リノアとエレナは書棚に近づき、並べられた本を見つめた。 そこには、植物の名前、星の軌道、鉱石に関する研究ノートが整然と収められている。 シオンが何を探求し、どんな思索を巡らせていたのか。その痕跡が書斎の中でなお息づいている。 二人はページを捲ることなく、ただ目で追い、その奥に隠された秘密に胸の内で問いを投げかけた。 眺めていると、ふと書棚の奥がわずかに歪んでいることに気づいた。紋章のスケッチの裏側に不自然な隙間がある。 光の加減か、それとも何かが隠されているのか。 リノアは慎重に木の板を外した。 積もった埃がふわりと舞い上がり、空気にほのかな古い紙の香りが混じる。その奥には、丁寧に折り畳まれた手紙が隠されていた。「エレナ、見つけたよ」 リノアの声に、エレナの表情に緊張が走った。 まるで過去がそっと手招きしているかのように、エレナの視線が封に記された「シオンへ」の文字へと吸い寄せられていく。 差出人はラヴィナだった。「ラヴィナ……」 シオンが頼った人だ。 封に記された文字を見つめながら、リノアはゆっくりと息をついた。 シオンにとって、この手紙はどんな意味を持っていたのだろう。「エレナ、開けて良い?」 静寂が満ちた後、エレナはゆっくりと頷いた。 リノアが手紙を開き、紙が擦れる音が響く。 そこに綴られた言葉は、単なる情報ではなく、シオンへ向けられた、切実な願いだった。───────────────────────────────────────シオンへ あなたが話していた鉱石や種子について、少し分かったことがあります。 ヴェールライトの鍵は水鏡の湖。そこへ赴けば、星詠みの力が目覚めるかもしれません。龍の涙──破壊の力を秘めた種子生命の欠片──再生の光を宿す種子 この二つは古木の力と深く結びついており、自然の均衡を保つものです。それらは森の心そのもの。その心を開くには、星詠みの力が必要です。 名家の者たち、グリモナのグレタ、街の者たち、裏で糸を引く者── それぞれの欲望が渦巻き、動き始めています。街の者たちの欲望には十分に注意を払って下さい。彼らは鉱石を掘り、森を冒涜する者たちです。自然の怒りは、森を傷つける者に必ず向けられるでしょう。 戦乱で消えた者たちですが、彼らはまだどこかで生きているはずです。 森と家族
Last Updated : 2025-05-04 Read more