◆◆◆◆◆血まみれの男が玉座の間に足を踏み入れた瞬間、広間の空気が凍りついた。全員の視線が、一斉に彼へと向かう。セドリック・アシュフォード。彼の顔にも手にも、鮮血がこびりついていた。赤黒い雫が床に滴り、大理石の冷たい表面を汚していく。貴族たちは息を呑み、異端審問官たちの顔色が変わる。しかし、セドリックはまっすぐに進み出ると、アウグストを指さした。「……アウグスト、お前が望んだ通り、俺は王の前で全てを証言する」低く、しかし確かな声だった。その瞳には、今までの迷いや苦悩は微塵もなかった。「だが、お前の思い通りには行かないぞ。俺はもう誰の支配も受けない」静かに、だが確かにセドリックは告げた。「誰の命令にも応じない。俺は自由だ!」彼の血塗れの手がぎゅっと拳を握る。「この手で殺してやった……!」ざわめきが広がる。「……父を」誰かが息を呑む音が響いた。「アシュフォード伯爵を……?」「ガブリエル・アシュフォードが死んだ?」貴族たちが動揺する中、セドリックは静かに続けた。「ミアを殺したな、アウグスト?」アウグストの目がわずかに揺らぐ。だが、セドリックはそのまま言葉を続けた。「ヴィオレットを貶めるために、お前はミアを殺した。ヴィオレットを異端者として裁くために!」王や王太子をはじめ、貴族たちの間に大きなどよめきが広がる。「ヴィオレットの異端さを俺たちに証言させようとしたんだよな?残念だったな。ヴィオレットは無実だ。ミアを殺したのはお前だからだ、アウグスト!」貴族たちの間に、静かな怒りが広がる。「枢機卿が証言を捏造しようとしたのか……?」「では、ヴィオレット・アシュフォードは無実だったのか?」「そんな……」騒然とする中、セドリックの声はなおも響く。「ミアは……馬鹿だったが、俺は愛していた。それに、ミアはルイの母親で……ルイは俺の子だ」その言葉に、彼の瞳が悲痛に歪む。「そうだ、あんなに似ているのに……俺の子供でないなんて、おかしい!ルイは俺の子だ!!」セドリックは叫ぶように言い放つ。「だけど、父はルイまで殺そうとした……だから、俺は父を殺した!」空気が張り詰める。「お前がミアを殺し、お前が俺に父を殺させたんだ! アウグスト!」その叫びと共に、広間がざわめきに包まれた。「枢機卿が人殺し?」「…神に仕えるも
Last Updated : 2025-07-30 Read more