◆◆◆◆◆(地下の食料庫)「ねえ、エレノア、領地の別邸って馬車でどれくらいかかるの?」ミアは片付けをしながらそう尋ねたが、すぐに腰が痛くなり、小麦袋に腰を掛けた。エレノアは手を止めることなく静かに答える。「馬車だと三時間くらいですね。本邸にはセドリック様のご両親が住んでいますが、別邸には管理人だけですので、掃除や準備も必要かもしれません」「三時間!? そんなにかかるの? 最悪だわ」ミアは思わず大きな声を上げたが、エレノアは落ち着いた口調で返す。「遠い領地もありますから、三時間で済むのは近い方かと」「そうだけど……でも、三時間も馬車に乗るのはルイ様の体に負担だわ」ミアの言葉にエレノアも頷き口を開く。「それは気になりますね、ミアさん」「呼び捨てでいいのよ。私もエレノアって呼んでるし」「そうですね……では、ミア」エレノアは芋を手際よく選別しながら、箱に詰めていく。その働きぶりを眺めながら、ミアは愚痴を漏らした。「男って、なんで狩りなんか好きなんだろうね? キツネ狩りとか、野蛮じゃない?」「……私は毎年のキツネ狩りが楽しみですけど」「そうなの? けっこう野蛮な趣味してるのね」「野蛮、ですか? でも……参加した使用人には、セドリック様からキツネの毛皮で作った小物が頂けるのです。それが、みんなの密かな楽しみで…」ミアは驚いてエレノアを見つめた。――キツネの毛皮ですって!?「たとえば毛皮のコートとか?」「奥様やお嬢様には毎年、毛皮のコートが贈られますね。私はファーをいただいたことがありますが、仕立てがよくて一生ものです」「私も毛皮のコートを貰うわ」「いえ……使用人はコートは貰えないかと」エレノアの言葉に、ミアはムッとし立ち上がり反論した。「私は使用人じゃないわ! ルイの母親の私がコートをもらえないなんて、ありえないでしょ!」「そ、そうですね……ごめんなさい」「わかればいいのよ」ミアはため息をつきながら、再び小麦袋に腰を下ろした。――ヴィオレットもまだ家にいるなんて。セドリックに愛されていないと分かっているなら、さっさと実家に帰ればいいのに。「……ヴィオレット様って、今年のキツネ狩りにも参加するのかな?」「リリアーナ様が別邸をとても気に入っているので、きっとご一緒されるでしょう。あちらには広い花畑や湖があるので、お嬢様
Last Updated : 2025-05-30 Read more