All Chapters of クズ男と初恋を成就させた二川さん、まさか他の男と電撃結婚!: Chapter 711 - Chapter 714

714 Chapters

第711話

彼女たちは、一体どんな関係なんだろうか。紗雪はずっと気になっていた。あんなに若い緒莉に、どんな魅力があって、大物にまであれこれさせるのか。ましてや、あの頃の緒莉は、どう言ったってお嬢様育ちの令嬢だったのに。本当に権勢のために、あの男に媚びるなんてことができるのだろうか。そう考えると、紗雪の胸はどうしてもざらついた気持ちになった。けれど、それも所詮は推測に過ぎない。具体的なことは、やっぱり具体的に確かめて、分析しなければならない。この嫌な場所から抜け出したら、その時にもう一度きちんと見極めよう。学校の中をゆっくり見て回ろうと歩き出したとき、若い清那の心配そうな声が耳に届いた。「紗雪、本当に今帰って大丈夫なの?」若い紗雪は少し迷う顔をしたが、それでもしっかりと頷いた。「うん」何と言っても、相手は自分の母親だ。母親が子どもを愛さないはずがない。美月だってそうに決まっている。きつい言葉を口にしたとしても、それはきっと愛しているからだ。そう思うと、紗雪の気持ちはいっそう固まった。彼女のその決意を見て、若い清那はもう何も言えなくなった。「わかった。紗雪が何をしても、私はずっと後ろで支えてるから」清那は真剣な顔で続ける。「紗雪、忘れないで。親友同士っていうのは、何でも打ち明け合うもの。私はずっとあんたの味方。誰が何を言っても、同じ側に立つから」その言葉に、若い紗雪は胸を打たれ、静かに頷いた。そして彼女をぎゅっと抱きしめ、心の底から安心を覚えた。清那の心配を分からないわけではない。けれど、紗雪も理解していた。こんなこと、逃げたって解決できるはずがない。そんなのはただの自己欺瞞だ。結局のところ、紗雪が「扱いやすい」と思われるだけなのだ。若い清那は、去っていく若い紗雪の背中を見つめながら、怒りを隠しきれない顔をしていた。拳を固く握りしめ、その表情にははっきりとした怒気が浮かんでいる。だが、紗雪と比べると、清那の方がずっと気性の激しい子に見えてしまう。その様子に、紗雪は逆に不思議に思った。どうして清那はこんなに怒っているのだろう。この一年の間に、何か別のことがあったのだろうか。自分にはまったく心当たりがない。考えれば考えるほど、紗雪は必死に思
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第712話

美月は、緒莉に対してはどんなことでも自分で手を下し、一切迷うことがなかった。紗雪が帰りたくないと思っていた理由も、結局はそんな母親の姿を見たくなかったからだ。それに、美月と紗雪の間には以前から少し衝突もあった。だから必要がなければ、緒莉だってあまり家に戻りたくはなかったのだ。けれど、一度帰ってしまえばもう後戻りはできない。そのことを、紗雪は誰よりも冷静に理解していた。だからこそ、彼女は家に帰りたくなかった。あの作り物めいた顔も、美月が緒莉に向けるあの優しい眼差しも、全部見たくなかった。それらは紗雪にとって、胸を突き刺す刃のようなものだった。けれど、今の彼女にはどうすることもできない。そして帰宅した紗雪が目にしたのは、ソファに並んで座る美月と緒莉の姿だった。やっぱり、想像していた通りだ。一つも外れていなかった。二人は身を寄せ合い、まるで隙間など一切ないようにぴったりと座っている。馬鹿でなければ、その光景を見ただけで二人の親密さが分かるほどだった。若い紗雪は一瞬固まったが、すぐに階段を上がろうとした。無駄にここで時間を過ごすつもりはなかったからだ。しかし緒莉が引き止めるように声をかけてきた。「私とお母さんがここにいるのに、挨拶もしないの?」その言葉に、若い紗雪は足を止め、返す言葉を失った。けれど、その様子を紗雪は横でしっかりと見ていた。彼女の拳がわずかに握られ、心の中で必死に葛藤しているのが伝わってきた。その光景に、紗雪は胸が痛んだ。特に、緒莉の目の奥に浮かぶ挑発の色が、余計に痛々しく映った。あの頃の自分は、すでにこんなにも不公平な扱いを受けていたのか。では、その頃の自分はどうやって過ごしていたのだろう。母と緒莉の顔色をうかがいながら、ただ耐えていたのか。あの時はもう父親もいなかった。自分ひとりで、どうやって生き抜いてきたのか。そう思うと、紗雪は過去の自分が不憫で仕方なくなった。美月は最初、特に気にしてはいなかった。確かに、以前緒莉が病気のとき、紗雪のことをないがしろにしたことはあった。そのせいで、どう接していいのか分からなくなっていたのも事実だ。だから相手がただ黙っているだけなら、まだよかった。だが、緒莉にそう言われてしまうと、美月の
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第713話

それに、彼女が病気になったのだって、もともとは紗雪に刺激を受けたからで、病状が悪化したのもそのせいだった。本来なら、ただ身体が弱くて、病院で療養しているだけだった。母の付き添いもあり、大勢の看護師や医師に見守られて、生活もそれなりに安らかだったはずなのに。ところが、ちょうどその時、美月が病院にいる最中に、紗雪の担任から電話がかかってきた。最近の学校での様子や、新しく国際的な賞を受賞したことを伝えられ、保護者同伴で授賞式に出席してほしい、と言われたのだ。美月の顔に浮かんだ迷いを、緒莉は敏感に察した。その瞬間、胸の奥がひどくざわついた。どうして。紗雪は健康な体を持っているだけじゃなく、頭までよく回る。今まで気づかなかったけれど、あの子、こんなにしたたかな一面を隠していたなんて。自分が入院しているのを知っていて、だからこそこの機会に母の心を取り戻そうとしたんだ......そう思うと、緒莉はますます紗雪が気に入らなくなった。感情を抑えきれず、ついには病状まで悪化させてしまったのだ。その様子を見て、美月は迷わず緒莉を選んだ。紗雪の先生からの依頼をきっぱり断ってしまった。緒莉の瞳に、勝ち誇ったような色がよぎる。やっぱり。自分に何かあれば、母は必ず迷いなく自分を選ぶ。それだけは、疑う余地もなかった。幼い頃からずっと分かっていた。母は自分を特別に可愛がっている。だからこそ、緒莉は強気でいられた。母は最後には必ず自分の味方になる――そう信じていたからだ。果たしてその通り、緒莉の容体が悪化すると、美月は慌てて駆け寄った。「これはどういうことに......!先生は?早く!早くうちの子を診てあげて!」母の叫び声に応じて、医師や看護師が一斉に駆け込んできた。誰もが首を傾げる。だって、緒莉の病状は快方に向かっていたはずなのに、なぜ急にこんなに悪化したのか。しかも、前よりもひどく見える。マスクをつけた医師が応急処置を施しながら、美月に尋ねた。「二川さん、娘さんの容体は先日まで安定していました。何があったんですか?」「別に、何もなかったはずですが......」美月は戸惑い、医師の言葉の意味が分からずにいた。「本当に?よく思い出してください。彼女はいま、ほんの些細な刺激
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第714話

医者はうなずいた。「ご安心ください。患者さんのために全力を尽くします」その言葉を聞いて、美月もまた小さくうなずき、それ以上は何も言わなかった。今の彼女の頭の中は、緒莉の病状のことでいっぱいで、他のことを考える余裕などない。紗雪の件については――どうせ賞を受け取るだけだ。これまでにも十分すぎるほど受賞してきたのだから、今回くらい気にする必要はない。美月にとって、やはり一番大事なのは「体のこと」だった。緒莉は、母がずっと自分のそばにいてくれるのを感じて、安心したように目を閉じた。これなら大丈夫。母が紗雪の方へ行く心配はない。あの子と、そのくだらない賞なんて放っておけばいい。美月にとっては、やはり健康の方が何より大切だった。しかも緒莉は元々体が弱い。だからこそ、人一倍の気配りと付き添いが必要なのだ。それを痛いほど分かっているからこそ、美月は紗雪の方に行くことはなかった。賞の件については、執事の伊藤を代わりに派遣するだけで済ませた。比べるまでもなく、母にとって本当に必要なのは緒莉の方だ。美月は迷うことなく、その選択をした。一方、紗雪。授賞の知らせを受けて、担任の先生が母に連絡してくれた時、彼女の心の奥にはほんのわずかな期待が芽生えていた。母が来てくれるかもしれない。会議室で、母を待つために立ち尽くす。先生が電話をかけた瞬間、顔に浮かんだ喜びと興奮。しかしそれは、時間が経つにつれて少しずつしぼんでいった。誰の目にも明らかだった。さっきまで天にも昇るようだった表情が、一気に沈んでいく。紗雪は、問いかけるまでもなく理解した。母は、やはり先生の頼みを断ったのだ。だからこそ先生は、あんな表情をしている。きっと、母は緒莉のそばにいるのだろう。病気の彼女を置いて出て来るはずがない。紗雪も、それは分かっていた。緒莉が入院していることも、もちろん知っていた。それでも、先生を止めなかったのは――心のどこかで、ほんの少しだけ期待していたからだ。母が、自分を選んでくれるかもしれない、と。正直に言えば、紗雪はその一点に好奇心すら抱いていた。だが、待ち続ける時間の中で、彼女の脳裏には別の光景がよぎる。以前、母が自分の部屋に来て、そっと布団をかけ直し
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