子供たちが三歳になった頃、千陽が二人に尋ねたことがあった。「パパとママが一緒になるのと、慎也おじさんとママが一緒になるの、どっちがいい?」と。幼い頃からずば抜けて聡明だった二人は、顔を見合わせて「どっちでもいい」と答えたという。ママが好きなら、自分たちはどちらでも構わない、と。二人は物心ついた時から常に一葉の気持ちを最優先してくれた。自分がどちらをより好んでいるかではなく、ただひたすらに母親が望むものを選んでくれる。その健気で、あまりにも愛おしい真心に触れるたび、この世に生を受けてから経験したすべての苦難は、この子たちに出会うためにあったのだと、一葉は心の底から思うのだった。三年にわたる弛まぬ努力の末、一葉が開発したスマートブレインチップが、ついに完成の時を迎えた。半身不随で寝たきりだった患者たちが、このチップによって少しずつ身体の自由を取り戻していく。その姿を目にするたび、苦しみから解放されていく人々を見るたび、この世は生きるに値すると、一葉は改めて思うのだった。自分の人生は、子供たちと、そしてこの研究のためにこそあるのだ、と。今のこの人生が、一葉は心から好きだった。変えたいなどとは、微塵も思わない。言吾に対しては、何の負い目もなかった。彼は子供たちの父親なのだから、彼らを慈しむのは当然のことだ。だが、慎也には、どうしても心のどこかで申し訳なさを感じてしまう。彼はいつも、「お前を好きなのは俺自身の問題だ。すべて俺がしたくてしたことだから、君が負い目を感じる必要などない」と言ってくれる。それでも、一葉の心から、彼に対する負い目が消えることはなかった。その想いにどうにかして応えたい一心で、一葉は完成したばかりのスマートブレインチップのグローバル特許ライセンスを、破格の低価格で旭に提供することにした。今や誰もが喉から手が出るほど欲しがり、血で血を洗う争奪戦が繰り広げられている最新技術だ。それを提示された時、これまでの人生で数々の修羅場をくぐり抜け、何事にも動じなくなっていたはずの旭でさえ、思わずといった体で、驚愕の表情を浮かべて一葉を見つめた。「……これがどれほどの利益を生むか、分かっているのか」一葉は彼に静かに微笑み返し、ええ、と頷いた。どれほどの莫大な利益になるかは理解している。けれど一葉にとって、
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