「一体何事です? そなたらはそのような愚昧な者の物言いを何ゆえそうやすやすと信じるのです?」 やや神経質な女帝の声にある者は視線をそらし、またある者はおびえたような表情を浮かべる。 しかし、イディオットは臆することなく怒りをはらんだ女帝の視線を受け止めた。「……陛下におかれましては、私のことを覚えていてくださいましたか。光栄です」 刹那、メアリの青緑色の瞳に閃光が走る。 そして、眼光同様の鋭い口調で言い放った。「忘れるはずないでしょう? ルウツ皇家の面汚しが! 多少なりとも同じ血が流れていると思うと、ぞっとします!」 心底自分を忌み嫌っていることを隠そうともしないメアリに、イディオットは苦笑を浮かべる。 そして、つとめて冷静に語り始めた。「では、そんな愚かな私を哀れと思って、ささやかな願いを聞き届けてはいただけませんか?」 思いもかけない言葉に、けれど下手に出られて自尊心をくすぐられたのだろうか、メアリの顔に微笑が浮かぶ。 メアリがくい、とあごを上げ話すよう促すのを確認して、イディオットはおもむろに切り出した。「今までの陛下のご心労、察するに余りあります。ここは一つその位を退き、いずれかの離宮でお心安らかに過ごされてはいかがですか?」 その言葉を受けて、メアリの頬は怒りのあまり紅潮し、次いで目に見えて蒼白となった。 これまで以上に鋭くイディオットをにらみつけ、両の拳を振り下ろす。「無礼な……たとえ従兄とは言え、そなたは皇帝たるわたくしの一介の臣下にすぎないでしょう! 不可侵の皇帝に対しその物言い、許されると思っているのですか?」 だが、その怒りを受け止めるイディオットは、冷静を通り越して冷ややかな目でメアリを見つめている。 周囲からの言い難い視線を一身に受けて、彼は冷淡と言っても良い口調でこう告げた。「そもそも貴女は、正当な皇帝ではないでしょう。違いま
Last Updated : 2025-08-08 Read more