一葉と少し言葉を交わしただけで、彼はその場で一葉たちとの提携を快諾した。一葉には分かっていた。彼が首を縦に振ったのは、こちらが提示したビジネス上の条件に魅力を感じたからではない。ただ、一葉の技術で、母親をもう一度立たせてほしい……その一心から、彼はこれほどまでに潔く協力を決断したのだ。烈があれほどの好条件を提示したにもかかわらず、交渉をまとめられなかったのに対し、一葉はわずかな時間で契約を取り付けてしまった。その光景に、一葉はふと、かつての恩師の言葉を思い出していた。「十分に高い場所に立ち、十分な能力と、誰かにとって有用な存在でありさえすれば、何が起きようと、何をしようと、あなたを必要とする多くの人々が、あなたを守ってくれる。あなたを助けてくれる」事実は、まさにその通りだった。人は、どんな時も、自分の学びや仕事を諦めてはならない。自分が強ければ、全ては順調に進み、道はいくらでも開けていくのだ。自分自身を見捨てた時、世界からも見捨てられる。言吾を愛したこと自体に後悔はない。けれど、恋に目が眩んで自分の学業を投げ出してしまったことだけは、心から悔やんでいた。幸い、後になって目が覚めた。記憶を失っていた頃の自分には、感謝すらしている。正直なところ、あの頃の自分の方が好きかもしれない、と一葉は思う。心に愛がなければ、痛みもない。何をしても、頭が冴え渡っていた。大物との提携が成立するのを見届けた烈の、元より毒蛇のようだった眼差しが、一層、陰湿で険しいものへと変わっていく。隣に立つ紫苑も、さっきまでの得意げな表情を消し去り、唇を噛み締めていた。あの女の幸運も、もう尽きたはずだったのに……!慎也が連行された時、これでようやく潮目が変わったのだと、確かにそう思った。だというのに、どうして。どうしてあの女は、まだこんな幸運に恵まれているというのか。忌々しい……!自分たちが喉から手が出るほど欲しかったものを、あんなにもあっさりと手に入れてしまうなんて。烈が一葉の狙う大物を横取りしようとしたのは、妨害が目的だった。この大物を通じて、その背後にいるさらに強力な人物と接触し、言吾を救おうとする一葉の計画を阻止したかったのだ。だが、それ以上に……彼自身が、この大物との提携を熱望していた。この契約を、獅子堂家
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