騒動があった翌々日に、ロンドベルトが副官のヘラをはじめとするわずかな側近と共に、アレンタの主府へ向けて出立することが決まった。 つかの間の平和が訪れる、と言いたいところだったが、アルバートの心中は穏やかではなかった。 ロンドベルトが主府へおもむくということは、なにがしかの命令を携えて戻ってくるということを暗に示しており、その命令は十中八九出兵であることは明らかだったからだ。 そして何より、あのときのやり取りが頭の中にこびりついてはなれない。 ──お客人は、ルウツの大司祭猊下の養い子のようです── 墓地を前にしてのロンドベルトの言葉が、幾度となく脳裏によみがえる。 真実であれば、これまでの違和感にすべて説明がつく。 一方で、心のどこかで信じたくないという思いがある。 考えがまとまらず、アルバートは頭をかき回す。 その時だった。 「師団長殿、夜分に失礼いたします。よろしいですか?」 扉の外から聞こえてきた声が、アルバートを現実へと引き戻した。 どうぞと応じると開いた扉の向こうには、見知った顔の黒衣の兵士が立っていた。 「お休みのところ、申し訳ありません。本日宿直を拝命した者が、お客人の様子がおかしいと申しておりまして。来ていただけるとありがたいのですが」 「ご様子が?」 昼間の強引な尋問が、あの人に何やら影響をおよぼしたのだろうか。 不安を抱えつつも、アルバートは平服の上からマントを羽織ると、ランプを手に取り軍司令部の建物へと向かった。 ※ 暗い夜だった。 漆黒の闇に溶け込む黒衣の兵士を見失わないよう、細心の注意を払って進むことしばし。 ようやくたどり着いたその部屋の前で、アルバートは大きく息をつく。 扉の向こうからは、うめき声とも泣き声ともつかないものが、途切れ途切れに聞こえてきた。 「先刻は叫び声が。中をうかがったのですが、特に変わったことは何も」 そうですか、と見張りの兵にうなずいて見せてから、アルバ
Huling Na-update : 2025-07-19 Magbasa pa