◆◆◆◆◆澄んだ秋の空気が屋敷を包む朝、二台の馬車が門を抜け、王都の街中を進んでいく。石畳の道が続き、車輪が石を踏む心地よい音が響いていた。ヴィオレットの乗る後方の馬車では、リリアーナが窓の外を見ながら楽しげな声を上げていた。「母上、見て!人がたくさんいるよ!」「本当に。王都の朝はにぎやかね。別邸に着く頃には、もっと違う景色が見られるわ。」ヴィオレットは娘に向かい微笑みを浮かべたが、その瞳にはどこか憂いが混じっていた。出発前の御者の仕草が脳裏をよぎり、心に暗い影を落としていた。――あの動作、まるで演じているようだった。御者の服装はいつも通りだったが、その手綱を操る動きや馬の扱いが普段の御者とはどこか違った。優雅すぎる手つきに、ヴィオレットの胸には小さな違和感が広がっていた。――一方、前方の馬車では、セドリックが腕の中に小さなルイを抱きしめていた。その目は穏やかにルイを見つめており、彼の小さな仕草一つ一つを愛おしそうに眺めている。「ルイは元気ね。父親に抱かれて安心してるのね。」隣に座るミアが話しかけるが、セドリックの反応は素っ気ない。「ああ。」それだけ言うと、再びルイに視線を戻し、優しく頭を撫でる。ミアはその態度に不満を覚えつつも、別の楽しいことを思い浮かべ気を紛らわせた。――ヴィオレットなんて消えてしまえばいい。ミアは馬車の窓から外を見ながら、密かに夢想を巡らせる。この旅路の終わりに、ヴィオレットとリリアーナが死ぬ。そう考えると、ミアの胸の内に暗い喜びが湧き上がった。――私はアシュフォード侯爵家の女主人になるのよ。使用人たちに囲まれ、立派な当主へと成長するルイを見守る自分の姿。それを思い浮かべるたび、彼女の心は甘美な勝利感に満たされていった。◇◇◇街道はさらに寂しげな風景へと変わり、人影のない道が続き始めた。そのとき、前方の馬車が突然ガクンと大きく揺れ、御者が声を上げた。「車輪が外れました!立ち往生です!」馬車が大きく揺れた瞬間、セドリックはとっさに腕の中のルイを抱え直した。小さな体が揺れるのを最小限に抑え、力を込めて抱き寄せる。「大丈夫か、ルイ?」「ふにあ、ふにぁ~、にゃーー!」ルイが猫の様な声で泣きだすと、セドリックは優しく背中をさすりながら窓の外に目を向けた。「何が起こった?」御者たちが馬車を囲み、壊れた車
Terakhir Diperbarui : 2025-06-10 Baca selengkapnya