そんな一葉の様子に、部屋に入ってきた言吾はすぐに気づいた。彼女がスマートフォンを手に呆然としていること、その画面に慎也との通話終了の表示が出ていることを見て、全てを察したのだろう。彼は、一葉の不安を打ち消すように、静かに言った。「心配するな。悪い知らせじゃない。尾白家との戦いの、勝敗を決する重要な一手だ」この半年の間、言吾の指揮のもと、獅子堂家はかつての勢いを取り戻し、さらなる隆盛を極めていた。そして、慎也との協力関係を深める中で、彼の仕事の内情についても、一葉以上に詳しく把握していた。彼女が何かを言う前に、言吾は言葉を続ける。「慎也さんから、もう聞いたんだろう。旭くんが無事だという話を。……信じろ。旭くんだけじゃない。慎也さんも、絶対に無事だ」「桐生家は、必ず尾白家を完全に叩き潰す」言吾が「必ず成功する」と言ったことは、これまで一度も外れたことがない。その確信に満ちた言葉は、一葉の心を不思議と落ち着かせる力を持っていた。彼女の中の漠然とした不安や恐怖が、すうっと薄れていくのを感じる。スマートフォンをテーブルに置くと、一葉は重い体を支えるようにしてゆっくりと立ち上がった。少し、庭を散歩しようと思ったのだ。出産が近いこともあり、医師からは安産のためにできるだけ歩くようにと勧められていた。そのため、毎日三十分ほど庭を歩くのが彼女の習慣となっていた。しかし、立ち上がったまさにその瞬間、腹部にただならぬ気配を感じた。何かを口にする間もなく、太腿の間を、生温かいものがつうっと流れ落ちていく感覚があった。出産に関する知識をひと通り学んでいた一葉は、すぐにそれが何を意味するのかを理解した。破水だ。陣痛が、始まる……!一葉の異変にいち早く気づいたのは、言吾だった。彼は慌てて彼女の体を支えると、すぐさま大声で人を呼んだ。「誰か来い!すぐに医者を呼んでくれ!」別荘に常駐していた医療チームが瞬く間に駆けつけ、彼女は常々検診を受けていた病院へと緊急搬送された。妊娠期間中の徹底した栄養管理と適度な運動のおかげだろうか、病院に着いてからほどなくして、伝説に聞くような、この世のものとは思えないほどの陣痛を味わう暇もなく、彼女はあっという間に男女の双子を安産した。そのあまりのスムーズさは、数々の出産に立ち会ってきた医師たちでさえ、「双子の出産でこ
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