翌日、表面上は何事もなく日勤を終えたユノーが引き継ぎを済ませ帰宅しようとしていた時、声をかけられたような気がして振り向くと、柱の影にペドロがたたずんでいた。 「……シモーネ嬢から連絡がありました」 その言葉に、ユノーは自らの心臓が飛び跳ねるのを感じたが、つとめてそれを表情に出すまいと努力して言葉の続きを待つ。 「正式に公爵閣下のお許しが出たそうです。いつでも受け入れる準備ができた、と」 はやる気持ちをおさえて、ユノーは一つうなずく。 それから、緊張でややかすれた声でたずねる。 「では、決行はいつ?」 「できるだけ早い方が良いでしょう。幸い明後日の夜は常闇に当たるので、都合がいいかと」 そう言うペドロにユノーはもう一度うなずき、とある疑問を口にする。 「わかりました。ですが、シグマさんとトーループ閣下には……」 「シグマにはすでに伝えました。将軍閣下には配下の者をやり、つなぎはつけました」 もはや、後戻りはできない。 両の手を固く握りしめるユノーは淡々とした口調で続ける。 「日付が変わる頃合いで出立します。場所は、中央広場」 そう言い残すと、ペドロの姿はいつの間にか消えていた。 ※ 中央広場から地下水路に潜り、足首まで水に浸かりながら闇の中をランプを頼りにどれくらい歩いただろう。 皇都の地下に張り巡らされている水路は、長身のロンドベルトでも余裕を持って歩けるほど天井が高い。 そのロンドベルトは、地図を見ることなく歩を進める。 万一その人がいなければ、迷路とも言える水路の中で確実に迷い、二度と光を見ることはできなくなるだろう。 そんなことをぼんやりと考えていたユノーを、シグマの声が現実に引き戻した。 「なあ坊ちゃん、斥候隊長は大丈夫かな?」 そう、ペドロは戻ってきたユノー達を拾いフリッツ公の屋敷へ送り届けるために中央広場に待機しているのだ。 当然の疑問ではあるが、ユノーは首を左右に振った。 「配下の方もいらっしゃるんですから、こちらより数倍安全ですよ」 そう言うユノーの声は、わずかに震えていた。 無理もない、万一敵に気付かれれば自らの手を血に染めなければならない状況に足を踏み入れたからだ。 けれど、恩人を救うためなら致し方ない。 そう決意を固め、ユノ
Last Updated : 2025-11-06 Read more