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50 Chapters

第十四話 湯豆腐と日本酒(その二)

 もう既に昼間も寒くなって、パーカーだけでは冷えが防ぎ切れない。風が吹くと耳まで凍えてしまいそうな気がした。こんなときこそ、イヤマフ付きのニット帽も被りたくなる。 (この寒さじゃあ……それに合わせてウィンドブレーカーを羽織る出番の時期になったかぁ) 薄い長袖の上に厚めのパーカー、その上に赤のウィンドブレーカー。作業用に履くズボンも、裏起毛が入ったヒートタイプの黒ズボンにした。今日は寒くないと良いなぁと思いつつ、いざ外へ出てみると……。 (うっ! 寒っ! これは冷える……) 強い風はまだ吹いてない。けれど、外の空気は想像通りひんやりと寒い。今日の天気予報では、雨が降らない薄暗い曇り空。これも冬の季節へ近づいた合図がしている気がする。周りに生い茂っている雑草の葉っぱも、ほぼベージュ色で纏う枯れ草だ。 (玄関内に、カイロが置いてあったはずだけど……あ、あった!) 玄関の靴箱の上にある箱からカイロを一つ取り出した。すぐにやって来る冬には欠かせないであろう。これさえあれば、多少の寒さがあっても我慢出来るし大丈夫だろうと思いたい。袋から中身を取り、シャカシャカと振ってウインドブレーカーのポケットにしまった。 (さて、今からいつものテーブルやチェアを……) 庭の収納庫から取り出し庭の真ん中へ設置する。その少し離れた場所に、焚き火用シートを敷いて焚き火台を置く。もちろん、今回も焚き火をするに決まっている。笠の開いた松ぼっくりや前回に残っている小さめの炭から新たに追加する大きめの炭を敷き詰めて……。それから、前に細かく割っておいた薪を山みたいに立てて並べていく。 (一応、
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第十四話 湯豆腐と日本酒(その三)

 ——冬を迎える前のひとり鍋に、乾杯! (まずは、主役の豆腐をすくってと……) 豆腐一つをお玉で鍋からすくい、箸で水菜とネギを取り出す。温まっているとはいえど、口の中へ入れるときの豆腐の中は熱い。それに私は猫舌だから、熱い状態ですぐに食べるのが少し苦手だ。ひと口で食べられるサイズを箸で割り、フーフーと少し冷ましながら口の中へ運ぶ。 「ハフッ、ハフッ! 熱っ!」 (やっぱり、まだ中はちょっと熱いのが……。けど、美味しい) 絹豆腐は湯豆腐にすると、より柔らかな感じのイメージある。けれど、コシが残っていて尚且つ滑らかさも持っている。ポン酢に含まれる柚子の風味と酸味、昆布のホッとする優しい出汁が豆腐本来の味を横に添える感じだ。 (この出汁が手助けをしてくれるから、豆腐がより感じられるのかなぁ) けれど時にポン酢のタレは豆腐の中へ染み込み、味変するかのような変化も起きる。不思議な作用だなぁと、感心してしまう。豆腐をひと口食べ終えたら、熱燗が入った徳利をおちょこに入れ移し、チビっと味わう。 (う~ん、良い感じのまろやかさ!) 口当たりがお酒の尖りっ気もクセもない。ほんのり甘みが広がっている。それなのに、後味はスッキリさせてくれるものだ。 (湯煎して温めたのは正解だね) ストーブも大活躍してくれて、本当に一石二鳥だ。 (豆腐も良いけど、野菜も煮えているから食べてみようっと!) 私は先にポン酢に浸かっている水菜から取って
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ソラの欲しいもの(前編)

 ——十二月中頃。いつも仕事場として使っている部屋で、ネットサーフィンをしながら篭っている。それもそのはず、十二月に入ると私の住む山奥では、気温が極端に下がり雪も降り始めている。まだ完全に積もっているというわけではない。しかし、日が経つにつれて積もっていく日も増えていく。 (雪かきをしないといけなくなるけど、この寒さでは堪えちゃうなぁ) 庭でキャンプをするにも、耐寒機能のないタープやテントでは凍ってしまう。ストーブなどの暖房があっても尚厳しい地帯だ。つまり、冬用のものじゃないと食事をして過ごすことは疎か、ずっと外に居ることすら大変なことである。山奥の朝は、最低気温が二桁に近いマイナスの温度から始まる。日が天辺にあるお昼間でもマイナスの一桁台、暖かくても零度から超えたら良い方だ。こんな状態の外じゃあ、流石に凍え死んじゃう。あと大声では言えないけど、私は極度の寒さは苦手だ。 (ずっと外にいたら風邪を引いてしまいそう……) そんな理由もあって雪の降り積もっている間が、私の庭キャンプのお休み期間。しばらくは、家の暖房や炬燵で冬籠りをすることに……。外に出づらいしちょっと寂しいけど、クリスマスから年末年始に近づいたら、お休みに備えて仕事も忙しくなる。今年のクリスマスは、恭弥さんが当日に帰れそうにない。その代わり、先月末から今月初めに一度帰ってきた。早いけれど、ちょっとオシャレなレストランのフルコースやクリスマスケーキなどを食べて過ごしていた。それに年末年始は、彼と一緒にお正月を過ごすし初詣や旅行が楽しみだ。  ——さて、現在の話に戻そう。急ぎの仕事がないというのも相まって、前述の通り気晴らしに通販サイトを開いている。注文しているサイトは、いつもの大手通販サイトだ。何
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ソラの欲しいもの(後編)

 クリスマスの日まで、もう間もない日のお昼頃……。 ——ピンポーン! (ん? インターホンのチャイムが鳴っているではないか?) 「はい」 (珍しい……。今日、来客する予定は確かいないはずだけど……?) 私は画面越しから出てみることにした、ひとまず、来客が誰なのかを確かめるためだ。 「大地運送です」「あ、はい。少々お待ちください」 (あれ? 今日って、何か届く予定とかあったかな?) 疑問はまだ残るけど、とりあえず宅配便だった。わかったからには、外でずっと待たせるわけにもいかない。急いで部屋から出て、玄関の扉を開ける。 「こんにちは! 宅配の商品をお届けに参りました!」「は、はい! お疲れ様です」「ちょっと大きいものですが、すぐに荷物お持ちしますので待ってくださいね!」 その方はいつも来てくれるエリア担当の男性。中年のおじさんぐらいの年齢層で顔見知りだ。我が家では、大きな荷物が届くことは少ない。だが、今回は少し大きめダンボールの荷物を二つ抱えているではないか。 (おっと、これはちょっと大物だなぁ……その場凌ぎに玄関に置いてもらおう) 一つだと、女性でもそこそこ抱えられる範囲かもしれない。しかし、二つもあると少し大掛かりという印象だ。 「荷物……結構大きそうですね。どうぞ、こちらへ」「あぁ、すいません! 中の方へ失礼します」 そう思い、玄関の扉を開けたままにして、配達員を荷物の置き場所へ誘導した。&n
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第十六話 新・タープと残り冬のホワイトシチュー(その一)

 ——三月下旬の残り冬。今年もまた、春を迎え始めようとしてる。 雪はまだ所々で少し残っている。それでも、二月まで山ほど積もっていたときと比べたらほとんど溶けていた。読者の皆さんとこうして出会うのは、久しぶりな気がする。冬の間、庭キャンプはお休みして部屋にある炬燵の中で暖まっていた。 (だって、炬燵の中に温もりと睡眠の誘惑が……) でもその期間を終わりにしてそろそろ、今日から再開しようと思う。山奥の冬の朝と夜、寒さが残っては消える。お昼間にはようやく和らいでくれた。ただ天気次第では、三月でも雪が降ったりすることもある。だけどその雪は積もることなく一日経てば、すぐに溶けて水となって元通りの姿。 そして……。 「おぉ! 空、今日はすげぇ良い天気だぞ!」 彼の掛け声から朝が始まった。 ——今日から、夜鷹家の庭キャンプご飯がまた新たに始まるのである。  ◇ ◆ ◇ カーテンを開けて威勢のいい声をしているのは、私の旦那さんである恭弥さん。実は三月下旬から末日まで、仕事のお休みを取っている。 「うぅ~ん……むにゃぁ……」「空、起きろー!」「まだ、眠ぅいょ……」 彼に起こされるも、私にとっては「春眠、暁覚えず」といったこの頃。目が覚めているような……でもまだ寝ているようなと、あやふやな境界線にいる感じだ。特にカーテンを開けた日差しが、より暖かく差し込んでいる。その温もりのせいで、より心地のいい眠りを誘われて再び微睡に入りそうだ。 「……せっかく良い天気だしさぁ、
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第十六話 新・タープと残り冬のホワイトシチュー(その二)

(さて、恭弥さんは必要な道具を全部、出してくれたかなぁ?) 玄関から外へ出て、右側の端っこ付近にある収納庫へ向かった。すると、恭弥さんが既にタープを広げているではないか。そのタープは前回、クリスマスの時期に届いたあのヘキサタープだ。しかも彼はポールを一本にするため、分解されているのを組み立ててまで行なっている。 「あれ? もう広げちゃったの?」「ん? あぁ、広げないとタープの端につけるロープを取り付けられないからさ。あとどれぐらいの広さかも知りたいし」 今日初めて使う新品のタープだから、ロープの取り付けも全て一からやらないといけない。 (あっ、そういうことかぁ……なるほど) パソコンに例えてしまうが、初期設定みたいなものだ。すなわち最初からある程度まで用意しておけば、後々楽に立てられる。幕の端についている輪っかは、六角形の角の数だから全部で六つ。ロープで通し、ペグなどで引っ掛けるところだ。他にも前後それぞれ金属の留め具みたいな穴の空いている部分がある。そこにはポールを立てて、布製の輪っかを通した紐はペグに引っ掛けて固定するものだ。通称「スタンダード」と呼ばれる立て方で、今回はそれに挑戦する。 まず、広げたタープの幕にポールの金属が見える部分のみで前と後ろそれぞれ穴を通して一旦、直線上に寝かす。 (最後に立てるためなのかな……?) 次にポール穴がある箇所の布製輪っかにロープを通していく。寝かしていたポールから左右に大体四十五度ぐらいの斜め位置に二辺作りつつ、ポールの端に合わせてペグで位置を仮止めで打つ。 「空、この辺で軽く打って」「ここ、だね」 私はペグを地面に
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第十六話 新・タープと残り冬のホワイトシチュー(その三)

 焚き火の火が安定してきた頃。いよいよ、カセットコンロでシチューを作る準備だ。ちなみに我が家の使用しているダッチオーブンは直火、IHでも両方使える。オリーブオイルでダッチオーブンの鍋の底を馴染ませ、コンロの五徳に乗せる。 ——カチャンッ! ボッ! ツマミを全開に回し、火を付けた。ここからは、いつも家で作る感覚で手順を踏まえる。 (鍋が温まったところで、まずは鶏肉から炒めよう) 炒めているうちに鶏肉の透明感のあるピンク色から変わり、少し狐色の焼き目がついてくる。 「おぉ、良い色ついてるなぁ~」 恭弥さんが匂いを嗅ぎつつ、時折覗き見をしている。しかし、彼に料理をしている姿を見せていない。そのせいで、近づけてくるほど緊張してしまう。 (今は意識しない……! 次はキッチンで切った野菜を……) 火の通りにくい人参、玉ねぎを先に投入して木製のヘラで回し炒める。 (玉ねぎはあらかじめ切った後でもまだ引っ付いているから、先に剥がしておいて正解だ) ここで皆さんに豆知識だが、このことはご存知だろうか?玉ねぎを食べている白い部分は、実はキャベツやレタスと同じく葉っぱであるということだ。ちょっと恥ずかしながら、私も最近知った知識だ。 (野菜の知識は、私でも知らないことが色々ありそうだし勉強しなくっちゃ!) 玉ねぎが半透明になったところで、ジャガイモを入れて軽く炒める。ここから煮込みタイムへ入ろう。水を具材が浸かる程度まで注ぎ、コンソメとローリエを加え蓋を閉める。少し弱めの中火にして十五分ほど、タイマーをスマホで設定
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第十六話 新・タープと残り冬のホワイトシチュー(その四)

 ——ピピッ、ピピッ! スマホのタイマーが鳴り響いた。十五分の煮込みは、長く感じるような気もした。恭弥さんと話していれば、あっという間だと感じる。鍋の中に入っているローリエを取り除き、一旦火を止める。シチューのルーと牛乳を入れて再度火をかける。少し弱火にして、じっくりルーと牛乳を馴染ませるかのように混ぜていく。 「おぉ、良い匂いしてきているね」「うん、クリーミーな感じがする」 恭弥さんが鍋の中を少し覗き込みながら、シチューの完成を待ち望んでいる。 (あ、そうだ! かき混ぜるのと同時に、忘れずにこれも入れておかないと) そう、彩りを足す役割をするブロッコリーのことだ。それも加えてかき混ぜていくうちに、とろみも出てきた。沸々と湧いてきたから火を止めることにした。 「出来た?」「うん、あとはパンをスキレットで軽く温める」「そうだね、パンがあると更に美味しくなるしな」 シチューの入った鍋は鍋敷きの上へコンロから下ろし、スキレットで切り分けていたフランスパンを二枚温める。パンをだんだん温めていくうちに、小麦とバターの香りが漂ってくる。 (はぁ、特にバターの香りが美味しく感じる) 恭弥さんは、私の心の中を覗いてニヤニヤしているような気がした。いやいや、そんなことよりもシチューの盛り付けをしないと! 「恭弥さん、量はこれくらい?」「うーん、もうちょいだけ」 パンを温めている間は、シチューをそれぞれのボウル型のお皿に取り分けていた。恭弥さんの分を入れ終わった後、自分の分も盛り付けてようやく完成。
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番外編 夜鷹家のハレの日(その一)

 ——夜鷹家、自宅内のリビング。 「なんでやねん、それはないやろ!」「ワハハッ!」 私達、夜鷹夫婦はリビング内の暖房にあたっている。ぬくぬくと家の中で籠りながら、テレビで今放送されている正月用の特別番組をボーっと鑑賞している最中だ。 (やはり正月の時だからこそ、初笑いだからかお昼から漫才やバラエティ番組が多いなぁ……) 今年最初を飾るハレの日、一月一日。新年の幕開けの日でもある。私も恭弥さんも、年末年始は仕事がお休み期間中。初詣は家の近くにある神社で無事にお参りを済ませた。今はこたつの中でのんびりと温まっている。毎年届く年賀状も無事に受け取ったし、お雑煮やお節料理もお昼ご飯も……。 (ただ、キャンプができる日はまだまだ遠い先……) 現在、庭キャンプは冬季休み期間である。冬用のキャンプ道具やテントを持っていない。それが一番の理由がそれだから。我が家の住んでいる山奥での外は、雪一面の景色。特に、朝と夜はマイナスの気温まで下がる世界。昼間でも一桁の気温には、流石に耐えきれない寒さだ。だけど、家にいるとやはり身体が鈍ってしまうのも事実である。 しかし、夕刻になって晩ご飯の時間が近づくにつれて……。 ——ぐぅ~……。 盛大な音が部屋の中で響く。 「空、お腹空いただろ?」「……うん」 隣にいる彼はクスッと笑いながら、私のお腹の空き具合を聞く。 (うぅ、バレちゃったか……) 「お腹が鳴ってたの、すぐわかったよ」
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番外編 夜鷹家のハレの日(その二)

 ——気を取り直して……。 野菜の下ごしらえが終わり最後は豆腐を切るのみ。 (いつもの絹ごし豆腐で六等分に……) これでようやくひと仕事をした。 「お? 出来た?」「うん」 私はコクリと頷く。 「じゃあ、鍋の出汁を作ろう」「うむ、作る」 出汁を作るのは、私の役目と決まっている。そもそも私の実家で年に一回、カニ鍋をしていたから馴染みがある。私にとっては思い出の一品で、本当に正月の期間にしか出さないハレの日料理。出汁の調合や作り方は、私の父が作っていたのを見よう見真似で行うだけ。我が家の出汁は、昆布で出汁を取る。あらかじめ、土鍋の半分より少し多めの水に昆布一枚分浸していた。そこに塩を少々、薄口醤油とお酒をひと掛け。そしてコンロの火をつける。沸騰し始めたら白菜の芯や白ネギ、豆腐を先に入れ、次の食材を入れるタイミングを待つ。 「空ー! 俺、取り皿とかガスコンロ出しておくぞ」 鍋の食材を入れている合間に、恭弥さんが声を掛けてきた。 「うん、ありがとう。あっ、こたつの電源だけ切っておいてね」「OK」 (今日は新年最初の料理の振る舞いだし、彼のために美味しい鍋を作らなきゃ!) 大切な人のために料理を振る舞うというか、もっと作ってあげたい気持ちがどんどん湧いてくる。 (そろそろ、次の食材の入れ頃かな) 昆布出汁のやさしい香りも、ほんのり漂ってきた。グツグツと食材が揺らぐ頃に、火の通りやすく青々しい部分と黄色みの
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