All Chapters of 元夫、ナニが終わった日: Chapter 251 - Chapter 260

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第251話

今回の誕生日パーティーに、月は多数のメディア記者を招待した。今まさに人気絶頂の彼女のために、彼らはこぞって駆けつけ、顔を立てた形だ。本来ならこの機会にさらに一段ステップアップするつもりだった。だが、突如現れた亮介が、衝撃的な暴露を持ち込んできた。現場は一気に騒然となり、記者たちはすぐにカメラを構え、「カシャカシャ」と無遠慮にシャッターを切った。「ツキちゃん、本当に彼氏がいたんですね?」「まさか、工事現場で働く彼氏の稼ぎで大学に通っていたとは!」「じゃあ、あのツキちゃんの清楚系のキャラは、ファンを騙すためだったんですか?」月はまさかここまで事態が急変するとは思ってもみなかった。今や現場は完全にカオスだった。彼女は慌てて叫んだ。「撮らないで!やめて!」そのとき、彼女がふと二階に目をやると、彫刻が施された手すりの前に一人の気品ある美しい男が立っていた。司だった。司が来ていた。彼は上から見下ろすように、その一部始終を黙って見つめていた。月の顔色が一変した。まずい、司に彼氏がいることがバレてしまった。彼にすべての真実を知られては絶対にダメだ。「本日の誕生日パーティーはこれで終了します!」と、月は踵を返して立ち去ろうとした。もう誕生日なんて祝っていられない。彼女はただただここを離れたい一心だった。しかし、亮介が手を伸ばし、彼女の腕を掴んだ。「月、どこに行くんだ?」「放して!」「君が妊娠してること、いつまで隠しておくつもりだ?」は?月は体が硬直した。亮介はどうやって自分が妊娠していることを知ったの?「な、何言ってるのかわからない……」亮介はすぐに一枚の紙を取り出した。「これ、病院からの妊娠検査報告書だ。月、まだ認めないつもりか?」数日前、自分が病院で検査を受けた。だが、その妊娠報告書はどうして亮介の手にあるの?月は慌ててその報告書を取り返した。「どうしてこれを持ってるの?」「誰かからもらったんだ」誰か?「誰か」って誰なの?「月、俺の子どもを妊娠してるのに、どうして教えてくれなかったんだ?一体何を考えてる?」「黙って!」月は激しい感情で亮介を怒鳴りつけた。「お腹の子は、あなたのじゃない!」自分のお腹の子は、司の子でなければならないのだ。今、司はあの二階に立っている。嫌だ、お願い、
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第252話

「このところ、数えきれないほどのリソースがあなたに注がれましたが、一体どんなスポンサーに取り入ったんですか?」記者たちの質問はますます鋭くなり、月の顔色は真っ青になった。彼女は顔を上げ、ファンたちの方を見た。かつて彼女を応援していたファンたちの愛情はすっかり冷め、口々に罵り始めた。「私たちって全く見る目なかった!」「清楚系女子だと思って推してたのに、結局は欲にまみれた女だったなんて!」「もう行こう」ファンたちは彼女を見捨て、次々にその場を後にした。月は悟った。自分は終わったのだ。今日の誕生日パーティーは人生の絶頂に立つための舞台になるはずだったのに、自らその場で命取りとなる一撃を食らわせた。ほんの一秒前まで天国にいたのに、次の瞬間にはその天国から突き落とされ、深い奈落へと堕ちていった。どうすればいいの?月は二階の男を見上げた。司は高い場所から冷ややかに立ち尽くし、細い瞳は湖のように深く、その死のような眼差しは終始、彼女を覆っていた。彼はもう知っている。すべて、知られてしまった。その後、黒服のボディーガードの二人が月を無理やり連れて階段を上らせた。「早くしろ!」足元がふらつき、月は「ドサッ」と音を立ててカーペットの上に膝をついた。彫刻の施された手すりのそばに立つ司が身をひねり、鋭くも美しい眼差しを彼女に落とした。月は震えながら声を絞り出そうとした。「堀……堀田社長、聞いてください、私……説明させてください……」司の周囲には冷気すら漂っている。彼は薄い唇をわずかに動かした。「いいさ。じゃあしっかり説明してもらおうか。どうして真夕になりすました?」月の瞳が震えた。彼女はまだ希望を捨てきれていなかった。司が真夕の件を知らないかもしれないと、彼女は期待していた。月はショックだった。「堀田社長、それも知りました?」だが、司の唇が冷たく歪んだ。その冷たい笑いが全てを物語った。そのとき、亮介が部屋に入ってきた。「堀田社長」月はさらに驚いた。「あなた……堀田社長と知り合いだったの?」亮介はがっかりした目つきで月を見つめた。「妊娠報告書は堀田社長からもらったんだ。そして今日のパーティーに呼ばれたのも堀田社長の指示だった。そうでもしなければ、君の本性には気づけなかったよ」月は息を飲んだ。彼女は今に
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第253話

そう言い残すと、司はその場を後にした。月は全身が恐怖に呑み込まれた。ほんの一時の欲に駆られて真夕になりすました結果、それが司の手によって「人生最大の過ち」として刻まれた。彼女の人生は、これで完全に潰された。月は亮介の方を見た。今の彼女にとって、亮介は最後の救いの綱だ。亮介は出自こそ良くないが、努力家で誠実だ。この数年で彼女のために数千万円を費やし、彼女の家に何かあれば、いつも真っ先に駆けつけて助けてくれた。もうこれ以上、彼を失うわけにはいかない。「亮介、ごめんね。全部私が悪かったの……一緒に家に帰ろう。ちゃんとあなたと幸せな家庭を築くから……」月は涙ながらに亮介の手を握った。しかし亮介は力いっぱい彼女の手を振り払った。「お前が浜島市で居場所を失い、どん底に落ちて初めて俺の大切さに気づいたのか?俺はもうお前の本性を見抜いた。お前みたいな欲深い女、価値なんて全くない」亮介は踵を返し、背を向けて去っていった。「行かないで!……私のお腹にはあなたの子どもがいるのよ。見捨てないで!」亮介は彼女の腹を一瞥した。「その子どもだって、お前にとってはただの道具に過ぎない。お前に母親なんて務まるわけがない。子どものためにも、自分で病院に行って堕ろして」そう言い残し、亮介も去って行った。月は今すべてを失った。夢は砕け散り、彼女の手元にはもう何も残されていない。「いや!こんな仕打ち、許されるわけがない!私……私はどうすれば!」月は声を張り上げ、涙をこぼしながら号泣した。一方その頃、真夕は佳子と幸子と共に、ホテルの外のレストランで夕食を済ませたところだった。三人で外へ出た。「真夕、あいつの誕生日パーティーってどうなったと思う?」「だって堀田社長が出席したんでしょ?しかも彼女、堀田社長の子どもを妊娠してるって話だし。もう玉の輿間違いなしって感じじゃない?」「ホント、堀田社長ってクズ男だわ!」佳子と幸子は、またしても司と月の話題で盛り上がった。真夕は軽く笑った。そのとき、前方から突然声が聞こえてきた。「止まれ!逃げるな!」慌てた様子の人物が走ってきて、そのまま真夕の目の前で倒れ込んだ。真夕は見下ろし、ふと動きを止めた。倒れていたのは、他でもない、月だった。月は全身汚れており、髪はボサボサで、生卵や腐った野菜の
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第254話

幸子はショックでいっぱいだった。「えっ、未婚で妊娠?あいつのお腹の子って、堀田社長のじゃなくて彼氏の子なの?」真夕は、誕生日パーティーで何かが起きたのだと察していたが、それでもこの展開は予想外だった。月に彼氏がいたなんて。そして、そのお腹の子はその彼氏の子供だなんて。じゃあ、月と司の関係って、結局なんだったの?その時、ノックの音が響いた。誰かがドアを叩いている。「はい?」真夕が立ち上がってドアを開けると、そこにはすらりとした長身の男性が立っていた。司だった。真夕は一瞬呆然とした。どうして彼がここに?ここは女子寮のはずなのに。真夕は彼と話す気はなかった。彼女はすぐにドアを閉めようとした。だがドアは完全には閉まらなかった。司が手を差し入れて止めたのだ。長身の彼が堂々とそこに立ち、鋭い眼差しで彼女を見つめた。「話がある」「聞きたくない」「聞け!」司は強引にドアを押し開け、中へと入ってきた。佳子は素早く言った。「真夕、堀田社長、話してて。私たちは外に行くね」佳子は二人に空間を譲ろうとしたのだ。しかし、幸子は出たくなさそうだった。「私、外に出たくな……んむ!」言い終わる前に、佳子が彼女の口を手で塞ぎ、そのまま強引に連れ出した。そして佳子は振り返り、さらに一言付け加えた。「今夜は戻らないからね!」そう言い残し、彼女はドアをしっかり閉めて出ていった。女子寮の部屋に残されたのは、真夕と司の二人だけ。司は長い脚を一歩踏み出し、真夕の目の前に立った。彼の高く逞しい体が真夕の小さな体を影のように覆い隠した。「俺は星野とは何もなかった。彼女と寝たことない」真夕の睫毛が微かに震え、澄んだ瞳で彼を見上げた。「私に信じてほしいっていうの?」月に彼氏がいたとしても、それが司と何もなかったという証明にはならない。もし本当に彼女と寝ていなかったのなら、どうしてあれほどまでに彼女にリソースを注ぎ込んだのか。司は逆光の中に立ちながら、唇を引き結んだ。「一緒に寝たって寝てなかったって、俺は正直に認める。女に手を出しておいて黙ってるような男じゃない」真夕「……」この男は本当に傲慢だ。しかし、司は確かにそこまで堕ちていない。「じゃあ……あなたと星野月は、一体……」「彼女が君になりすましてた
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第255話

真夕は彼に問い返した。「じゃあどうすれば?」女子寮の照明は柔らかく、彼女の雪のように白い頬に降り注いでいる。肌は弾けるように滑らかで、その上にうっすらと生えた産毛まで、きらめくように柔らかかった。司の整った眉目には、思わず笑みが浮かんだ。「あの夜のこと、言いたいことはないのか?」あの夜……真夕は、しばらくあの夜のことを考えないようにしてきた。しかし今、彼に言われると、頭の中にふたつの影がよみがえった。一方はたくましく、もう一方は柔らかく、ソファの上で重なり合い、もつれ合っていた。汗と歓喜が絡み合い、最後には爆ぜるような花火となって空に舞った。彼は彼女の上で彼女を呼んだ。真夕は目を上げて彼を見つめ、そのまま彼の瞳の奥へと落ちていった。彼もまた、じっと彼女を見つめていた。真夕の小さな顔は一気に赤くなった。月のせいで、彼がもうあの夜のことを忘れていると思っていた。しかし今、彼の瞳の中に映った小さな自分を見てしまった。彼が忘れていなかったのだ。彼も自分と同じように、ずっと覚えている。「別に、何も言うことはない」そう言いながら、真夕は背を向けて歩き出そうとした。しかし司の高くたくましい体が、彼女の前に立ちふさがり、行く手を遮った。左に動くと、彼も左へ。右に避けると、彼も右へ。悪戯っぽく、そして強引に、彼は彼女を自分の影の中に閉じ込めた。真夕は睨みながら、うんざりしたように尋ねた。「なにがしたいの?」司は唇をゆるめ、低い声で尋ねた。「君は……何が欲しい?」真夕は彼の意図がわからなかった。あの夜、彼と一夜を共にしたことで、自分に何か補償をしたいという意味か?何より彼は、あれだけのリソースを月に注ぎ込み、彼女を押し上げてスターにしたのだから。「私は何もいらない」そう言って彼女は彼を押しのけ、再び去ろうとした。しかし司は背後から、しっかりと彼女を胸の中に閉じ込めるように彼女を抱きしめた。彼の薄い唇が、彼女の耳元にふれた。「真夕、俺は……あの夜、君が来なかったと思ってた。あれが君だったなんて、知らなかった」そう言いながら、彼の大きな手が彼女の平らなお腹に触れ、優しく円を描くように撫でた。「その日、薬を飲んで倒れただろう?お腹、痛かったんだね」そして、白く小さな耳たぶにそっとキスを
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第256話

静かな女子寮では、彩の激しい声はひときわ鮮明に響き渡った。真夕にもそれがはっきりと聞こえていた。彼女は自分に水を注ぎ、一口飲んだ。なぜだろう。その一杯の水が、とても苦く感じた。司は何も言わなかったが、その整った眉間には明らかな皺が寄っていた。「司、会いたいの。今すぐに。すぐに来て、一緒にいて」司はスマホを握ったまま、長い足を伸ばして外に出ていった。真夕は振り返り、彼が去っていく背中を見つめた。きっと彼は、これから彩のもとへ行くのだろう。自分は忘れかけていた。月はただの一時的な出来事にすぎない。本当に彼が愛しているのは、彩だったのだ。彩の一本の電話と一言だけで、彼はすぐに駆けつけてしまう。彼と自分が過ごしたあの夜は、何一つ変えることはできなかった。真夕は自嘲気味にふっと笑った。一方、司は階段の踊り場まで来ると、眉をしかめて言った。「彩、今は行けない」彩は激昂した。「どうして?まさか真夕と一緒にいるの?司、言っておくけど、私と真夕、どっちかしか選べないのよ。今夜来なかったら、きっと後悔することになるから!」そして彩は一方的に電話を切った。司の薄い唇は冷ややかな線を描いた。彼はスマホを握ったまま、ふと女子寮の方へ目をやった。もし以前の自分だったら、迷うことなく彩の元へ行っていただろう。しかし今は、迷っていた。そのとき、「ピン」という通知音と共に、彼のスマホにラインの通知が届いた。友達追加のリクエストだった。表示された名前は「鈴木幸子」だった。幸子が彼に申請を送ってきた。司は承認ボタンを押した。すると、幸子からすぐに一枚のスクリーンショットが送られてきた。それは、彼女と真夕の過去の会話だった。真夕【幸子、友達の話なんだけど、彼女、夫と初めて寝たの。でもその後、夫は何も連絡してこないし、全然かまってくれないの。これってどういうこと?】あの夜のあと、司に距離を置かれた真夕が、一番の親友に送ったメッセージだった。当時の幸子は何もわからずに、こう返していた。【それはね、その友達がベッドで旦那を引き止められなかったってことよ。旦那は一回寝ただけで飽きちゃったの】しかし今の幸子は違う。彼女はそのスクショを司に送った。彼女はしばらく文章を入力し続けていたが、最後に送ってきたのは、たったひと
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第257話

真夕はまさか彼が戻ってくるとは思わなかった。さっき彩が電話であんなにもわがままに彼を呼びつけたのに、彼は行かなかった。彩は彼の最愛の人のはずだ。以前、自分が薬を盛られたときは、たった一本の電話で彼を呼び出すことができた。それなのに、今回は違った。彩の性格からして、今夜どれほど取り乱して狂っているか想像もつかない。司は彼女を見つめながら言った。「さっき、何を考えてた?」彼は後ろから彼女を見ていた。彼女は小さな頭を垂れて静かにしており、何を考えているのか分からなかった。ふと、彼の脳裏に数年前の洞窟にいたあの少女がよみがえった。あのときの少女も、こんなふうに静かで孤独だった。彼は守ってやりたくなった。愛おしいとさえ思った。なぜ自分が真夕の中にあの頃の少女の面影を見てしまうのか、司には分からなかった。真夕は何も話したくなかった。「何も考えてないわ」司はそれ以上聞かなかった。彼は自分の濡れたシャツとスラックスを見下ろした。さっき向きを変えたとき、彼女のグラスの水が全部自分にこぼれたのだ。「俺、服が濡れた」真夕はすぐにティッシュを引き出し、彼の服を拭き始めた。「ごめんなさい。わざとじゃなかった」白いシャツが濡れて彼の体に張り付き、筋肉質で引き締まった身体がうっすらと透けて見えた。真夕はティッシュでそのシャツを拭きながら、腰元の黒いベルトを越え、そのまま濡れたズボンまで拭いていった……「真夕」彼の低く掠れた声が彼女の頭の上から響いた。真夕は水を拭くことに一心だった。「どうかした?」「わざとやってるのか?」え?真夕の手が止まった。次の瞬間、彼のズボンにくっきりと浮かび上がった輪郭を見ると、彼女の顔は一気に真っ赤になった。彼女は慌てて数歩後ずさった。「わざとじゃなかった……」司は彼女を一瞥した。「服が濡れたから、シャワー浴びてくる。あとで千代田くんが服を届けるから、受け取っておいて」そう言うと、彼はそのままシャワールームへ入っていった。間もなく「シャー」という水音が聞こえ、彼がシャワーを浴びているのが分かった。真夕の顔は真っ赤に染まり、今にも汗が滴り落ちそうなほどだった。さっきは本当にわざとじゃなかったのに、どうして彼は……間もなくノックの音が響いた。清がやってきた。「奥様、こちらが社
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第258話

柔らかな美しい背中が壁に押し付けられ、頭上から温かい水が注ぎ、一気に彼女を濡らした。彼女は手を伸ばして目の前の男を押し当てた。「何をしているの?」水はその端正で高貴な顔に当たり、立体的な輪郭に沿って流れ落ちていった。鋭く突き出た喉仏から、セクシーな鎖骨へ、さらにその先へ……美しい男の入浴姿は、まさに究極の視覚的ごちそうだった。真夕は全身が一気に燃え上がったようになった。まるで驚いた小鹿のように、どこを見ればいいかわからず、慌てて身をかわした。司は彼女を壁に押し付け、薄い唇を笑みで曲げて言った。「そんなに恥ずかしがってどうする。俺の体、君は詳しいだろ?」真夕は彼が自分を引き寄せるとは思っていなかった。あの夜は彼が薬で朦朧としていたが、今ははっきりしている。彼女ははっきりした状態での彼とこういうことをしたことはなかった。ましてや一緒にシャワーすることもなかった。「司、放して!出たいの!」と、真夕は逃げようとした。しかし司は彼女を逃がすつもりはなく、手を伸ばして何かを彼女の髪に挟んだ。中には鏡がついている。真夕がちらりと見ると、彼は黄色い小さなヘアクリップを彼女の髪に留めていた。すぐ隣にピンク色のもの、緑色のものも留めていった……真夕は驚いた。これらのヘアクリップは、彼女が佳子と幸子と一緒に街で見かけて気に入ったものだった。買おうとしたが月に邪魔された。彼がまさかそのキャンディカラーのヘアクリップを買ってきていたとは。司は彼女を見つめた。彼女の黒く長い髪はすでに濡れており、清楚で洗練された顔立ちと見事な骨格は本当に美しかった。これらのキャンディカラーのヘアクリップは、彼女に少女の元気と活力を添え、一層可愛らしさを引き立てた。司の薄い唇がヘアクリップに触れてキスをし、力強い腕で彼女の肩を抱き寄せた。彼女を自分の胸に包み込んでから、再び彼女の髪にキスをした。「可愛い」真夕は体が少しふにゃりとし、彼の腕の中で立っているのが少し難しくなった。この男はいつも惜しみなく与える。彼を満足させた後は、贈り物も多い。真夕はそれでも手を伸ばして彼を押し、小声で抵抗した。「やめて!司、放して!」司は彼女を抱きしめ、かすれた声で尋ねた。「真夕、まだ俺に泌尿器科に行かせようとしてるのか?」真夕は一瞬動揺した。こ
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第259話

真夕の華奢な身体が床へと崩れ落ちそうになるのを、司の腕が彼女の柔らかな腰をしっかりと支えた。彼の熱いキスの中で、彼女はとろけてしまいそうだった。司は彼女の服のボタンに手を伸ばし、低くかすれた声で尋ねた。「ゴム、ここにあるか?」真夕は首を振った。ない。「千代田くんに持ってこさせる」と、そう言って司はスマホを取ろうとした。真夕は慌てて彼を止めた。彼にとっては清にコンドームを頼むのは普通のことかもしれないが、彼女にとっては、それ以後清の顔をまともに見られなくなってしまうほど恥ずかしいことだった。「やだ……」司の薄い唇が彼女のうなじに落ち、さらにその下へとキスをしていった。「やだって、何が?」彼の短い髪が彼女の顎に当たり、ちくちくとした痛みに混じってくすぐったさもあった。彼女は小さな両手で彼の髪を掴み、押し返すようにして言った。「司、ダメ……」彼女は頭の中が混乱している。彼とまた関係を持つなんて、今日の出来事があまりにもめちゃくちゃだった。司は彼女にキスしながら囁いた。「ほしい、真夕」真夕。あの夜も、彼はこんな口調で自分を呼んだ。真夕、と。真夕の頬は赤く染まり、司の髪を掴んでいた手はゆっくりと力を失い、彼のしっかりした肩に落ちた。そのまま彼の首に腕を回し、抱きついた。司は片手を伸ばし、スマホを取ろうとした。「やだ……今は……安全日だから、妊娠はしないよ……」と、彼女のか細い声は今にも壊れそうだった。司は唇の端を上げ、再び彼女をキスし始めた。……夜も更けた女子寮の廊下に足音が響いた。隣の子たちがデートから帰ってきたようだった。「ねえ、なんか音聞こえなかった?」「どんな?」「ベッドがギシギシしてる音……みたいな?」「えー?全然聞こえなかったよ、気のせいでしょ。早く入ろ」皆クスクスと笑いながら部屋に入っていった。桃色のハート柄のシーツの上に、司は清潔感のある白いシャツを羽織っていた。シャツのボタンは一つだけ止められており、緩く開いた隙間から彼の腹筋が覗いた。彼の細長い目元は赤く染まり、真夕は彼の上に座っている。司は大きな手で彼女の柔らかな腰を掴み、かすれた声で優しく囁いた。「大丈夫。もうみんな部屋に入った」黒く長い髪は乱れており、真夕の白く柔らかな肌にまとわりつき、あまりにも艶やか
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第260話

だが今日は違った。いくら待っても司は来なかった。どれだけ待っても、彼は現れなかった。焦った彩は、司に何度も電話をかけた。しかし、電話の向こうから返ってきたのは冷たい機械音だけだった。「申し訳ありません。おかけになった電話は現在つながりません。しばらくしてからおかけ直しください」司は電話に出てくれなかった。パシン!彩は手にしていたスマホをそのまま壁に叩きつけた。美しい顔立ちのその表情は、怒りで歪んでいた。「彩、そんなに怒らないで。心臓が弱いんだから」と、藍が彩を宥めた。しかし彩は勢いよく藍を突き飛ばした。「怒らずにいられるわけないでしょ!あの星野月ってマジ使えないわ!妊娠をネタにすれば万事うまくいくと思ったのに。あとは真夕に責任を押し付けて子供を死なせれば、彼女は二度と立ち直れなくなるはずだったのに……あいつ無能すぎる!今じゃ司は、あの夜の相手が真夕だったって知ってるのよ。きっと彼女のところに行ってる。真夕と一緒にいるのよ!」彩は、司があの夜の真実を知ることを恐れていた。しかし、まさに恐れていた通りのことが起こってしまった。彼女は司と何年も付き合ってきたが、未だに関係を持ったことはなかった。真夕は彼にとって初めての女だった。男は自分の初夜の女を忘れないと言われている。彩はそれが怖かった。藍の顔も沈んでいる。まさか月の戦闘力がここまで低いとは誰も思っていなかった。そして今、司は真夕のところにいる。これは、彩にとって、司が自分のもとへ来なかった初めての夜だった。これは非常に危険なサインだ。「お母さん、本当に怖くてしょうがないの。司がもし山の洞窟の真実に気づいたらどうしよう。司が、あの時の女の子が私じゃなかったって、最初から最後まで、真夕こそあの子だったって、気づいたらどうしよう!」藍の表情が一変した。「黙りなさい、彩!」彩はハッとし、自分の口をすぐに手で塞いだ。ここが自分の家でよかった。誰にも聞かれてはいないはずだ。この秘密は、墓場まで持っていかなければならない。「こんなこと、もう二度と言ってはダメ。そんなの、もし司に知られたら、あなたどころか、池本家そのものが終わるのよ!」司という男は、真実を知ったら何をしでかすか分からない。絶対に、絶対に知られてはならない。彩はソファに崩れ落ち
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