先頭にクラウディアが歩き、他の者がそれに追随していく。「マルコさん、ノルヴェンの人たちと過去に何かあったの?」 ミラが訊いた。「特に何があったわけじゃないよ」「でも仲が悪かったんでしょ?」「いや、そこまで仲がこじれていたわけじゃない。過去に色々とね。お互いに困った時に、今日のように助け合えば良かったんだが……」 マルコは言葉を切り、視線を落とした。 風が谷の方から吹き上げてくる。 乾いた草が擦れ合い、ささやくような音を立てた。「それぞれが、自分たちのことしか考えてなかった。村のこと、家族のこと、仕事のこと……それぞれに事情があったのは分かる。誰も他の集落のことなんて気にしてなかったんだ」 マルコは遠くに見える山々を見つめた。 戦乱の最中、多くの集落がセリカ=ノクトゥムに襲撃を受けた。様々なところから立ち上る煙が、空を灰色に染めていたことを思い出す。 その煙のひとつひとつに、名前のある家があり、声のあった暮らしがあった。「助けを求めてきた集落もあったんだ……」 マルコの声は、風にかき消されそうなほど低かった。「だけどクローヴの者たちは耳を塞いだ。うちの村は関係がないってね。ここは山に守られてる。道も狭い。奴らがわざわざ来るはずがないと言って、助けに行かなかった」 ミラは歩みを緩め、マルコの横顔を見つめた。 マルコの言葉の奥に何かを抱えているのが分かった。それは怒りではなく、もっと深い、沈殿したもの──「でも、来たんだよ。あいつらは。セリカ=ノクトゥムが来たんだ」「誰も備えてなかった。誰も逃げ道を考えてなかった。鐘が鳴った時にはもう、手遅れだった……」 マルコは拳を握ったが、それは誰かを責めるためではなかった。あの瞬間に戻れないことへの悔しさが表れている。「俺たちは見捨てたんだ。他の集落を。あの時は見捨てられる側になるなんて、誰も思ってもいなかった」 言葉では届かないものが、マルコの背中に滲んでいる。それは、過去の選択が今も彼の中で燃え続けている証だった。「今日のように手を貸すことができたなら、もっと早く何かを変えることができたのかもしれない。でも、もう過去は戻らない。だからせめて、これからは……」 マルコは言葉を飲み込んだ。 その先にある願いは、まだ形になっていない。けれど、ミラにはそれが何か分かった。 道の先に
Last Updated : 2025-08-24 Read more