勝者のことしか覚えない。二番手など、誰の記憶にも残らない。目的さえ達成できれば、その過程などただの踏み台に過ぎない。それは今の美月と同じ考え方だ。あの人は結果しか見ない。どれだけ苦労したかも、どんな思いをしたかも気にしない。そんなことは、緒莉もとっくに理解している。だから今の彼女は、自分の力で上へ行こうとしているのだ。もう美月の気持ちなど気にしない。母親の前では、ただ「聞き分けのいい娘」を演じていればいい。それ以外は必要ない。彼女が欲しいものは、最初からはっきりしていた。最終的に、二川グループを自分の手で握ること。そして一生、紗雪に踏みつけられ続ける人生を終わらせることだ。――夜。緒莉はホテルへ向かった。部屋へ入った瞬間、栄斗がすぐに彼女を抱き寄せる。緒莉は彼の頭を軽く押し返し、わざと甘えるように言った。「そんなに焦らなくてもい
Read more

第1455話

さっきまであれほど乗り気だった栄斗は、その言葉を聞いた瞬間、一気に興ざめしてしまったようだった。それを察した緒莉は、すぐに彼の首へ腕を回す。そして耳元で甘く息を吐きながら囁いた。「最近嫌な思いをしたから、聞いてほしくて......普段なら我慢できるの。でも、もう私は栄斗さんの女なのに、平気で私をいじめてくる人がいるのよ......?考えれば考えるほど悔しくて」「そんなことがあったのか?」緒莉の不満そうな表情を見た瞬間、栄斗の胸には怒りが湧き上がった。彼女の言う通りだ。もう自分の女になっている相手に手を出すということは、つまり自分を舐めているのと同じではないか。そして緒莉も、まるで彼の考えを読んでいたかのように続ける。「少し嫌な思いをするくらいなら、まだいいの。でも私が侮られるってことは、栄斗さんの顔を潰してるのと同じじゃない?それって、あなたを軽く見てるってことだと思うの」その言葉で、栄斗の頭は一気に冴えた。確かにその通りだと思った。「誰だ、その相手は?」彼の声には冷たい怒気が混じる。「俺の女に手を出すなんて、随分いい度胸してるな。真正面から俺に喧嘩売るつもりか」緒莉は少し視線を落とし、ためらうように口を開いた。「本当は、こんなこと言いたくなかったんだけど......最近、妹がどんどん酷くなってるの......会社の案件もわざと邪魔して、私に契約を取らせないようにしてるし......その上、お母さんの前でも私の悪口ばかり」そう話す彼女の目にはうっすら涙が滲んでいた。「今の私は、お母さんの前ではずっと従順に振る舞っているのに......お母さんは妹の話しか聞いてくれないの......栄斗さん......もう、どうしたらいいのか分からなくて。私には、もうあなたに頼るしか......」緒莉はわざと低い立場を取っていた。目的はただ一つ。栄斗の同情心を刺激すること。「そんな好き勝手してるのか......」栄斗は本気で驚いていた。しかも腹立たしげに言う。「同じ母親の娘なんだろ?なんでそんな露骨に差をつけるんだよ」「......たぶん、妹の方が私よりずっと有能だからだと思う」そう言う緒莉は、俯き加減で弱々しく見えた。まるで大きな理不尽を背負わされているような姿。
Read more

第1456話

緒莉は、わざと少し考え込むような素振りを見せた。「妹は妹だから......同じ母親から生まれた姉妹だし、本気でどうこうしたいわけじゃないの。ただ、少しだけ痛い目を見せてあげれば十分かなって」そう言いながら、彼女は「何気ない風」を装って続ける。「そういえば妹、近いうちにバラエティ番組に出るみたいなの。だから、その時に視聴者からの印象が少し悪くなるくらいでいいんじゃないかなって思って」緒莉は軽く鼻を鳴らしながら、さも無意識に口にしたように振る舞った。その言葉を聞き、栄斗は少し意外そうな顔をする。――思っていたより、面白い女かもしれない。彼はずっと、緒莉を「無害で純粋なお嬢様」だと思っていた。だが今になって分かる。彼女は、そんな単純な女ではない。むしろ、自分が見くびっていたくらいだ。だが、よく考えればそれも悪くない。この世界であまりに綺麗事だけで生きていれば、簡単に他人に食い潰される。強くならなければ、踏みつけられるだけだ。人に都合よく扱われる人生など、面白いはずがない。栄斗は笑いながら言った。「緒莉って、時々かなり意地悪だよな」その瞬間、緒莉の胸が小さく跳ねた。――まずい。さっきの言葉、あまりにも露骨だっただろうか。まさか、こんなに早く自分の別の一面に気づかれるとは思っていなかった。まだ彼を十分利用しきれていない。今の段階で本性を見せるわけにはいかなかった。そう思った彼女は、慌てて取り繕うように笑う。「そんな、誤解だよ、栄斗さん......私はただ、妹に少し反省してほしいだけなの」「安心しろ。ちゃんとその妹さんに、覚えさせるから」次の瞬間、栄斗は彼女の耳元で低く囁いた。「だから今は、俺だけを見てろ」「うん」その言葉を聞き、緒莉の心は満たされていく。彼女はさらに熱心に男へ尽くし始めた。栄斗は心身ともに大きな満足感を覚える。やはり緒莉は、顔だけではない。仕草も、空気の読み方も、自分好みだ。こんな女なら、絶対に手放したくない。――それに、ただ世間知らずの小娘を一人潰す程度の話だ。大したことじゃない。番組出演のタイミングで世論を少し煽れば、ネットの連中が勝手に叩いてくれる。そう考えると、栄斗には、ますます大したことのない話に思え
Read more

第1457話

紗雪のような大物が出演してくれる以上、監督としては彼女に建築に関する知識をしっかり解説してもらい、より生き生きとした形で番組を作り上げたいと考えていた。連絡を受けた紗雪は、特に迷うこともなく答える。「スケジュールを組んでいただければ、いつでも合わせられます。もう事務所の方にも話は通してありますので」その返答を聞いた瞬間、監督の紗雪への好感度は一気に上がった。こんなに責任感があって、しかも腰の低い経営者を見たのは初めてだった。監督から見れば、紗雪のスタジオが大きかろうと小さかろうと、彼女は立派な社長様だ。これまで彼が関わってきた大物たちは、皆どこか鼻持ちならない態度だった。バラエティ番組など見下し、まるで自分たちスタッフを「舞台にも上がれない裏方」のように扱う人間も少なくなかった。だが紗雪は違う。彼女は最初から最後まで態度を変えず、誰に対しても平等だった。しかも、監督の仕事ぶりをきちんと認め、真剣に褒めてくれる。向けられる視線にも、一切の見下しがない。監督は、それだけでも十分に貴重だと感じていた。――まさか彼女が、自分たちみたいな裏方に寄り添ってくれるなんて。「二川さんみたいな人、本当に久しぶりです」そう言われ、紗雪は逆に不思議そうな顔をした。「え、当たり前のことだと思いますけど......」その言葉に、監督は思わず感慨深げに笑う。「社長さんがみんな、二川さんみたいな人だったら、どれだけ楽か......」紗雪は苦笑した。「私は、ただ自分がやるべきことをしてるだけです。もし私に合わせてほしいことがあれば、いつでも言ってください。必ず協力しますから。それに、専門家なのは監督の方です。私の方こそ、色々教えていただく立場だと思っています」その言葉で、紗雪は徹底して自分の立場を低く置いていた。だが彼女にとって、それは打算でも何でもない。真面目に仕事をしている人間は、それだけで尊重されるべきだと思っているからだ。皆、生きるために働いている。楽な仕事なんて存在しない。人間は本来平等なはずだ。職業だけで色眼鏡をかけて人を見る必要なんてない。ましてや、監督が本気で番組作りに向き合っているなら、紗雪は喜んで協力したいと思っていた。その考えを聞いた監督は、胸が熱くなるのを感じ
Read more

第1458話

「......」監督にそこまで言われると、さすがの紗雪も少し気まずくなってしまう。どう返せばいいのか分からず、彼女は軽く話題を変えた。「とにかく、何か私に協力してほしいことがあれば、すぐに連絡してくださいね。スケジュールの方も、ちゃんと空けてありますから」「はい、もちろんです!」そんなふうに、二人は穏やかな空気のまま通話を終えた。電話を切った後も、監督はまだ感慨に浸っていた。――紗雪みたいな相手と仕事ができるなんて、本当に運が良かった。これまでの仕事人生の中でも、間違いなく一番「感じのいい人」だった。通話を終えた紗雪は、そのまま清那へ電話をかける。もう、いつまでも自由に外を遊び回っていられる時期ではない。これからは番組の準備も始まる。収録当日に、一人で慌てるわけにもいかない。電話は思ったより早く繋がった。「清那、今忙しい?」紗雪は、ふと日向のことを思い出しながら尋ねる。一方の清那は、紗雪に対してまだ少し気まずさを感じていた。それでも正直に答える。「そこまで忙しくないけど......紗雪......私、あなたに謝らなきゃいけないことがあるの。前の件、本当にごめんなさい」「私、怒るために電話したわけじゃないんだけど?」紗雪は苦笑しながら眉間を軽く揉んだ。まさか清那がここまで気にしていたとは思わなかった。――もしかして前に、自分が無意識にプレッシャーかけすぎてたのかな。そんな考えまで頭をよぎる。「本当に、その話じゃないの?」清那は驚きを隠せない。彼女からすれば、紗雪が怒るのは当然だと思っていた。自分は仕事の進行を遅らせたうえ、スタジオにも行けていなかった。しかも、きちんと休みの連絡すらしていない。どう考えても、自分が悪い。だが紗雪は静かに言った。「もちろん違うよ。人にはそれぞれ事情も生活もあるし、私だって四六時中あなたを管理したいわけじゃないもの。それに......日向の件も特殊だし。実は私も、あの人の状況が気になってる」その言葉を聞き、清那はようやく胸を撫で下ろした。「状況はかなり複雑なの。事故起こした相手がそのまま逃げちゃって......しかも飲酒運転だったみたいで。日向の両親も、まだ犯人を見つけられてないみたい」「そんな......
Read more

第1459話

それなら、もう心配することは何もない。そう思った瞬間、清那の胸には嬉しさが込み上げてきた。ずっと待っていたのだ。なかなか良いタイミングがなく、今まで機会を逃してばかりだった。でも、ようやく番組に入れる。――ってことは、前から見たかった芸能人たちにも会えるってことじゃない?「全然早くないって」紗雪は苦笑混じりに言った。「監督からさっきポスター確認の連絡も来たし、多分もうすぐ公式発表されると思う」「じゃあ私、絶対一番最初に『いいね』押す!」清那は、本気で紗雪の圧倒的な美貌が大好きなのだ。紗雪の顔は、もはや彼女の誇りである。一緒に歩いているだけで優越感があるほどだ。子どもの頃からそうだった。周囲の子たちは、清那を羨ましがっていた。そして大人になった今でも、彼女は胸を張って言える。――自分は紗雪の親友だ。「はいはい、ほんと口だけは達者なんだから」紗雪は呆れ半分で返す。だが清那はむしろ得意げだった。「だって本当のことだもん」そして紗雪は、改めて本題を口にする。「次からはちゃんと時間通り出勤してね。監督の方もまだ正式な収録日程は決めてないけど、今週中には始まるから。もう前みたいにだらけちゃ駄目だよ?」念押しするように何度も言う。清那も胸を叩きながら保証した。「安心して!前回は本当に事故みたいなものだったけど、今回はちゃんと重要性分かってるから。もう絶対あんなミスしない!」「なら安心かな。何かある時は、ちゃんと事前に連絡してね」そうして二人は通話を終えた。電話を切った直後、清那は真っ先に「グランドスペース」の公式サイトへ飛ぶ。すると案の定、すでに番組の公式ポスターが公開されていた。ポスターの中の紗雪は、すっきりと艶やかに和服を着こなし、金縁の眼鏡をかけている。髪は後ろでまとめられ、一本の簪だけで静かに留められていた。画面越しですら、知的で落ち着いた空気が溢れてくる。その姿を見た瞬間――清那は、もうほとんど画面を舐めそうな勢いだった。彼女は昔から知っている。紗雪の顔面偏差値が神がかっていることくらい。しかも、全部が自分の好みに刺さる。だが、このポスターはそれ以上だった。叫び出したくなるくらい破壊力がある。清那は公式が投稿した
Read more

第1460話

京弥も紗雪の番組ポスターをネット上で目にしていた。そして何も言わず、こっそり保存する。その様子を横で見ていた匠は、心の中でしみじみしていた。――さすが社長、相変わらず素直じゃないな......保存したいなら堂々と保存すればいいのに、わざわざコソコソしている。もう自分の奥さんなんだから、こういう細かいところが本当に「愛しいような、呆れるような」感じだった。そう考えているうちに、匠はふと思う。――自分もそろそろ彼女作るべきじゃないか?今まで散々、社長のためにあれこれ恋愛の作戦を練ってやった。だったら、その経験を自分にも活かせるんじゃないか。そんなことを考えた途端、急に自分が少し哀れに思えてきた。毎日真面目に働いて、朝から晩まで仕事漬け。なのに今まで彼女一人できたこともない。しかも社長の恋愛相談に付き合って、妻の攻略法まで考えてやっていたのに、気づけば社長は紗雪とちゃんと付き合えて、自分だけ何も残っていない。相変わらず孤独な独身男のままだ。そう思うと、なんだか本当に切なくなってくる。もうこれ以上、社長のイチャイチャを見せつけられる人生は嫌だった。以前はまだ良かった。社長が紗雪と付き合う前は、少なくとも頭の中は仕事一色だったからだ。だが今は違う。京弥は完全に「恋愛モード」に浸かっている。仕事への執着も少し減り、最終的には全部こちらに投げてくる始末。――恋愛してる人間って、ほんと変わる......匠は思わず深いため息をついた。その「はぁ......」という空気が耳に入ったのか、京弥が顔を上げる。「井上、さっきから何ため息ついてるんだ」匠は心臓が跳ね上がり、思わず肩まで震えた。「い、いえ!別に何も!」「裏で俺の悪口でも考えてたのか」京弥は半ば確信したように言う。その一言で、匠の背中に冷や汗が浮かんだ。まさかこんなに勘が鋭いとは。心の中でちょっと愚痴っただけなのに、もう察知されたのか。匠は慌てて頭を掻きながら笑って誤魔化す。「いえ、そんな......ほんと何も言ってませんって」そして慌てて話題を変えた。「そうだ、今日は奥さまの番組ポスター解禁日でしたよね?」その言葉に、京弥は少し意外そうな顔をする。「お前も覚えてたのか」彼とし
Read more
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status