美羽は二階のバルコニーに立つ琢真を見つけると、ふわふわの声で叫んだ。「お兄ちゃん、早く降りてきて!きれいな灯りがいっぱいだよ!」その声に釣られるように、輝が上を見上げる。老いも若きも、二人の男の視線が空中でぶつかり合った。琢真は真っ直ぐに彼を見つめ、一歩も退かない。しばし視線が絡み合い、やがて茉莉の声が響いた。「お兄ちゃん!パパが線香花火いっぱい買ってきたよ!」琢真の瞳がわずかに揺らぎ、やっと返事をした。「今行く」部屋に戻り、ロングダウンを羽織り、クローゼットから羊毛のマフラーを二本取り出す。階下に降りると、妹たちをひとりずつ捕まえ、丁寧に首元へ巻いてやった。茉莉は「暖かい!」と笑みをこぼす。だが美羽は不満げに頭を振る。琢真はきゅっと結び直して言った。「我慢しろ。風邪引いたら大変だ」その時、輝が倉庫から束になった線香花火を持ち出してきた。火を点け、少女たちに手渡す。群青の暮色のもと、星のように瞬く灯りに照らされ、美羽と茉莉の笑顔は雪の白さに溶け込むように明るく、無邪気に輝いていた。足元には厚く積もった雪。けれど二人の小さな足は濡れることがない。瑠璃の母が心を込めて用意した特別な靴が、しっかりと守っていたからだ。美羽は本当に大切にされていた。——結局、胸の奥でぎこちなさを抱えているのは自分だけなのだ。あの子は実の娘と何ひとつ変わらぬほどに愛されている。燃え立つ火の光が、少女たちの顔をやわらかく染め上げていた。琢真は参加せず、ただ玄関の階段に立って眺めていた。そこへ黒一色の姿が近づき、彼の隣にしゃがみ込む。逆に、大人が低く、少年が高くなる構図となった。輝はポケットからタバコを取り出し、一本咥える。「雅彦さんに叱られそうだから我慢してるが、本当はお前にも味を教えたいところだ」琢真は黙ったままだった。心の中で思う。——大人になれば、きっと自分も煙草を口にするのだろう。商売の世界では避けられない。だが今は興味もない。輝は火を点け、煙をくゆらせながら横目で少年を見やる。「英国に行くのは勉強のためだぞ。ガキのうちから恋なんてするな……もしやったら、俺が飛んでって脚をへし折ってやる。お前の父さんから正式に権限を預かってるんだからな」琢真は心の中で驚いた
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