◆◆◆◆◆「貴方に会えて……嬉しいわ」親しげに寄るミアの手。その指先が、そっとセドリックの腕に触れる。その温もりが、セドリックにはやけに生々しく感じられた。次の瞬間――「……っ!」セドリックは不快感を露わにし、その手を乱暴に払いのけた。「あっ……」驚いたミアが小さく声を漏らし、怯えたようにセドリックを見つめる。彼女を迎えたのは、冷え切ったセドリックの視線だった。ミアは動揺して視線をさまよわせて、ガブリエルを視界にとらえる。ソファに腰掛けるガブリエル・アシュフォードは、黄金の瞳を冷たく光らせながら、手元の杖を軽く指で叩いている。その音は、まるで処刑の鐘のように静かに響いていた。「……っ」再びセドリックに視線を戻すと、彼の表情には何の感情も浮かんでいない。ただ沈黙の中で、鋭い視線が彼女を射抜いていた。――かつては愛を囁き合ったのに。すでにセドリックにとって、それは過去のことなのか。腹の底から冷たくなる。冷たい怒り。だが、ここで激情を見せるわけにはいかない。ミアはぐっと気持ちを抑えた。セドリックを味方につけなければ、自分の未来はない。だからこそ、彼女は弱者の立場を演じることにした。「……私は、ルーベンス家の牢に閉じ込められていました」ゆっくりと、息を整えながら口を開く。「暗く、冷たい石の部屋で、ただ時間だけが過ぎていく。食事もまともに与えられず、身の回りの世話をしてくれる者もいなかった……。私は、どれほど耐え忍んだことか……」声は震え、わずかに目を伏せる。しかし――セドリックもガブリエルも、微動だにしない。「本当に、酷い目に遭いました……」ミアはそう言いながら、そっとセドリックを見上げる。助けを求める女の瞳。出逢った頃のセドリックは、この目を向けるだけで動揺して、優しい言葉を囁いてくれた。だが、彼の青い瞳は今や氷のように冷たい。「それで?」彼はただ、それだけを返す。ミアの唇がわずかに歪む。「……え?」「手紙だ。お前がここへ来た理由は、それを渡すためだろう?」冷たい声が部屋に響く。ミアは内心で舌打ちした。期待していた反応と違っていたからだ。彼らが少しでも同情を寄せてくれればと思ったのに、まるで無関心のようにあしらわれた。――ここで引くわけにはいかない。ミアは表情を整え、可憐な笑みを浮かべた。「……え
Last Updated : 2025-06-30 Read more