◆◆◆◆◆「教会は離縁届を受け入れなかった。」アルフォンスの冷静な言葉に、ヴィオレットは驚きのあまり息を呑んだ。震える手で持っていたカップをそっとテーブルに置く。陶器が小さな音を立てて触れ合い、そのかすかな響きが書斎の緊張した空気に広がった。その様子をじっと見守っていたレオンハルトが、静かに口を開いた。「セドリックが裏で手を回したのだろうな。」彼の声には冷ややかな確信がこもっていた。レオンハルトはカップを置き、窓の外に目を向ける。その軽く上がった眉は、内心の苛立ちをわずかに表しているようだった。彼の視線は紅葉した庭の向こうを捉えながらも、どこか遠くを見つめている。「……やっぱりそうなのですね。」ヴィオレットの声はかすかに震えていた。その言葉にアルフォンスは眉間にわずかな皺を寄せた。「教会の言い分では、女性側からの離縁届を正式に受け入れることはできないとのことだ。しかし、近年は相当の献金をすれば女性側からの離縁届も受け入れることが慣例となっている。それが通らないとなると、セドリックの影響があったと考えるのが妥当だ。」アルフォンスは静かにため息をつきながら、手元のカップを持ち上げた。「これでは、離縁の成立は厳しい。」ヴィオレットはそっと顔を上げた。その瞳には微かな涙が浮かんでいるようにも見えた。「私が…もっと何かできたら。」その声は小さく震えていたが、その言葉にアルフォンスは柔らかい視線を向けた。「ヴィオレット、君のせいではない。セドリックが執着するのは、彼の問題だ。」「でも…リリアーナのことを考えると、このままでは。」「だからこそ、私が進めている。」アルフォンスの声は静かだったが、その言葉には深い決意が込められていた。「君の負担を減らすために動いているんだ。それを信じてほしい。」ヴィオレットは兄の言葉に、少しだけ唇を緩めて微笑んだ。「感謝します、兄上。」アルフォンスはその微笑みに一瞬見惚れ、身を乗り出して彼女の手を取った。「ヴィオレット。」彼は優しく妹の手を握り、その温もりを確かめるように指を絡めた。「君は、もう十分に耐えた。これからは私に頼りなさい。」ヴィオレットは驚いたように兄を見つめたが、その瞳には次第に涙が浮かんだ。「兄上…本当に、ありがとうございます。」その涙を見たアルフォンスは、小さく息をつきながら彼
Terakhir Diperbarui : 2025-06-20 Baca selengkapnya