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第713話

Author: レイシ大好き
それに、彼女が病気になったのだって、もともとは紗雪に刺激を受けたからで、病状が悪化したのもそのせいだった。

本来なら、ただ身体が弱くて、病院で療養しているだけだった。

母の付き添いもあり、大勢の看護師や医師に見守られて、生活もそれなりに安らかだったはずなのに。

ところが、ちょうどその時、美月が病院にいる最中に、紗雪の担任から電話がかかってきた。

最近の学校での様子や、新しく国際的な賞を受賞したことを伝えられ、保護者同伴で授賞式に出席してほしい、と言われたのだ。

美月の顔に浮かんだ迷いを、緒莉は敏感に察した。

その瞬間、胸の奥がひどくざわついた。

どうして。

紗雪は健康な体を持っているだけじゃなく、頭までよく回る。

今まで気づかなかったけれど、あの子、こんなにしたたかな一面を隠していたなんて。

自分が入院しているのを知っていて、だからこそこの機会に母の心を取り戻そうとしたんだ......

そう思うと、緒莉はますます紗雪が気に入らなくなった。

感情を抑えきれず、ついには病状まで悪化させてしまったのだ。

その様子を見て、美月は迷わず緒莉を選んだ。

紗雪の先生からの依頼をきっぱり断ってしまった。

緒莉の瞳に、勝ち誇ったような色がよぎる。

やっぱり。自分に何かあれば、母は必ず迷いなく自分を選ぶ。

それだけは、疑う余地もなかった。

幼い頃からずっと分かっていた。

母は自分を特別に可愛がっている。

だからこそ、緒莉は強気でいられた。

母は最後には必ず自分の味方になる――

そう信じていたからだ。

果たしてその通り、緒莉の容体が悪化すると、美月は慌てて駆け寄った。

「これはどういうことに......!先生は?早く!早くうちの子を診てあげて!」

母の叫び声に応じて、医師や看護師が一斉に駆け込んできた。

誰もが首を傾げる。

だって、緒莉の病状は快方に向かっていたはずなのに、なぜ急にこんなに悪化したのか。

しかも、前よりもひどく見える。

マスクをつけた医師が応急処置を施しながら、美月に尋ねた。

「二川さん、娘さんの容体は先日まで安定していました。何があったんですか?」

「別に、何もなかったはずですが......」

美月は戸惑い、医師の言葉の意味が分からずにいた。

「本当に?よく思い出してください。彼女はいま、ほんの些細な刺激
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