伊吹が「俺を足しても相手にはならない」と言ったのを聞いて、初芽は今度こそ本気で衝撃を受けた。相手が強いとは思っていたが、まさかここまでとは一度も考えたことがなかった。自分はずっと死の境目で跳ね回っていたようなものだ。これまで京弥を本気で怒らせなかったのは、ただの運にすぎない。もし少しでも踏み込んでいたら、今ごろ跡形もなく消されていたかもしれない。「本当に......?」分かってはいても、どうしても確認せずにはいられなかった。それに、なぜ紗雪という人間が、こんなにも運に恵まれているのか理解できなかった。まるで世の中の優秀な男たちが、こぞって彼女に心酔しているみたいだ。彼女は何もしていないのに、次から次へと人が命をかけて守ろうとする。そこまで思い至ると、初芽が納得できるはずもない。その表情を見て、伊吹には初芽の不満と諦めきれなさが手に取るように分かった。ここまで一緒に過ごしてきて、彼は彼女がどんな人間かをよく知っている。昔は自分を見失っていたが、今はまるで別人だ。自分に何が必要か、はっきり理解している。もし何かがその道を邪魔するなら、彼女は一瞬も迷わない。足を引っ張るものは、全部捨てて構わないと思っている。だからこそ伊吹には確信があった――初芽はもう鳴り城には残らない、と。その上で「一緒に鳴り城を出て、海外でやっていこう」と提案した。案の定、初芽は一応一日だけ考えるふりをしたものの、すぐにあっさり承諾した。説得なんて必要なかった。彼女自身がいちばんよく分かっていたからだ。海外と国内では、舞台がまったく違う。だったら、なぜわざわざここに留まる必要がある?将来のためにも、ここにしがみつく意味はない。「やっぱり先に加津也の方を断っておこう」初芽は鼻で笑い、決断のときだと理解した。加津也のことは、もう切り捨てるしかない。二川云々より、まずは自分自身が強くなることのほうが大事だ。地に足をつけてこそ、勝利の喜びを味わえる――この期間で得た答えだった。伊吹は彼女の頭を優しく撫で、「初芽は正しい判断をすると思ってた」と柔らかく言った。初芽もつられて微笑む。加津也のことなど、もう何ひとつ心残りはない。あのとき彼女を捨てたのは向こうだ。今さら何を埋
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