皇都に奇妙な緊張感が流れている。 期待と不安、好意と憎悪など、相反する感情が渦巻いている。 そう、ついに長きに渡り戦闘状態にあったエドナから、全権大使一行が到着したのである。 とは言っても、国民感情は複雑だ。 全員が諸手をあげて和議に賛成しているわけではない。 どこに大使達に良からぬことを仕掛けようと考える輩がいるとも限らない。 そんな訳で当日皇都には厳戒令が出され、一般市民の外出は禁じられた。 一方の当の大使も、重騎兵に囲まれた馬車に乗って人気のない皇都に入った。 本当にこれで平和が訪れるのだろうか。 大使公邸へと向かう隊列を見ながら、ユノーはそんな思いにとらわれて深々とため息をついた。 宙に浮いてしまった皇帝の位。 姿を消した廃立されたメアリ。 国内が不安だらけなこの状況で、エドナから大使を迎え入れても大丈夫なのだろうか。 けれど、ユノーはそんな思考を無理矢理中断し頭から振り落とした。 貴族とはいえ最末端の下級騎士である自分が、国家の中枢で行われている政に疑問を覚えても仕方がないと思ったからだ。 そうこうしているうちに、今日の勤務も何事もなく終了した。 引き継ぎのあと、いつものように一人詰所を片付けていたユノーの耳に、何やら言い争うような声が飛び込んできた。 よもや、ミレダが抜け出してこちらに向かう途中見つかってしまったのだろうか。 そう思い、ユノーは片付けの手を止めて、不謹慎と理解しながらも思わず耳をそばだてる。 と、いらだったような声が段々と近づいてきた。「ですから、このような所に来られては困ります!」「一刻も早くお戻りください! 当方といたしましても、安全を保証致しかねます!」 おや、とユノーは首をかしげる。 声の主が近衛なのか朱の隊なのかは定かではないが、その声音がいささか乱暴だ。 言葉使いこそ丁寧なのだが、明らかにミレダに対するそれとは異なる。 一体、外で何が起きているのだろうか。 湧き上がってきた好奇
Last Updated : 2025-08-28 Read more