その時、頃合いをはかったようにフリッツ公がすい、と前に出、大司祭とジョセに向かい完璧な所作で一礼する。「大司祭猊下、初めてお目もじつかまつります。ジョセ卿、その節は大変失礼いたしました」 戸惑う大司祭に、ジョセがこの人は何人(なんびと)であるかを耳打ちする。 公爵の容姿もあいまって納得のいった大司祭は、一つうなずくと常のごとく穏やかな表情で続きを促した。「この度は、戦闘においても和議においても、アルトール殿はルウツにとってなくてはならない方でした。何卒その点もご配慮いただきたく……」 そして、自分からも謹んで罪を減免する旨の陳情書を加えさてていただきたい、と付け加えると、再び深々と一礼する。 そして、驚いたように見つめてくるシエルに向かい、人好きのする笑顔を浮かべて見せた。「貴方が何と思おうと、これは私達の偽らざる気持ちです。どうか受け取ってください」「そんな……俺は……」 突然の申し出に困惑の表情を浮かべ、シエルは返答に窮し、こちらを見つめてくる一同の視線を受け止めかねて、思わず顔を伏せた。「俺は、ルウツに仇なしたエドナの間者の子で……生まれながらの罪人だ。しかも、差し向けられた討伐隊を皆殺しにして……。そんな俺に、皆の気持ちを受け取る資格なんてあるはずがない」 本人の口から語られるその生い立ちに、一同は一様に押し黙る。 特にその事実を初めて知ったシグマは、本当なのか、と隣に立つユノーに問いただす。 そんな中で、シエルの苦しげな独白は、尚も続いた。「皆が思うようなルウツに忠誠を誓った救国の勇者なんかじゃない。命を救って下さった殿下や猊下へのご恩返しと、自分の罪をあがなうために剣を取ってたんだ。だから……」「それでも結果として、僕らは貴方に助けられました。その事実は変わりません」
Last Updated : 2025-08-18 Read more