吉岡はうなずき、了承の意を示した。紗雪がこれだけ闘志を見せているのだから、自分も遅れを取るわけにはいかない。彼は必ず紗雪の最も頼りになる補佐になり、足を引っ張るような存在にはならないと決めていた。吉岡の目標は、始めからはっきりしている。あの時、紗雪から多くを学んで以来、彼は決めていた。紗雪が会社を辞めない限り、自分はずっと彼女に付き従う、と。その後、吉岡は手際よく西山グループの最近のプロジェクト資料をすべて届けてきた。紗雪は手を振って、吉岡に下がっていいと合図する。だが実のところ、吉岡には納得できない点があった。紗雪があまりに真剣な顔をしているので、つい問いを口にする。今聞かなければ、もう機会はないかもしれない。こういうことはその場で確認すべきだ。「これらの資料は何に使うんですか?」食事に行く約束なのに、なぜ相手のプロジェクト資料を全部確認する必要があるのか――そこが吉岡にはどうしても理解できなかった。それに、夜の席には彼は同行できない。何せ両社のトップ同士の会食だからだ。紗雪は小さく笑った。「相手は元カレとはいえ、今は私の会社に手を出してきた人間よ。警戒するのは当然でしょ?彼の今の状況は把握しておかないと。でなきゃ、こちらも応戦できない」吉岡は聞いて納得した。確かにその通りで、先ほどまでは自分が甘く考えすぎていたのだと気づく。二人は十分知り合っているから、資料なんて不要だろう――そう思っていたのがそもそもの間違いだった。「そういうことでしたか。わかりました。夜の食事、本当に私が同行しなくて大丈夫ですか?」紗雪はまた軽く笑った。「大丈夫よ。吉岡も忙しいでしょうし。あっちの席は、私なら対処できるわ。一人でも十分」そう言うと、彼女は何かを思い出したように、瞳の奥に鋭い光を宿した。「それに、私はあの男をもう二度も刑務所送りにしてる。今さら怖がる理由なんてないわ」吉岡は、紗雪のその笑みを見て、内心ぞっとする。――やはり、女は恐ろしい。「そうですか。それでは失礼します」今度は、吉岡も迷わず部屋を後にした。自分がもう必要とされていないとわかったのなら、この場に残る意味はない。吉岡が出て行くのを見届けてから、紗雪は資料に目を通し始めた。こ
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