茉莉が目を覚ましたのは、見知らぬ寝室の中だった。部屋の灯りは消えていて、鼻先に漂うのは重厚な白檀の香り。深く息を吸い込むと心がほどけるように落ち着く。薄闇の中でも分かる、この部屋は灰と黒を基調とした、簡素ながらも洗練された——まさに男のための寝室だった。静寂の中、ただ外のリビングから琢真の低い声が漏れ聞こえてくる。どうやら電話をしているらしい。茉莉はようやく思い出した。けれど、ふと布団を引き寄せて鼻を埋めると、それは琢真の香り……彼のベッドなのだと気づいてしまう。頬が一気に赤く染まった。慌てて灯りをつけると、自分はいまだに昼間の服のまま。どうやって彼に抱き上げられてここまで来たのか、そしてどうしてこんなに熟睡してしまったのか——自分でも呆れるほどだった。……リビングでは、琢真が大きな窓辺に立ち、携帯を握りしめながら輝と話していた。声は低く抑えられ、眠っている少女を起こさぬよう気遣っている。「ええ、今夜は戻りません。マンションで過ごします。明日の朝、彼女を学校へ送ります」……そのとき、寝室から物音がして、琢真は通話を切った。足早に戻ると、布団を抱えて鼻に押し当てる茉莉の姿が目に飛び込む。子犬のような仕草に、彼は呆れ半分、微笑半分でドア枠にもたれかかった。「シーツと布団カバーは一週間ごとに替える。よほど汚した時以外はな」言外の意味に気づいた茉莉の顔は、瞬く間に真っ赤になる。細い足がベッドの縁からぶらぶらと揺れる様子は、琢真の視線にはあまりにも刺激的に映った。「おうちに帰りたい」「おじさんにはもう伝えてある。今夜はここに泊まれ。明日の朝、ちゃんと学校へ送るから。勉強に差し支えはない」言葉を飲み込んだ茉莉は、それが問題ではないのに……と胸の内で反発する。彼はそんな心の動きを見透かしたように、首を回して小さくため息をついた。「俺、もう二日近くまともに寝てないんだ。しかも外は大雨……どうしても帰りたいなら、送っていくけどな」弱音を織り交ぜる男は、いつだって女心を揺さぶる。茉莉は慌てて目を丸くした。「二日も寝てないの!?だったら、早く寝ればいいのに……」「でも……お前が無理してるんじゃないかと思うと」「無理なんかじゃ……ないよ」——けれど声は今にも泣き出しそうに震えていた。——なん
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