Semua Bab 水鏡の星詠: Bab 181 - Bab 182

182 Bab

ひと気なき傾斜の先に ⑪

 アリシアは、その言葉を聞いて胸につかえたものが取れたような感覚があった。ヴィクターを疑ってはいたが、その反面、信じたいという気持ちがあったのも事実だ。 ヴィクターが自らの意思で悪事に手を染めるような人間ではないことは、誰よりも理解している。 常に誰かの影に身を置き、必要とされれば動く。だが、それ以上のことを求められたとき、ヴィクターは一歩、身を引く男だった。度胸が無いとも言えるが、そこまでの悪人とは言えない。「利用された」──ヴィクターの言葉には妙な説得力があった。 てっきり、人が変わってしまったのかと思っていた。けれど、今こうして話すヴィクターには、かつての面影が確かに残っている。 祭りの日、リノアに取った行動に対しての、後悔している。という発言も、あながち嘘ではないだろう。「まったく……俺は必死で手伝ってたのにさ」 ヴィクターが口をつぐみ、森の冷えた空気を思い出すように目を細める。「リノアを探しているのは、俺だけだと思ってた。けど違ったんだ」 声には熱がこもり始めていた。押し殺していた悔しさが、言葉に染み出す。「きっとリノアの情報を引き出すために接触してきたんだろうな。リノアがどこに行ったのか、何をしに行ったのか。そんなこと訊かれても俺に分かるわけがねえよ。俺だってリノアを探してたのに……」 拳がゆるく握られる。それは怒りよりも、悔しさに近かった。「なのにさ。森の中で泥だらけになって、言われた通りに手伝って……。使えないと思った途端に、あっさり切り捨てやがってよ」 アリシアはヴィクターを黙ったまま見つめた。 ヴィクターは何かを失いながらも、誰かの役に立ちたいという一心で動いたのだ。 勇気を振り絞って踏み出した先で、知らず知らずのうちに誰かの思惑に絡め取られていた。それでも、ヴィクターは信じるものに向かって動いた。 そんなヴィクターを責め立てるわけにはいかない。 海風が吹き抜けるなか、場の空気はなお重たく沈んでいる。 そんな沈黙に、セラがそっと咳払いをひとつ落とす。「あの……探してたのって、本当に鉱石なんですか?」 セラの声は重く垂れ込めた空気に細い切れ目を入れるように慎重だった。「ああ、そうだと思うが……」 ヴィクターは沈黙の淵から視線を持ち上げ、セラを見る。 少し間を置いてから、セラが踏み込むように続けた。「
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-29
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ひと気なき傾斜の先に ⑫

 アリシアは風に髪をなびかせたまま、ゆっくりとヴィクターへと向き直る。 先ほどのヴィクターの言葉──「グレタ以外にも動いている」 それが何を意味するのか、ヴィクターの口ぶりからでは、まだ判断することができない。「さっき言ってたよね。グレタだけじゃないって。その人たちも探しているものは同じ?」 海鳴りを背にアリシアは真っすぐヴィクターを見据えた。 アリシアの言葉を受けたヴィクターは、記憶の断片を繋ぐように指を組む。「軍人でも商人でもないって話は、さっきもしたよな。奴らで気になったのは、妙に威圧的なところだ。グレタでさえ、逆らうことができない雰囲気があった。あいつらは“命令を受ける側”じゃなくて、“決める側”の人間だな」「じゃあ……グレタは、その人たちの命令で動いてる可能性があるってこと?」 ヴィクターは肯定も否定もせず、ただ、少しだけ首を傾けた。「もしかするとな。少なくとも立場は対等じゃない。心なしか、グレタが委縮してるように見えたしな」 アリシアは指先で潮風を払うように目元に触れ、考え込んだ。 グレタは操られているか、組織に属しているかのどちらか—— いずれにせよ、“本当の連中”はまだ姿を現していない。 その陰に潜む者たちは、一体、何を目的に動いているのか。「ヴィクター、前に酒場で会ったって言ってたよね。どんな人たちだったか、思い出せる?」 アリシアが問いかけた。 少ない情報から推測していくしかない。「黒い装束に……たしか喉元には刺繍があった。あと聞いたことのない言語を話してたな。グレタはなぜか理解できてたみたいだが……。あれは、この辺りの人間じゃない。異国から来た連中だ」」「その刺繍の模様は?」 セラが身を乗り出して訊いた、「星を重ねたような記号だった」 ヴィクターが記憶を手繰るように答えると、セラが思わず声をあげる。「星を重ねた刺繍……それって、もしかしてゾディア・ノヴァの印かもしれない」「ゾディア・ノヴァ? 何それ」 アリシアが言った。ヴィクターも首を傾げている。「昔、お父さんの書斎で見た記録の一頁に、その紋章が描かれてたの。アークセリアとは異なる。境界の外、干渉を禁じられた領域に属する者たち。その紋章を掲げる集団は、“形無き同盟”と呼ばれてる。みんなも知っていると思います」 一拍の静寂ののち、セラが口を開
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