紫苑を伴い、一歩、また一歩と、こちらへ向かってくる元夫の姿。その光景を前にして、一葉は自分の心をどう表現すればいいのかわからなかった。一体いつになったら、彼のことを見ても、ただの知人に対するように、心の波一つ立たずにいられるのだろう。だが、その日はきっと来ると、彼女は信じていた。一葉の心境がさほど変わらないのに対し、言吾の様子は大きく変化しているように見えた。ついこの間のパーティーでは、まだ「他の誰かを好きになるのは待ってくれ」と、目に涙を浮かべていた男が。今、目の前にいる彼は、あの時の苦痛など微塵も感じさせず、穏やかな笑みさえ浮かべて祝いの品を差し出し、祝福の言葉を口にした。「青山さん、桐生さん、ご婚約おめでとうございます。末永く、お幸せに」彼が自分たちの婚約を祝い、他の男との永遠の幸せを願う、その真摯な瞳。それを見つめながら、一葉は思わず、ある種の感慨に耽っていた。やはり、そうなのだ。どんなに忘れられない想いも、どんなに天地がひっくり返るような出来事も、時間の大きな流れの中では、ゆっくりとその姿を変えていく。耐え難い苦しみから、彼を完全に手放し、新しい人生を歩み始めた自分。同じように、耐え難い苦しみから、自分を完全に手放し、新しい人生を歩み始めた彼。結婚の時に誓った言葉は、結局果たされなかった。「どんな時も、この手を離さず、二人で幸せに年を重ねていこう」という、あの約束。けれど、今こうしていることもまた、別の形の幸せと言えるのかもしれない。それぞれが、それぞれの場所で幸せになる。それだって、二人が幸せになったことに、変わりはないのではないだろうか。ふと我に返り、一葉は彼に向かって柔らかく微笑んだ。「ありがとうございます、獅子堂さん、奥様」その幸せに満ちた笑顔と、感謝の言葉。それを受け取った言吾は、身体の脇に垂らした両の拳を、抑えきれずに強く、強く握りしめていた。一方、紫苑は、一葉に向ける嫉妬の眼差しを隠すことができないでいた。確かに、先日のパーティーで慎也は二人の関係を公にし、近々結婚すると発表した。彼がテーマパークを貸し切りにし、仲睦まじく園内を巡る姿は、インターネットを通じて国中に知れ渡った。それでも、紫苑は本気にしていなかったのだ。慎也ほどの男が、結婚などするは
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