そうでなければ、あんなに落ち着いていられるはずがない。だが、紗雪がどれだけ頭を絞っても、緒莉の交友関係についてはほとんど何も分からない。まるで空白のようだ。しばらくもがいてみたものの、紗雪は結局あきらめた。もういい、この通路が今回は自分をどの時代へ送ろうとしているのか、見てみよう。これだけ長い間、自分が何を体験しているのかも、ここに来た目的も分からないままだ。ただ一つ分かっているのは、自分はあくまで傍観者であり、それ以上のことは何もできないということ。それどころか、時には記憶さえも乱れてしまう。そう考えると、紗雪は少し気が滅入った。自分はここに来て、ただ別の視点から同じ出来事をなぞるだけなのだろうか?しかし今回は、いくら待っても通路は彼女を降ろそうとしなかった。それどころか、時間は少しずつ前へと流れ続けていく。紗雪は、まさに「純然たる傍観者」として、自分の一生を目の当たりにすることになった。誕生から、今入院している時点まで。生まれたばかりの頃、彼女はまだ赤ん坊で、美月に抱かれ、大事そうにあやされていた。そして美月の口ではすでに亡くなったことになっていた父・有佑(ゆうすけ)が、そばで二人の母娘を優しく見守っていた。本来なら、とても温かく愛にあふれた光景のはずだった。だが紗雪は、その中に異質なものを敏感に感じ取った。美月は彼女を抱いている時の表情こそ穏やかだったが、有佑に向ける顔にはどこか苛立ちが浮かんでいたのだ。まるで自分の夫に対する態度とは思えないような表情だった。これを見た紗雪は、ますます混乱する。これは一体どういうこと?二人はずっと仲が良かったのではないのか?確かに美月は家で父のことをほとんど口にしなかったが、緒莉と自分の前で父を悪く言ったことは一度もなかった。そのおかげで、紗雪の父への印象はむしろ良かったほどだ。だが今となっては、じわじわと不穏な考えが頭をよぎる。なぜ美月はあんな表情をしていたのか。それも、有佑がずっとそばで彼女を気遣っていたのを自分は見ていたというのに。だから......紗雪は唇を固く結び、顔色を曇らせる。それでも時間は止まらない。紗雪の疑問などお構いなしに、前へ前へと進んでいく。この点について、彼女はどうにも納得がいか
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