紗雪は、外出中に会社で何か不愉快なことが起きるのを望んでいなかった。緒莉が何か新たな動きを見せれば、彼女もすぐに把握しておく必要がある。何しろ、今や緒莉の野心は誰の目にも明らかだった。秘書ももちろん紗雪の意図を理解しており、力強く保証した。「会長、安心してお出かけください」「ご自宅の方は、私がしっかり守りますから。絶対に何の問題も起きません」そう言いながら、秘書は真面目な表情でお辞儀までしてみせた。その様子が可笑しくて、紗雪はつい笑ってしまった。「もう、ふざけないで。遠出するわけじゃないし、午後には戻るから」そう言い残し、紗雪は残りの仕事を指示してから外出する準備を整えた。会社には信頼できる秘書がいるので、安心して任せられる。昼食を終えると、紗雪はプロジェクトの資料を持って椎名グループへと向かった。目の前にそびえ立つ高層ビルを見上げながら、彼女は何度も感慨に耽った。いつか、二川グループもこの椎名グループのように成長させることができたら、と。その思いがいつ実現するかはわからないが、紗雪はその道を歩き続けていた。きっとできる。そう信じて疑わなかった。椎名グループのビルに入り、受付の女性が紗雪の姿を見つけた瞬間、すぐに彼女の身元を認識し、丁寧に声をかけてきた。「二川さんですね。お仕事のご報告でしょうか?」受付の女性の明るく温かな笑顔に、紗雪は少し驚いたが、すぐに気を取り直して頷いた。「はい。待つ場所はどちらに?」「以前と同じように、そのままエレベーターで上がっていただければ大丈夫です」礼を言った後、紗雪は手慣れた様子でエレベーターに乗り込み、馴染みのあるフロアへと向かった。そこで、彼女は一人の見覚えのある人影を見かけたが、特に気に留めなかった。また京弥が仕事の話で来ているのだろうと、深く考えなかった。だが、以前、椎名グループでの京弥の態度をふと思い出し、心の奥で少し引っかかるものを感じた。とはいえ、証拠があるわけではないので、何かを確かめることもできない。紗雪は首を軽く振り、そのことは深く考えないことにした。会議室に入り、彼女は椎名グループのプロジェクト責任者に最新の進捗を報告した。話を聞き終えた責任者は、思わず舌を巻き、その目には賞賛の色が滲んでいた。「ま
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