そう言う言吾の端正な顔に、知らず恐怖の色が滲む。まるで、もし今日、自分が間に合わなかったら彼女がどうなっていたか、想像するのも恐ろしいとでも言うように。「一葉、お前が心優しいのは知っている。目の前で人の命が消えるのを見過ごせないんだろう。だが……」言吾を見つめ、自分が心優しいと語る彼の言葉を聞きながら、一葉は可笑しさを禁じ得なかった。そして、思わず声に出して笑ってしまう。かつてあれほど自分を悪辣だの残酷だのと罵ったのも彼。今こうして、お人好しにも程があると語るのも、また彼なのだ。そんな彼女の笑みに、言吾は虚を突かれたように一瞬言葉を失った。だが、すぐに我に返ると、何かを悟ったようだった。「すまない、一葉……俺は……」謝罪の言葉に慣れていない彼は、次に続けるべき言葉が見つからない。どう謝罪したところで、もはや無意味だと分かっているからだ。考えれば考えるほど、自らの愚かさが身に染みる。見ず知らずの人間を救うため、自らの命の危険さえ厭わない彼女のような人間を、どうして自分はあれほど悪辣だと信じ込んで、この二年間、あんな仕打ちをしてきたのだろうか。ふと、彼の脳裏に、以前彼女が言った言葉が蘇る。八年間だ、と。八日でも、八時間でも、八分でもなく、八年間も一緒にいたのだ。だというのに、自分は彼女をひとかけらも信じてはいなかった。あの時の自分は、彼女が往生際悪く言い逃れをしているだけだと思っていた。自分の愛情に胡座をかいた、傲慢で残酷な女だと。今の彼は、ようやく気づいたのだ。自分がどれほど愚かで、滑稽だったのかを。「すまない、一葉……本当に、すまない……」あれほど高かったはずの頭を垂れ、プライドをかなぐり捨てるかのように、彼は何度も、何度も謝罪の言葉を繰り返した。だが、一葉の心は動かなかった。いまさら謝られて、何になるというのだろう。もし謝罪の言葉一つで許されるのなら、世の中に警察など必要ない。もしそれで全ての傷が癒えるというのなら、こちらとて、毎日でも謝罪の言葉を口にしてやるというのに。一葉は、彼の謝罪に取り合わなかった。「お大事に」とだけ言い捨て、背を向けて立ち去ろうとする。だが、言吾は彼女の腕を強く掴んで離さなかった。「一葉、もう一度だけチャンスをくれ。一度だけでいいんだ、な?
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