慎也の探るような視線を受け、言吾は自嘲気味に笑った。「分かっている。俺が過去に一葉にしてきたことを考えれば、信じられないのも無理はないだろう。……ただ彼女に、もっと良い暮らしをさせてやりたいだけだ、などと」「だが、本当なんだ。本当にただ、彼女にもっと幸せになってほしい。……俺にできる全てで、彼女に償いをしたいんだ」ビジネスの世界で常に勝ち続けてきた慎也は、人を見る目も確かだった。これまで、その目が見誤ったことは一度もない。だから、彼には分かった。今の言吾が本気であること、その言葉に嘘偽りがないこと。彼が本当に、ただ獅子堂家を……一葉に譲りたいだけなのだということが。その事実に、慎也は言吾に向けられる視線に、何と表現すべきか分からぬ感情が混じるのを感じた。獅子堂家――百年の歴史を持つ名家が築き上げた富。本気で争えば、この桐生家ですら勝てるかどうか分からない。誰もが喉から手が出るほど欲しがる、その莫大な財産を……この男は、ただ一葉に与えたいだけだと言うのか。そんな言吾の姿に、慎也は思わず問いかけていた。「それほどまでに一葉を愛しているのなら、なぜ、あれほど彼女を傷つけた」本当の愛とは、無条件の寵愛ではないのか。何があろうと、ただ一人だけを守り抜くことではないのか。だとしたら、たとえ優花との間に誤解があったとしても、あのような仕打ちができるはずがない。言吾は力なく笑った。「以前の俺は……本当の愛が何なのか、分かっていなかったんだ」今、それが分かった。だが、全てが手遅れだった。そして、彼がかつてあれほど残酷な仕打ちができたのは、ひとえに妻が自分を愛していることに胡座をかいていたからだ。彼女がどれほど自分を愛し、離れられないかを知っていたからこそ、何の躊躇もなく彼女を傷つけた。どれほど深い愛情でも、いつかは尽き果てる日も来るのだと、考えもしなかったのだ。そんな言吾の姿は哀れにも見えたが、慎也の心に同情は一切浮かばなかった。一つは、彼らが恋敵であること。そしてもう一つは、手遅れの愛情ほど無価値なものはないからだ。散々傷つけ尽くした相手の前で、今更悔い改めても何の意味もない。彼に送る言葉があるとすれば、ただ「自業自得」の四文字だけだ。慎也は思考を断ち切り、言吾に向き直った。「俺に協力できることがあれば
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