All Chapters of クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Chapter 1471 - Chapter 1480

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第1471話

「でも、紗雪は......」緒莉が話を途中でやめると、美月は真面目な顔で言い切った。「全部、あの子の自業自得よ。二川グループを離れるって決めた以上、それに伴う代償くらい覚悟しておくべきだったの」そのあまりにも冷淡な態度を見て、緒莉もそれ以上は何も言えなくなった。これ以上話を続ければ、美月を不機嫌にさせてしまいそうな気がしたのだ。だったら、わざわざ逆らう必要もない。むしろ今は、美月に合わせておいた方がいい。「うん、そうだね」美月は、素直に頷く緒莉を見て満足そうに微笑んだ。「緒莉は、自分の仕事をちゃんとしていればそれでいいの。今までみたいに、二川グループのためにしっかり案件を取ってきて。他のことまで気にしなくていいわ」少し声を柔らかくして続ける。「私はずっと、あなたを鍛えたいって思ってた。いつまでも私の後ろに隠れてほしくなかったから。でも時には、お母さんに頼ったっていいのよ」その「立派な母親」らしい言葉を聞きながら、緒莉は内心少し笑いそうになっていた。だがもちろん、顔には出さない。向こうがここまで綺麗にセリフを用意してくれているのだ。ここで空気を読まずに反発すれば、自分の方が聞き分けのない娘に見えてしまう。「ありがとう。お母さんが私のためを思って言ってくれてるの、ちゃんと分かってるから」そうして母娘は寄り添い合う。まるでお互いこそが、一番の支えであるかのように。だが、そのやり取りをそばで聞いていた伊藤は、心の中で大きな衝撃を受けていた。――まさか、美月がここまで変わってしまうなんて。本当に紗雪のことを心配していないのか?それとも、もう何の情も残っていないのか?そう思うと、伊藤は紗雪が不憫でならなかった。こんな母親の元に生まれてしまうなんて。むしろ、有佑がまだ生きていた頃の方が良かった。少なくともあの頃の紗雪には、ちゃんと愛してくれる人がいたのだから。だが今の美月は違う。もう紗雪の味方にはなってくれないだろう。伊藤は、これから先は紗雪が一人で道を切り開いていくしかないのだと感じていた。――もっとも、紗雪の夫はかなり良い人だと聞いている。二人で力を合わせて生きていけるなら、きっと悪い未来にはならないはずだ。今の伊藤には、ただ心の中でそう祈ることしか
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第1472話

【前はこんな監督じゃなかったよね?これまで担当したバラエティ、どれも評判良かったのに。今回どうしちゃったの?】【見損なった】【ここではっきり言っとく。たとえ推しが出てても、この番組だけは絶対見ない】【推したちが可哀想......なんでこんな女と共演しなきゃいけないの】ネットでは好き放題に叩かれていた。だが、それでも監督の考えはまったく変わらなかった。その様子を外から見ていた紗雪でさえ、思わず胸が痛くなる。彼女はずっと、「自分が降板になる」という知らせを待っていた。なのに、監督側からは何の動きもない。その瞬間、紗雪は本当に胸がいっぱいになった。――まさか、ここまで自分を信頼してくれているなんて。彼女は強く思う。番組が始まったら、必ず全力で向き合おう。真剣にこの企画に取り組み、ちゃんと視聴者へ建築の魅力を伝えよう、と。その横で、清那も感極まったように紗雪の肩を軽く叩いた。目にはうっすら涙まで浮かんでいる。「......こんな監督、私初めて見た。ネットじゃあんなに叩かれてるのに、全然ブレないんだよ?ずっと自分の信念を貫いてる」清那は本気で感動していた。「きっとこういう監督だからこそ、何をやっても成功するんだよ。私、これから絶対、この監督のことを応援するよ」紗雪も同じ気持ちだった。むしろ清那の言葉は少しも大袈裟ではないと思う。――こんな監督なら、きっと何をやっても成功する。それは間違いない。「私もそう思う」紗雪は静かに頷いた。「番組が始まったら、私たちも頑張ろう。アンチが何も言えなくなるくらい」そう口にしながら、彼女は心の中で密かに決意を固める。すると清那がふと思い出したように尋ねた。「そういえば、いつ頃から収録参加するんだろ?もうここまで来てるのに、まだ正式な連絡ないよね?」「たぶん、ここ数日じゃないかな」紗雪は少し考えてから答えた。「今ネットの話題もどんどん大きくなってるし、逆に番組の宣伝にもなってる。たぶん『絶対見ない』って言ってる人ほど、放送始まったら結局見に来ると思う」それに清那も深く頷く。「分かる。そういう人たちって、叩きながら『番組でどう失敗するか』を見に来るんだよね」紗雪は思わず笑った。「今の人って、だいたいそんな感じだ
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第1473話

古今東西、この問題に明確な答えを出せた者はいない。長い年月をかけて議論され続けてきたが、誰もが「努力して学ぶことには意味がある」と信じている。だが今、ろくに努力もしていないように見える人間が、大きな利益を手にしている。そう映ってしまえば、人々の心に不満が生まれるのも当然だった。緒莉もその投稿を目にし、思わず栄斗を褒める。「この人、本当にやり手ね。この話題が出たら、紗雪も黙っていられないはず」まさか社会問題にまで結び付けてくるとは。裏で糸を引いている人物は、かなり頭が回る。人々は公平性というものをとても重く見ている。だからこそ、「コネで上がった人間」など許せないのだ。もちろん、ネット上の騒ぎを見ている人間の多くは、ただの野次馬だ。面白半分で騒ぎを眺め、適当に噂を消費しているだけ。だが、自分たちの興味を引く話題や、自分の利益に関わる問題が出てきた瞬間、一気に声を上げ始める。そういう人間は、あまりにも多い。栄斗は満足げに鼻を鳴らした。「ただの炎上程度じゃ連中も監督も動かないらしいからな。だったら、もっと燃やしてやればいい。そのうち、監督も紗雪を使い続けるなんて無理になる」その言葉を聞き、緒莉はわざと残念そうな表情を作る。だが、その瞳には隠しきれない悪意が滲んでいた。一方の栄斗は、そんな本音に気付かないふりをして、以前約束された「ご褒美」の話を持ち出す。「緒莉、前に約束してくれたこと、忘れないでくれよ?」緒莉は甘えるような声を出した。「もう、今はそういう話じゃないでしょ」彼女は照れたように言い返す。だが、顔に浮かんでいる表情は、その声色とはまるで一致していなかった。――所詮は踏み台。少し餌を与えて機嫌を取るくらい、どうってことはない。そもそも、こういう関係は一人だけが得をするものでもないのだから。「安心して。約束したことは、ちゃんと守るわ」緒莉はよく理解していた。人に働かせるなら、相応の見返りを与えなければならないということを。その言葉に、栄斗はすっかり機嫌を良くする。「だったら、結果を楽しみにしてろ。絶対うまくいく」......一方で、紗雪はネット上の議論が、哲学や社会問題にまで発展しているのを見て、さすがに落ち着いてはいられなくなっていた。
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第1474話

「確かに。そうだ、それならちょうど、君が興味を持ちそうなものがある」そう言って、京弥は一つの書類袋を紗雪に差し出した。紗雪は不思議そうに受け取り、中を開く。するとそこには、緒莉とある男の写真が何枚も入っていた。食事をしている場面、親しげに会話している様子――さらには、二人がホテルへ出入りしている写真まである。「......これ、どこから手に入れたの?」紗雪は驚きを隠せなかった。まさか京弥が、ここまでプライベートな情報を掴んでいるとは思わなかったのだ。京弥は少し得意げに顎を上げる。「一人や二人の身辺調査くらい、簡単なものさ。俺に調べられないとでも思った?これくらい把握できなきゃ、椎名グループの社長なんて務まらない」その言葉を聞き、紗雪は思わず笑みを零し、そのまま京弥の頬に軽くキスを落とした。「ありがとう。録音まであるなんて、まさに渡りに船だよ」すると京弥は、わざと不満そうな顔をする。「さっき、『一人で何とかして見せる』って言ってなかったか?」紗雪は少し気まずそうに頭を掻いた。「だって、あんまりあなたに迷惑かけたくなかったし......それに、犯人の目星自体はもうついてたから......でも、これのおかげで、私の推測が間違ってなかったって完全に証明できた」京弥は再び問いかける。「で、これからどうする?やっぱり手伝おうか」彼は本気でそう思っていた。紗雪がいつも一人で戦っている姿を見るたびに、力になりたかったのだ。だから何度も申し出ている。だが案の定、今回も紗雪は自然に首を横へ振った。「本当に大丈夫。もうこれだけ証拠が揃ってるんだから、後は私一人でできる」彼女は書類を見つめながら整理するように言葉を続ける。「まずは、これを持ってあの人に直接話しに行くつもり。だって、あの人にとって、緒莉は『一番の自慢の娘』だもの。まさかここまで徹底的に私を潰しに来るなんて、きっと彼女も思わなかった」紗雪は録音データを軽く叩いた。「この録音だけでも、『SNSで工作する』って話をしてるのは分かる。それに加えて、ネット上の流れや、二人の会話内容を合わせれば――今回の件が緒莉の仕業だって、十分証明できるはず」その冷静で筋道立った分析を聞きながら、京弥はどこか安心したように微笑む。
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第1475話

前回は運よく切り抜けられた。――でも、今回は?何だかんだ言っても、紗雪は母親と長い時間を共にしてきた。だから美月がどんな人間なのか、彼女自身が一番よく分かっている。父親は早くに亡くなった。それ以来、美月はずっと金に執着し、子どもたちに対しても気が向いた時だけ世話を焼くような人だった。そして何より、いつだって緒莉ばかりを贔屓してきた。紗雪には、それ以外の言葉では表せなかった。しかも清那ですら、「最近のおばさんは少し変わった」と言っていた。今では清那も気軽に二川家へ遊びに来なくなり、用事がある時は、いつも紗雪の方から会いに行っている。そんな話を聞き、京弥もそれ以上無理に同行を申し出ることはしなかった。紗雪には紗雪なりの考えがある。彼もそれを理解していたからだ。だから無理に押し通すつもりはなかった。「何かあったらすぐ俺に言ってくれ」京弥は真っ直ぐ彼女を見つめる。「俺はずっと紗雪の味方だ。だから何でも一人で抱え込まないでほしい。俺は君の支えになりたいんだ」その真摯な眼差しに、紗雪の胸はじんわり熱くなる。彼女は小さく頷いた。「うん。ありがとう、京弥。安心して、もし何かあったら絶対に頼るから」「ああ」京弥は少し安心したように息を吐く。「で、いつ二川家へ行くつもりなんだ?」そう聞かれ、紗雪は少し考え込んだ。だが彼女の中では、番組が始まる前に一度二川家へ行かなければならない、という思いが強くなっていた。そうしなければ、心が落ち着かない。「明日かな」彼女は自分の考えをそのまま京弥へ伝える。「これ以上引き延ばしにはしたくないから」京弥も、それが正しい判断だと思った。「送って行こうか?」だが紗雪は首を横に振る。「そこまではいいよ。あなたにも仕事があるし、私のことで負担をかけたくないから」その言葉を聞いた瞬間、京弥の表情が曇った。「紗雪は一度だって俺の負担になったことなんてないよ」彼は真剣な顔で言い切る。その瞳には、欠片ほどの誤魔化しもなかった。京弥は知っている。紗雪が、人に迷惑をかけることを極端に嫌う性格だということを。だからこそ、何度でもこうして言葉にする。彼女に遠慮してほしくなかった。二人は夫婦なのだから。本来なら、何
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第1476話

「わかった」京弥はそれ以上食い下がることはなかった。......翌日。紗雪は何も知らせず、二川家へ向かった。ネット上で広まっている騒動や緒莉の一連の出来事を知った母親が、いったいどちらの側に立つのか――それがどうしても気になっていた。今や証拠はすべて目の前に突きつけられている。それでも母親は、まだ言い逃れを続けるのだろうか。彼女はずっと思っていた。母親は緒莉のしたことを認めようとしない。いつも緒莉をかばい、隠そうとする。だが、ここまで事実が明らかになってしまえば、どれだけ取り繕ったところで意味などないはずだ。時には不思議に思うことさえあった。母親はどうして、そこまで隠し通そうとするのだろう。あるいは、なぜ緒莉にだけあれほど優しくできるのだろうか。自分は母親の実の娘ではないのだろうか。どうして同じ子どもを持つ母親なのに、ここまで露骨に差をつけられるのだろう。もし最初からそうするつもりだったのなら、なぜ自分まで産んだのか。緒莉一人だけで十分だったはずだ。そんな疑問に、あの夢の中でも答えは見つからなかった。そして今もなお、彼女には理解できない。母親は自分と緒莉を、いったいどんな気持ちで見ているのだろう。なぜそこまで扱いを変える必要があるのだろうか。以前の紗雪なら、その答えを何よりも知りたかった。――けれど今は違う。どうせ答えが得られないのなら、胸の奥にしまっておけばいい。自分はただ、一歩ずつ着実に前へ進めばいいのだから。二川家の庭へ足を踏み入れると、最初に彼女の姿を見つけたのは伊藤だった。彼は驚きと喜びの入り混じった声で言った。「紗雪様?どうして......」伊藤の顔を見た瞬間、紗雪も自然と嬉しくなった。だが、その言葉には少し返答に困った。いつの間にか、長いこと帰ってこなかった娘に対して、執事がこんなふうに尋ねるようになってしまったのか。それでも彼女は穏やかに答えた。「少し用事があって来たの」伊藤にはおおよその察しがついていた。きっとネット上の騒動を見て、紗雪は急いで駆けつけたのだろう。そんな彼女を見ていると、胸の奥が締めつけられるように痛んだ。今や美月ですら彼女の味方ではない。完全に緒莉の肩を持っている。言ってし
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第1477話

それ以外には、彼のことを気にかけてくれる人など誰もいないように思えた。だからこそ、その一言で、失われていた居場所の温もりが一気に胸へ戻ってきたのだ。伊藤は目に涙を浮かべながら紗雪を見つめ、声を震わせた。「いえ......何でもありません、本当に」だが、その姿のどこをどう見ても「何でもない」には見えなかった。紗雪は胸の奥に違和感を覚える。「本当に大丈夫?どこか具合でも悪いんじゃ......」彼女は心配そうに続けた。「もう若くないんだから、ちゃんと定期検診を受けないと駄目だよ。もし忙しくて行けないなら、私に電話して。病院へ行くのを付き合うから」そう言いながらスマホを取り出し、真面目な顔で尋ねた。「伊藤さん、私の電話番号は持ってる?」「はい、ありますとも......」伊藤の声は次第に小さくなり、やがて耐えきれなくなったように顔を覆った。指の隙間から涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。その様子を見て、紗雪もようやく異変を確信した。彼女は一歩近づき、伊藤の背中を支えながら優しく声をかける。すると伊藤は彼女の手をぎゅっと握り、小声で囁いた。「紗雪様......どうか緒莉には気をつけてください。あの方は単純な者ではありません」その言葉を聞いた瞬間、紗雪の胸がどくりと鳴った。長年の苦労が刻まれた伊藤の目を見つめ、彼女はようやく悟る。きっとこの間、伊藤自身も決して楽な日々を送っていなかったのだ。先ほど彼が何か言いたそうにしながら躊躇していたのも、緒莉によって口を封じられていたからなのだろう。やはり緒莉は侮れない。紗雪の瞳がかすかに揺れた。だが最後には静かに頷く。「言いたいことはわかってる。大丈夫よ。自分のことはちゃんと守るから」結局、伊藤はそれ以上何も言わなかった。このことを絶対に口外しないでほしい、と念押しすることもなかった。彼はよく分かっていたからだ。紗雪は決して自分を売るような子ではない。彼女は本当に優しい子なのだ。そして彼の予想通り、紗雪にもこの話を誰かに漏らすつもりはなかった。彼女には彼女なりの考えがある。伊藤ですら緒莉の異常さに気づいている。それなのに母親がまだ気づいていないのだとしたら、それは見抜けないのではなく、認めたくないだけだ。緒莉が
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第1478話

彼女たちの都合のいいように搾り取られ、骨の髄まで利用されるために帰ってくるとでもいうのだろうか。ここまで散々傷つけられ、踏みにじられておきながら、それでも敵味方の区別もつかないようなら、本当に救いようのない愚か者だ。緒莉は、まさか紗雪がこのタイミングで帰ってくるとは思っていなかった。胸の奥に不安がよぎる。もしかして、ネット上の件の黒幕が誰なのか、もう気づいてしまったのか。一瞬緊張したものの、次の瞬間には落ち着きを取り戻した。紗雪は、自分と栄斗に接点があることを知らない。たとえ調査が栄斗のところまで及んだとしても、自分には直接関係ない。その時は栄斗をスケープゴートにしてしまえばいいだけだ。自分だけはきれいに責任から逃れられる。そうなれば美月の中で築いてきたイメージも崩れない。まさに一石二鳥だ。そう考えた緒莉は顔を上げ、笑みを浮かべながら声をかけた。「帰ってくるなら一言くらい連絡してくれてもよかったのに」「どうして?自分の家に帰るのに、いちいち報告が必要なの?」紗雪はわずかに語気を上げた。緒莉の言葉が妙におかしく聞こえたからだ。その一言に、緒莉の表情が僅かにこわばる。だが彼女はすぐに取り繕った。「そうじゃなくて......どうしていつもそんなふうに悪く受け取るの?」「じゃあ、どういう意味だったの?」紗雪は鼻で笑った。「そういう意味にしか聞こえないけど」緒莉は気まずそうに口元を引きつらせた後、美月へ視線を向けた。そして少し不満そうな声を出す。「お母さん......私はただ、紗雪が帰ってくるなら前もって分かれば、好きな料理を作ってもらえると思っただけなの。だって、こんなに長い間帰ってきていなかったんだもの。せっかく帰ってくるなら、好きなものを食べさせてあげたいじゃない」その言葉を聞き、美月ももっともだと思った。やはり紗雪が善意を悪意に受け取っているだけだ、と。美月は非難するような視線を向ける。「聞いたでしょう?緒莉は親切で言っただけなのよ。どうして何でも悪く受け取るの?」そのやり取りを聞きながら、伊藤は眉をひそめた。どうして美月は最近、善悪も事情も確かめずに紗雪を責めるのだろう。せっかく帰ってきたのだから、皆で穏やかに食事をするだけでは駄目なのか。
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第1479話

すると緒莉は紗雪を睨みつけた。「紗雪、どういうつもりなの?せっかく帰ってきたのに、お母さんにそんなきつい言い方をしなきゃ気が済まないの?あなたが家にいない間、お母さんがどれだけあなたのことを気にかけていたか分かってる?いつもあなたの話をしていたのよ」紗雪は眉をわずかに上げた。「そう?じゃあ、本当に私のことを気にかけていたのだとして、それでもこんな態度を取るなら――私は逆に、その間で何か吹き込んでいた人がいるんじゃないかって疑いたくなるけど」「それ、どういう意味?」紗雪は緒莉には答えず、そのまま美月へ視線を向けた。「まだ気づいていないの?私たちが言い争う時って、いつも緒莉が途中で口を挟んでくるのを。もし彼女が横から煽ったりしなかったら、私たちはこんなに頻繁に喧嘩していたと思う?」美月は思わず考え込みかけた。だがその瞬間、緒莉が鋭い声で遮った。「紗雪!」彼女は目に涙を浮かべながら紗雪を見つめる。「紗雪の中の私って、そんな卑劣な人間なの?」「......」その姿を見て、紗雪は呆れると同時に妙な既視感を覚えた。またこのパターンだ。彼女は本当に飽きないのだろうか。結局いつも同じ言葉を繰り返すだけ。そう思った紗雪は、うんざりした様子で髪をかき上げた。「そのセリフが聞き覚えあると思わない?」緒莉は眉をひそめた。「どういう意味?」「そのままの意味よ」紗雪は冷ややかに言った。「毎回毎回、同じことばかり繰り返してるじゃない。自分で言っていて嫌にならないの?」そう言うと、彼女は一歩前へ踏み出した。美月と緒莉との距離が縮まる。だが、その鋭い視線は緒莉だけを真っ直ぐに射抜いていた。「結局、言うことはいつも同じ。何一つ変わろうともしない。正直、見ていて退屈よ。それどころか、本当に滑稽な人だなと思ってしまう」紗雪の眼差しは鋭く、冷たかった。まるで森の奥で獲物を狙う狼のように。その視線を向けられるだけで、背筋に寒気が走るほどだった。美月でさえ思わず驚いた。いつから紗雪は、こんな圧倒的な存在感を放つようになったのだろう。以前、会社で働いていた頃には、ここまでの迫力を見せたことはなかった。やはり京弥の傍にいたこの期間で、多くのことを学んだのだろうか。美月は内心
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第1480話

紗雪は本気で滑稽だと思った。「嘘を並べ立てる才能だけは、本当に大したものね。私の負けでいいよ」「私は......」緒莉は紗雪に言い返され、一瞬言葉を失った。反論しようにも言葉が喉に詰まり、何も出てこない。美月は二人を見比べながら、頭痛を覚えた。どうして自分の娘たちは、こんな関係になってしまったのだろう。顔を合わせれば必ずぶつかり合う。まるで敵同士のようだ。そう思うと胸が苦しくなる。美月の理想では、二人の娘は仲良く支え合う存在だった。一人は外で活躍し、一人は家を支え、ともに二川グループをさらに大きく発展させていく。本来はそうあるはずだった。だが現実はまるで違う。二人は自分の思い描いていた姿とは正反対だった。会えば言い争いばかり。しかも表に見えている対立だけでなく、水面下で何かしているのではないかとさえ思えてくる。そこまで考えた美月は、これ以上この話を続けるのをやめた。彼女は話題を変えるように紗雪へ向き直った。「そんなことより、今日は何をしに帰ってきた?」京弥も一緒ではなく、帰ってきたのは紗雪一人だけ。そこがどうにも気になっていた。その言葉を聞いて、紗雪はさらに可笑しくなった。まさか実の母親まで、緒莉と同じことを聞いてくるとは思わなかった。たとえ結婚したとしても、この家はもう自分の家ではないということなのだろうか。「理由がないとダメ?」紗雪は真っ直ぐに問い返した。「用事がなかったら、この家に帰ってきちゃいけないの?」その視線を真正面から受け、美月は何とも言えない居心地の悪さを覚えた。「そういう意味じゃないわ。あなたはもう結婚したんだから、帰ってくるなら前もって言っておいた方がいいと思っただけよ」そう言ってから、美月は緒莉を見た。「緒莉の言う通りよ。事前に知らせてくれれば、あなたの好きな料理を作らせて歓迎できるでしょう?」その言葉を聞いた瞬間、紗雪は心の中で盛大に白けた。美月のような、自分の利益しか考えない人間と話すのは時間の無駄だ。彼女がどんな人間なのか、紗雪は嫌というほど知っている。だからこそ分かる。その言葉が自分のためであるはずがない。歓迎するだの、好きな料理を用意するだの――そんなものは聞こえのいい建前に過ぎない。
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