◆◆◆◆◆王城の白亜の回廊を、革靴の音が静かに響いた。アルフォンス・ルーベンスは、朝から王城に出仕し、貴族たちとの応対に追われていた。冬の光が差し込む執務室で書類を整理していたその時――バサッ突如、窓辺に影が落ちた。アルフォンスが視線を向けると、窓の欄干に一羽の鷹が舞い降りていた。「……邸からか」彼は素早く窓を開き、鷹の足に結びつけられた小さな筒を外す。指先で封を解き、紙片を広げると、そこには執事クリスの端正な筆跡が綴られていた。『旦那様、緊急の報告です。先ほど、ヴィオレット様を探して異端審問官と衛兵が邸を訪れました。ミア・グリーンが殺害され、その疑いがヴィオレット様にかかっているようです。ヴィオレット様はすでに自宅を発たれましたが、とりあえず邸にいると誤魔化しております』「……何?」アルフォンスの表情が険しくなる。ミアが殺害された? それも、ヴィオレットが疑われている?手紙を握りしめる指が、無意識に強張った。「……セドリック」低く名を呟く。ミアの処理は、セドリック・アシュフォードに任せていた。だが、まさかこのような雑な対応をするとは思わなかった。もしミアを始末するにしても、闇に葬るだろうと思っていた。それを、こんな形で発見され、王都中に広まるとは……。考えがまとまらぬまま、アルフォンスは深く息を吐いた。なぜ、セドリックはそんな杜撰な計画を立てたのか?家名を汚すことになるのに、なぜミアを殺した?ヴィオレットに罪を着せるつもりだったとしても、あまりにも危険すぎる。こんな稚拙な方法を選ぶとは思えない。「……何かがおかしい」ーーもしミアの死がセドリックの意思ではないのなら、彼に何が起こっている?「……くそ」苛立ちと焦燥が入り混じる。ミアの死は、ヴィオレットの危機に直結する。王都に広がる異端審問の噂を考えれば、教会は証拠の有無に関わらず彼女を拘束しようとするだろう。「ヴィオレット……」アルフォンスは窓辺に立ち、鋭く息を吐いた。ーー焦るな。まずは、彼女の安全を確保することが最優先だ。筆を取り、素早く指示を書き記した。『ヴィオレットの安全確保を最優先とする。領地の兵を向かわせ、彼女の到着を援護せよ』手早く筒に封をし、それを一羽の鷹の足に括り付ける。「頼んだぞ」窓を開き、送り出すと、鷹は勢いよく翼を
Last Updated : 2025-07-10 Read more