慎也のただならぬ様子に、言吾は眉をひそめ、何かよからぬことが起きたのだと本能的に察した。「どうした?一葉に何かあったのか」言吾は元々、一葉の身を案じて人知れず護衛をつけていた。だが、彼女が慎也と婚約してからは、二人の関係を慮り、その者たちを引き揚げさせていたのだ。そのため、彼女が姿を消したことを、彼はまだ知らなかった。ただ、慎也の切迫した様子から、一葉の身に何かがあったのだと推測したに過ぎない。男のことは、男が一番よくわかる。言吾には、慎也が一葉に本気で惚れ込んでいるからこそ、結婚を望んだのだということが見て取れた。その慎也がこれほど取り乱し、自分の元を訪ねてくるからには、一葉に関わることに違いない!慎也は強い男だが、面子に固執するようなつまらない男ではなかった。言吾が恋敵であるからといって、無駄なプライドを優先し、一葉を危険に晒してまで協力を拒むような男ではない。「一葉が……消えたんだ」心のどこかで覚悟はしていたものの、慎也の言葉に、言吾の心臓は鷲掴みにされたかのように軋んだ。「どういうことだ」焦燥に駆られた声で、言吾は問うた。「昨日の夕方、携帯だけを持って屋敷を出たきり、戻っていないと使用人が」言吾が何かを言う前に、慎也は続けた。「彼女は組織に狙われている。だからここ最近は、どこへ行くにも大勢のボディガードを連れていた。そんな彼女が、たった一人で会いに行く相手だ。よほど親しく、絶対に自分を傷つけないと信頼している人間に違いない。あんた以外に、一葉がそこまで安心して一人で会いに行くような相手がいるか。……心当たりは?」慎也は知っていた。十代の頃から一葉を知る言吾こそが、彼女の交友関係を最も詳しく把握しているはずだと。言吾はすぐさま思考を巡らせた。一葉の交友関係は、決して広くはない。自分を除けば、彼女が心を許しているのは、親友の千陽、祖母の紗江子、そして恩師である桐山教授。兄の哲也も、その一人と言えるかもしれない。千陽たちが一葉を傷つけることなど、万に一つもない。だとすれば、最も可能性が高いのは……哲也か。言吾がその名を口にする前に、慎也が遮った。「哲也じゃない。そいつは調べさせた」一葉の行方が掴めず、犯人が顔見知りだと判断した慎也は、真っ先に言吾を疑う一方で、同時に哲也の身辺調査も命じてい
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