「でも、紗雪は......」緒莉が話を途中でやめると、美月は真面目な顔で言い切った。「全部、あの子の自業自得よ。二川グループを離れるって決めた以上、それに伴う代償くらい覚悟しておくべきだったの」そのあまりにも冷淡な態度を見て、緒莉もそれ以上は何も言えなくなった。これ以上話を続ければ、美月を不機嫌にさせてしまいそうな気がしたのだ。だったら、わざわざ逆らう必要もない。むしろ今は、美月に合わせておいた方がいい。「うん、そうだね」美月は、素直に頷く緒莉を見て満足そうに微笑んだ。「緒莉は、自分の仕事をちゃんとしていればそれでいいの。今までみたいに、二川グループのためにしっかり案件を取ってきて。他のことまで気にしなくていいわ」少し声を柔らかくして続ける。「私はずっと、あなたを鍛えたいって思ってた。いつまでも私の後ろに隠れてほしくなかったから。でも時には、お母さんに頼ったっていいのよ」その「立派な母親」らしい言葉を聞きながら、緒莉は内心少し笑いそうになっていた。だがもちろん、顔には出さない。向こうがここまで綺麗にセリフを用意してくれているのだ。ここで空気を読まずに反発すれば、自分の方が聞き分けのない娘に見えてしまう。「ありがとう。お母さんが私のためを思って言ってくれてるの、ちゃんと分かってるから」そうして母娘は寄り添い合う。まるでお互いこそが、一番の支えであるかのように。だが、そのやり取りをそばで聞いていた伊藤は、心の中で大きな衝撃を受けていた。――まさか、美月がここまで変わってしまうなんて。本当に紗雪のことを心配していないのか?それとも、もう何の情も残っていないのか?そう思うと、伊藤は紗雪が不憫でならなかった。こんな母親の元に生まれてしまうなんて。むしろ、有佑がまだ生きていた頃の方が良かった。少なくともあの頃の紗雪には、ちゃんと愛してくれる人がいたのだから。だが今の美月は違う。もう紗雪の味方にはなってくれないだろう。伊藤は、これから先は紗雪が一人で道を切り開いていくしかないのだと感じていた。――もっとも、紗雪の夫はかなり良い人だと聞いている。二人で力を合わせて生きていけるなら、きっと悪い未来にはならないはずだ。今の伊藤には、ただ心の中でそう祈ることしか
続きを読む